↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇医者の俺、魂を抜いて身体を作り直します  作者: 大豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/20

騎士の魂に刻まれた傷

「……なるほど」


俺は騎士の魂を見つめた。


肉体だけを見れば、健康そのものだ。鎧の下に多少の古傷はあるが、命に関わるようなものではない。


だが、魂は違った。胸の奥に、黒い亀裂が走っている。その亀裂から、わずかな魔力が流れ込んでいた。昨日の少女と同じだ。


「何がおかしい!」


騎士が剣の柄に手をかける。


「俺は王国騎士団所属だ。抵抗すれば反逆罪になるぞ」


「その前に一つ聞く」


「なんだ」


「お前、最近妙な夢を見なかったか?」


騎士の表情が止まった。ほんの一瞬だった。だが、俺には十分だった。


「……なぜ、それを」


「やはりか」


俺は確信した。こいつも被害者だ。


騎士の後ろには、白い法衣を着た男たちが立っている。その胸元には聖療院の紋章。


先頭にいる男が一歩前へ出た。


「くだらない話をするな、闇医者」


男は五十歳ほど。細身で、白い髭を蓄えている。聖療院の上級治癒師だろう。


「私は聖療院の第五席、ローディン。貴様の魂魔法について調査に来た」


「調査?」


「そうだ。貴様は患者の身体を破壊し、その魂を利用して新たな肉体を作っているそうだな。人の身体を勝手に作り替えるなど、医療ではない。死者を弄ぶ禁忌の魔術だ!」


「そうか」


「貴様は自分が何をしているのか理解しているのか?」


「理解している」


「ならば、なぜ続ける!」


俺は少し考えた。そして答えた。


「治るからだ」


ローディンが黙った。


「腕を失った患者は腕が戻る。潰れた内臓も再生できる。毒も病気も、魂に残った情報を修正すれば取り除ける。治せるのに、治さない理由がない」


「それは……」


「お前たちの治癒魔法では治せない。それだけの話だ」


「貴様……!」


ローディンの顔が赤くなる。だが、俺にはどうでもいい。

俺が気になっているのは、目の前の騎士だ。


「おい」


「……なんだ」


「お前の魂、誰かに触られたな」


騎士の顔色が変わった。


「何を言っている」


「三日前の夜。王都西区で魔物討伐に参加した」


「……」


「そこで黒い武器を持った男を見た」


騎士は答えない。


「違うか?」


「……なぜ知っている」


「魂に残っている」


俺は騎士を指差した。


「お前の魂には、そのときの記憶が残っている」


ローディンが慌てて口を挟んだ。


「待て。魂を覗いたのか?」


「そうだ」


「それは重大な禁忌だぞ!」


「なら、この騎士が死ぬまで放置するのか?」


ローディンが黙った。

俺は騎士に近づく。


「その黒い亀裂は放っておけば広がる」


「……どれくらいだ」


「三日から一週間」


「そんなに早く?」


「ああ」


騎士は自分の胸に手を当てた。


「俺は……死ぬのか?」


「何もしなければな」


「治せるのか?」


「治せる」


その瞬間、ローディンが叫んだ。


「騙されるな!」


騎士が振り返る。


「聖療院なら治せる! 魂魔法など使う必要はない!」


俺はローディンを見る。


「なら、治してみろ」


「当然だ!」


「今すぐ?」


「……」


「三日後でもいい。だが、その頃にはもっと酷くなっている」


ローディンは答えなかった。騎士も黙っている。しばらくして、騎士が俺を見る。


「……頼む」


「何?」


「俺を治してくれ」


「お前は騎士団員だろう。命令に従わなくていいのか?」


「俺は……死にたくない」


その言葉は、あまりにも普通だった。俺は頷いた。


「金貨五百枚」


騎士が目を見開く。


「……五百?」


「魂の修復が必要だ。安くはない」


「分かった」


「待て!」


ローディンが叫ぶ。


「騎士団員が禁忌魔法による治療を受けることなど認められん!」


「なら、死なせればいい」


「そういう問題ではない!」


「俺にとってはそういう問題だ」


俺は騎士に向き直った。


「決めろ」


騎士はしばらく悩んだ。そして――剣を床へ置いた。


「……頼む」


「分かった」


俺は診察台を指差した。


「そこへ寝ろ」


騎士が横になる。ローディンは止めようとしたが、周囲の騎士たちは動かなかった。自分たちの仲間が死ぬかもしれない。それを理解しているのだろう。


「始める」


俺は騎士の胸へ手をかざした。


「《魂魄離脱》」


光が騎士の身体を包む。次の瞬間、肉体から魂が抜けた。

身体は死ぬ。心臓が止まり、呼吸が止まる。ローディンが息を呑んだ。


「本当に……死んだ」


「そうだ」


俺は魂を見る。黒い亀裂は、少女より深い。そして、その奥に何かが残っている。黒い魔力。だが、それだけではなかった。


「……これは」


俺は目を細めた。

黒い亀裂の奥に、極めて小さな魔法陣が刻まれている。それは、魔法陣というより印に近い。そしてその中心には――王冠のような形をした紋様があった。


「王家の紋章……?」


ローディンが呟いた。


「違う」


俺は否定する。


「似ているだけだ」


「では何だ?」


「分からない」


俺は魂をさらに解析する。すると、魔法陣の奥から微弱な信号が発せられていることに気づいた。


一定の間隔。まるで、何かに向かって位置を知らせているような――


「……発信器か」


俺は呟いた。


「何?」


ローディンが聞き返す。


「この騎士の魂には、何者かへ向けて魔力を送る術式が仕込まれている」


「そんなことが……」


「ある」


俺は黒い金属片を机から取り出した。騎士の魂に刻まれた魔法陣へ近づける。反応した。黒い金属片が、ほんのわずかに震える。


「やはり同じだ」


ヴァルドを襲った武器。少女の魂。そして、この騎士。

全部が繋がっている。


「誰かが人間の魂に印を刻んでいる」


俺は黒い魔力を見つめる。


「そして、その印を使って何かを探している」


「何を?」


ローディンが聞く。俺は答えなかった。


まだ分からない。だが、一つだけ確かなことがある。これは医療事件ではない。誰かが王都の人間を対象にして、魂へ細工している。しかも対象は冒険者だけではない。騎士まで混ざっている。


「面倒なことになったな」


俺は魔力を集中させる。


「まずは、この寄生虫を取り除く」


黒い魔力が蠢いた。

そして――騎士の魂に刻まれた魔法陣が、突然輝いた。


「……!」


俺は即座に魔力を止める。

遅かった。魔法陣の中心から、黒い光が弾ける。魂そのものを破壊しようとする魔力。


「自壊術式か」


誰かが、俺に見つかったことを想定していた。魂を調べられた瞬間、証拠ごと対象を殺す仕組み。俺は魔力を一気に流し込んだ。


「させるか」


黒い亀裂が広がる。魂が軋む。一歩間違えれば、完全に消滅する。そうなれば、身体をどれだけ完璧に作っても蘇生できない。


「……いい加減にしろ」


俺は術式の中心へ手を伸ばした。そして、黒い魔力だけを掴んだ。


「《魂魄切除》」


黒い光が消える。同時に、魂へ刻まれていた魔法陣が崩れ落ちた。残ったのは、傷ついた騎士の魂だけ。


「終わった」


俺は魂の状態を確認する。完全ではない。だが、これなら修復できる。


「身体を作る」


死んだ騎士の身体を横目に見る。必要なのは、魂に残された情報だけだ。


「《身体構築》」


骨が生まれる。筋肉が形成される。血管が伸び、神経が組み上がる。最後に脳が完成した。


「《魂魄定着》」


魂が新しい身体へ入る。心臓が動き出す。騎士が大きく息を吸った。


「……っ!」


目を開く。


「俺は……」


「治療は終わった」


騎士は自分の手を見つめる。それから身体を起こし、胸に手を当てた。


「……何も痛くない」


「当然だ」


俺は手を差し出した。


「金貨五百枚」


騎士は苦笑した。


「最後まで、それか」


「医者だからな」


騎士は立ち上がる。そしてローディンを見た。


「聖療院の先生」


「……なんだ」


「俺は、この医者に命を救われた」


ローディンは何も言わなかった。騎士たちが診療所を出ていく。最後にローディンだけが残った。


「闇医者」


「なんだ?」


「貴様は……あの術式を知っていたのか?」


「いや」


「なら、なぜ解除できた」


「俺が医者だからだ」


ローディンはしばらく俺を睨んでいた。やがて、低い声で言った。


「聖療院は、貴様を見逃さない」


「好きにしろ」


「必ず後悔するぞ」


扉が閉まる。診療所に静寂が戻った。

ミアが恐る恐る口を開く。


「先生……」


「なんだ?」


「あの人たち、敵なんですか?」


俺は黒い金属片を見る。


「まだ分からない」


「じゃあ、どうするんですか?」


俺は金属片を握った。


「調べる」


そして、俺は初めて本気で興味を持った。俺の魂魔法は、誰にも教えていない。この魔法を使える人間は、世界に俺一人しかいないはずだった。

それなのに――誰かが、俺の魔法と同じ領域に手を伸ばしている。


「……誰が魂を弄っている?」


答えはまだ出ない。

だがその夜、王都の地下では、黒いローブを纏った男が一枚の紙を燃やしていた。


そこには、たった一つの名前が書かれていた。


男は紙が灰になるのを見届けると、静かに呟いた。


「見つかったか」


そして、地下深くにある巨大な魔法陣へ魔力を流した。


「ならば、予定を早める」


魔法陣の中心で、黒い光が脈動する。

その光の先には――王都に住む、数百人分の魂が繋がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。