↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇医者の俺、魂を抜いて身体を作り直します  作者: 大豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

王都を蝕む魂

王都中央広場へ向かう大通りは、すでに混乱していた。

人が倒れている。一人や二人ではない。道端に座り込んでいる者、突然意識を失った者、苦しそうに胸を押さえている者。その数は、俺たちが広場へ近づくほど増えていった。


「こっちだ!」


ヴァルドが叫ぶ。

その先では、王国騎士団が倒れた人々を運んでいた。聖療院の治癒師たちも駆け回っている。


だが、状況は改善していない。むしろ悪化している。


「治癒魔法が効かない!」


「意識が戻らないぞ!」


「原因が分からない!」


そんな声が飛び交っていた。

俺は倒れている男の前にしゃがみ込む。


「触るぞ」


返事はない。俺は魂を見る。


「……やはりか」


黒い亀裂。昨日の騎士と同じ術式。だが、規模が違う。この男の魂には、黒い魔力が大量に流れ込んでいる。しかも、周囲にいる人間同士で魔力が繋がっている。

一人の魂から別の魂へ。さらに別の魂へ。王都全体が、一つの巨大な術式になっている。


「先生、助けられますか?」


ミアが聞く。


「ああ」


「本当に?」


「ただし、問題がある」


俺は立ち上がった。


「一人ずつ治していたら間に合わない」


「じゃあ……」


「術式そのものを止める」


俺は中央広場を見渡した。広場の中央には巨大な噴水がある。その周囲に、見えない魔力の線が伸びている。

北へ。南へ。東へ。西へ。まるで王都全体を巨大な魔法陣として利用しているようだった。


「術式の中心はどこだ?」


ヴァルドが聞く。


「地下だ」


「地下?」


「この広場の下にある」


俺は地面を見る。


「ただし、ここから直接壊すと危険だ」


「なぜだ?」


「術式に繋がっている魂が多すぎる」


一気に術式を破壊すれば、接続されている魂まで巻き込まれる。数百。下手をすれば数千。一度に全員が死ぬ。


「……なら、どうする?」


「逆に使う」


「何を?」


「この術式を」


俺は倒れている人間を見る。魂へ伸びている黒い魔力。その流れを辿る。


「こいつらの魂を、術式から一人ずつ切り離す」


「そんなことができるのか?」


「できる」


「全員を?」


「時間があればな」


俺は広場の中心へ歩いた。


「ミア」


「はい」


「ここから動くな」


「え?」


「お前が魂を抜かれると困る」


「私も……?」


「術式の範囲内にいる以上、可能性はある」


ミアの顔が青ざめる。


「分かりました」


「ヴァルド」


「なんだ」


「お前はミアを守れ」


「分かった」


俺は広場に倒れている人間の一人へ近づいた。


「始める」


《魂魄離脱》。


魂が肉体から抜ける。俺は黒い術式を確認する。そして、魂へ繋がる線を一本ずつ切断した。


《魂魄切除》。


黒い魔力が消える。魂そのものには傷をつけない。


「よし」


俺は新しい身体を構築する。そして最後に魂を戻す。


「《魂魄定着》」


男が息を吸った。


「……っ!」


目を開く。


「ここは……?」


周囲からどよめきが起こった。


「生き返った……?」


「いや、さっき確かに死んで――」


俺は次の患者へ向かった。


「次」


一人。また一人。

魂を抜く。術式を切る。魂を修復する。身体を作る。魂を戻す。

一人につき数分。普通の医者なら到底できない。だが、俺にとってはそれが治療だった。やがて広場にいた人間が、次々と立ち上がっていく。聖療院の治癒師たちは、ただ呆然と見ていた。


「……あれが」


誰かが呟いた。


「闇医者の治療……」


俺は最後の一人を立ち上がらせる。

その瞬間だった。地面が揺れた。


「何だ!」


ヴァルドが叫ぶ。

広場の石畳に亀裂が走る。そして、地面の下から黒い光が噴き出した。


「術式が動き始めた」


俺は目を細める。さっきまで患者たちへ流れていた黒い魔力が、一斉に地下へ流れ始めている。


「魂を切り離されたことに気づいたか」


「まずいのか?」


「ああ」


地面がさらに揺れる。


「向こうは予定を変更した」


「何をするつもりだ?」


「分からない」


俺は地下を見る。正確には、地下にある巨大な術式を見る。魔力が集まっている。数百人分。いや、それだけではない。王都の外からも魔力が流れ込んでいる。


「……こんなもの、どこから」


その瞬間。王都の上空に黒い光が現れた。巨大な魔法陣。街全体を覆うほどの大きさだ。

人々が悲鳴を上げる。俺は空を見上げた。


「始まったか」


「何が?」


ヴァルドが尋ねる。


「召喚術だ」


「召喚?」


「ああ」


俺は魔法陣を睨んだ。


「何かを、この世界へ呼び出そうとしている」


黒い魔法陣の中心が開いていく。まるで巨大な門のように。その向こう側には、何も見えない。ただ、無数の光が浮かんでいた。


魂だ。数え切れないほどの魂が、門の向こうに存在している。

俺は息を止めた。


「……魂の向こう側」


昨日、あの男が言った言葉。


『門を開く』


『魂の向こう側へ』


その意味を、ようやく理解した。あの術式は、人間を殺すためのものではない。魂を集めるためのものだった。そして集めた魂を使って、世界と魂の境界に穴を開けている。


「先生」


ミアの声が震える。


「向こうに……何がいるんですか?」


「分からない」


俺は答えた。

だが、次の瞬間、門の向こうから巨大な何かがこちらを覗いた。人間のものではない。巨大な眼。その眼が王都を見下ろす。


そして――俺を見た。


「……」


俺は無意識に拳を握った。門の向こうにいる存在が、俺を認識している。それは偶然ではない。俺の魂魔法に反応している。


「先生?」


「ミア」


「はい」


「逃げろ」


「え?」


「ヴァルドと一緒に王都から出ろ」


「でも……」


「今度は俺が患者になるかもしれない」


ヴァルドが剣を抜いた。


「どういう意味だ?」


「俺の魂魔法が、あれを呼び寄せた可能性がある」


「そんな……」


俺は空を見上げた。巨大な眼が、こちらを見ている。そして門の向こうから、声が響いた。人間の声ではない。言葉ですらない。それでも意味だけが、魂へ直接流れ込んできた。


――見つけた。


俺は初めて、自分の魂が震えるのを感じた。


「……俺を知っているのか」


返事はない。ただ、巨大な門がさらに開いていく。俺は杖も剣も持っていない。必要ない。俺に必要なのは、この魂魔法だけだ。


「なら、来い」


俺は空を睨んだ。


「俺が治してやる」


門の向こうの存在が、再びこちらを見る。俺はその魂を視た。

そして――初めて、恐怖を覚えた。あれには、魂がない。


いや。正確には違う。あれ自身が――無数の魂を一つにして作られた存在だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。