二年目六月 何をされたっていいのに
前半はコメディ回。これもうきららじゃん。
月毎で書いてると六月って書くの難しい。
土用の丑の日って七月だろとかは言わないお約束。
梅雨になったけど、今年は散発的に降るばっかりで、何日も雨が続く、ということはない。代わりに降ったりやんだりのムラが激しい。
けど天気自体は曇ってばっかりでそんなに良くないし、湿気もひどい。
洗濯物もあんまり乾かないし困ってしまう。降らないだけましなのかな。今日はもう乾燥機かけて部屋に干しちゃってるけど。
あー、でもどうなんだろ。今日も降るかな? 降らないかな? 夕方とか降りやすいし、何となく降る気がするんだよなあ。まだ時間は全然早いけど、今のうちにお買い物済ませとこうかな。十時だしスーパーは開いてるし。
ちょうどそんな時、メールの通知音が鳴った。恭子かな? 携帯電話を取って見ると、やっぱり恭子だった。なんだろ。
『申し訳ない、魚シゴウしてもらえんかな』
随分と珍しいお願い。恭子も恭子のお父さんも魚釣りするらしくて、魚裁くのはできるはずなのに。なんでだろ。いいけど。
『いいよ、ちょっと待ってて』
そんなわけで出掛けることにしたけど、一応折りたたみ傘を鞄に入れて、濡れてもいい靴にしておいた。
恭子の家に着くと、合鍵を使っておじゃましますと声をかけてから中に入る。
「恭子、いる?」
呼ぶと彼女は台所から顔を出した。
「ほいほい。ごめんね来てもろうてから」
「ううん、大丈夫。それより魚だよね」
「うん、台所におるんよ」
「どれだろ」
「クーラーボックスの中に」
あ、これかな。蓋を開けると、中にはウナギが二匹元気に泳いでいた。えっ、ウナギ?
「……何で?」
「昨日の夜ちょっと釣りに行ってねえ。朝まで粘っとったらそれが釣れたんよ」
まあウナギも釣れることもあるだろうけど。
「何とかシゴウできんかねえ?」
「うーん、さすがに無理だよ」
「さすがに小春でもいけんよねえ。どうしようかいねえ、これ」
「うん、ここじゃあ」
「ここじゃあ?」
珍しく、彼女はぎょっとした顔をした。
「うん、ちょっとここじゃ道具がないからさ」
「シゴウはできるん?」
「できるよ。多分。アナゴとおんなじでいいと思うし」
一応調べてみる。やっぱりアナゴとほぼ変わらないみたい。なら大丈夫かな。
「どうする? うちに持ってきてくれればやるけど」
「うん、持ってくけえお願い。さすがにペットにするわけにもいかんし」
「生命力強いし普通に飼えると思うけど」
「いやね、そいつら脱走するんよ」
「脱走するんだ」
彼女は苦笑いしながら言い、それを聞いて私も苦笑いしてしまった。
「ほいでロックのかかるクーラーボックスにいれとるんよ。バケツに入れとったら脱走したけえ」
「そんなになんだね」
ウナギって生命力以外も凄いんだなあ。でもうん、まあそうだね、さすがに飼うのはちょっとね。太くて美味しそうだし。
「とりあえず早い内にやった方がいいよね。行こっか」
「うん、行こう」
恭子はクーラーボックスを肩に担いだ。水入ってるのに重くないのかな?
家に着くと、道具を準備する。木のまな板に目釘に眼鏡。あと軍手もいるかな。
「眼鏡? なんで調理器具のとこから出てくるん? ていうかレンズでかいね」
「それ伊達眼鏡。血とかが目に入らないようにするの。下手したら失明とかしちゃうこともあるらしいからさ。そもそも私別に目悪くないの知ってるよね」
「うん、知ってるけど。そっか、毒あるんじゃねえ」
「そうそう。だから裁いてるときは近くに来ないようにね。跳ねたらよくないから」
エプロンと三角巾と眼鏡と軍手を装着する。 じゃあやっていこうかな。あ、恭子離れて見てるや。ええっと、まず……。
「おお……」
首から背骨切って血抜きして目打ちして裂いて開いて、内臓取って骨取って洗って血を取ってぬめりも取って。
「できたよ」
「早っ!」
「とりあえず一枚だけど。どうするの、これ。結構量あるけど。お昼ご飯にする?」
「あ、それいいね。蒲焼きにしてうな丼にして食べようや」
「二枚とも全部蒲焼きにする? するんなら、それも私やっちゃおうか?」
「いいん?」
「それぐらいなら全然いいよ。あ、でもどうする? 炭で焼いたほうがいい?」
「あ、それいい。ちょい七輪取ってくる」
行っちゃった。フットワーク軽いなあ。
とりあえずうな丼にするんなら先にご飯炊いて、それから残りもやっちゃおうかな。タレと味噌汁も作っとこ。
全部捌いて串を打った辺りで恭子は帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま。外で火着けとくね」
「そうだね、お願い」
タレと味噌汁も作ると、ウナギを持って外に行く。
「準備ええよ」
「うん、わかった」
あとはもう焼いてタレに潜らせてまた焼いてを繰り返すだけ。うわ、脂凄いや。
「恭子、バケツ用意しといてもらえるかな」
「ほいほい」
恭子が金属のバケツに水を入れて持ってくる。ウナギ全部焼き終わると、炭をバケツの中に放り込んで処置。火災予防は大事。
「じゃあお昼ご飯にしようか」
二人でお昼ご飯食べて、残った分のウナギは全部恭子に持って帰って貰った。
私は全部綺麗に後片付け済ませて、改めてお買い物に行こうかな、と思った時だった。
ザー、と聞こえる。
「ザー?」
外を見ると、なかなか激しい雨が振っていた。思わずうわあ、と声が漏れる。
一応冷蔵庫を開けるけど、夕飯の材料としてはとても寂しい。
やっぱり先に行っとかないと駄目だったかな。しょうがないか。恭子に頼まれたんだし。
運が良かったらすぐ止むかもしれないしダメだったら冷凍のとか缶詰とかで作っちゃおうかな。
私は部屋に戻ると、雨が降るのをぼんやりと眺めていた。いつまでも眺めていた。
結局雨は夜まで降って、私は夜ご飯は冷凍しておいた分と缶詰で作った。
ご飯も食べてお風呂も入って、あとは寝るだけなんだけど、まだ雨は止まない。
外を見ながら息を吐く。なんだろう、変な気分。
昔の夢を見た。小学校一年か二年の時の夢。
その日も雨が振ってて。
朝、恭子と待ち合わせて学校に行く途中、側溝にはまってこけちゃって。
怪我をして、足を挫いて歩けなくなって。私、大泣きしちゃって。
そうしたら恭子、おんぶして連れて帰ってくれたんだよね。家まで連れて帰ってくれて、手当もしてくれて、二人ともどろどろになってたからお風呂に入って。そう、あの時、うちパンツ持っとらん!とか言ってたよね。
私の服と下着貸して、学校行けないね。なんて話をしてたら、お母さんが凄い顔しながら帰ってきて。
二人揃って凄く怒られたんだ。
あの時もずっと手を繋いでてくれて。私が怖くないようにしてくれて。何を言われてもうちが悪いの一点張りで。
私は怖くて何も言えなかったのにね。
ずっと恭子が守ってくれてたよね。あの時も、その前も、それからも。ずっとずっと。
ごめんね、私、守られてばっかりで。なんにもしてあげられなくて。こんな私じゃああなたの隣にいちゃ駄目かな。私じゃああなたと一緒にいるのは相応しくないかな。
それでも一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。
私はあなたが好き。
どうしてこの気持ちは、こんなにも許されない?
そんなことわかってる。それでも、うん、そう。あなたが好き。
手を繋いでいたい。キスしたい。抱き合いたい。それ以上のことも。
ごめんね、私、気持ち悪い子で。ほら、こんなに気持ち悪い。
あなたになら何をされたっていいのに、あなたが何かすることなんてない。そんなこともわかってる。それでも。
せめて近くにいたい。隣にいたい。私じゃあ駄目なのかな? 私じゃあ足りないのかな?
わかんない。
もし私が邪魔だったら、私が恭子を邪魔してたらごめんね。ごめん。本当にごめんなさい。
どうか、捨てないで下さい。
体が跳ねるような感覚。それで目を覚ました。
まだ三時過ぎ。起きるにしても早すぎる。
泣いてたのかな? 枕もパジャマも濡れてる。気圧のせいかな、少し頭も痛いや。
雨はまだ降ってる。私はそれを、ぼんやりと眺めた。




