↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇医者の俺、魂を抜いて身体を作り直します  作者: 大豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

もう1人の俺

門の向こうから、俺と同じ顔をした存在がこちらへ手を伸ばしている。その姿を見ていると、妙な感覚があった。

敵意は感じない。殺意もない。ただ、こちらを観察している。


「お前は何者だ?」


『お前だ』


「その答えは聞き飽きた」


『ならば、別の答えをやろう』


巨大な魂が形を変える。無数の魂が剥がれ落ち、その中心から一人の男が現れた。

白い髪。黒い服。そして、俺と同じ顔。ただし、今の俺より少し若い。


「……」


俺はその顔を見つめる。

記憶にある白い塔で見た男。俺と同じ魂魔法を使っていた男。だが、完全には一致しない。


「お前は、千年前の俺か?」


『違う』


男は答える。


『私は、お前が捨てたものだ』


「捨てた?」


『記憶だ』


俺は眉を寄せる。


『お前は魂魔法を完成させるため、自分自身の魂を分割した』


「……何?」


『知識、記憶、感情、経験』


男の姿が揺らぐ。


『必要なものをすべて保存した』


「保存した?」


『そうだ』


「どこに?」


男は自分の胸を指す。


『ここに』


俺は言葉を失った。


「つまり、お前は……」


『お前の魂から切り離された記憶だ』


俺は自分の魂を見る。確かに、何かが欠けている。だが、そんなことは今まで気づかなかった。

当然だ。欠けているものが何なのか、知らなかったのだから。


「なぜ、俺は自分の記憶を切り離した?」


『忘れるためだ』


「何を?」


男は答えなかった。

代わりに、門の向こうへ視線を向ける。そこに一つの魂が浮かんでいる。


リゼ。『彼女を救えなかったことを』


俺は拳を握った。


「だから記憶を捨てた?」


『違う』


男の声が低くなる。


『お前は、彼女を救う方法を探すために捨てた』


「……」


『失敗の記憶があると、冷静な判断ができないと考えた』


「俺らしいな」


『そして、お前は魂魔法を完成させた』


男が手を伸ばす。


『身体を完全に再構築する方法を』


『魂を修復する方法を』


『魂そのものを保存する方法を』


『そして、死者を蘇らせる方法を』


俺は黙って聞いていた。どれも、今の俺が使っている魔法だった。


「じゃあ、なぜ俺はそれを覚えていない?」


『最後の実験で、失敗したからだ』


男の姿が歪む。


『お前は魂魔法の完成直後、全ての記憶を自分の魂へ戻そうとした』


「それが失敗した?」


『違う』


「では?」


『お前は自分から拒絶した』


「俺が?」


『そうだ』


男が俺を見る。


『お前は記憶を戻せば、また同じことをする』


「……」


『だから記憶を封じた』


俺はしばらく何も言わなかった。ヴァルドもミアも、黙ってこちらを見ている。やがて俺は口を開いた。


「つまり、俺は自分自身に治療を施したのか」


『そうだ』


「記憶を病気と判断して」


『そうだ』


「……馬鹿だな」


男は笑った。


『ああ』


その笑い方まで、自分に似ていた。


「リゼは?」


俺が尋ねる。男の表情が消える。


『お前は彼女を救えなかった』


「本当に?」


『一度目は』


「一度目?」


男は門の奥を指差す。


『見ろ』


無数の魂が移動する。

その中から一つの魂がこちらへ近づいてくる。

リゼ。俺は息を止めた。彼女の魂には、千年前と変わらない身体情報が残っている。ただ、魂の一部が欠けている。


「……これなら」


俺は魔力を集中させる。


「治せる」


『本当にそう思うか?』


「思う」


『お前は昔もそう言った』


「今は違う」


『何が違う?』


「経験だ」


俺はリゼの魂を見る。


「昔の俺は、魂の欠損を治せなかった」


「だが今の俺は治せる」


『それだけか?』


「それで十分だ」


俺は魔力を伸ばす。


「医者は過去の失敗を言い訳にして治療をやめたりしない」


魂の欠損部分を解析する。欠けている情報は完全には残っていない。だが、周囲の情報から推測できる。

記憶。人格。身体情報。すべてを照合する。


「……少しずつだな」


俺は慎重に修復を始める。


「《魂魄修復》」


欠けた部分が埋まっていく。

だが、リゼの魂は拒絶した。


「……なるほど」


男が言う。


『無理だ』


「そうでもない」


『魂が千年間も保存されている』


「だから?」


『損傷している』


「知っている」


『ならば、無理だ』


「違う」


俺は魔力を弱める。そして、逆に魂の動きを止める。


「急いで治す必要はない」


『……』


「千年間待ったんだ」


俺はリゼの魂を見る。


「もう少しくらい待てるだろう」


俺は欠損部分を完全に修復するのではなく、まず魂そのものを安定させる。崩壊しないように固定する。それから少しずつ欠損を埋めていく。


一時間。二時間。三時間。地下室では、誰も口を開かなかった。

やがて――


「……できた」


リゼの魂が完全な形を取り戻した。


「先生」


ミアが呟く。


「成功したんですか?」


「ああ」


「じゃあ……」


「身体を作る」


俺は新しい身体を構築する。

すべてを魂に記録された情報から作り出す。


「《身体構築》」


白い光が集まり、人間の形になる。

少女。千年前と同じ姿。

最後に魂を定着させる。


「《魂魄定着》」


少女が目を開いた。


「……」


ゆっくりと呼吸する。俺は少女の脈を確認する。正常。呼吸も正常。魂の定着も問題ない。


「成功だ」


俺が言った。

少女は周囲を見回す。そして、俺を見る。


「……先生?」


その声を聞いた瞬間。

俺の頭の中で、何かが弾けた。

千年前の記憶。白い塔。血だらけの床。倒れている少女。

そして――俺は思い出した。


「リゼ……」


「はい」


少女が微笑む。


「お久しぶりです」


俺は言葉を失った。だが、再会を喜ぶ時間はなかった。門の向こうで、もう一人の俺が崩れ始めていた。


「おい」


『問題ない』


「何が起きている?」


『役目を終えただけだ』


「待て」


俺は手を伸ばす。


『私はお前の記憶だ』


「だから何だ」


『記憶は、いつか本人へ戻る』


男の身体が光になる。


『私を取り込め』


「……」


『そして、思い出せ』


光が俺の魂へ吸い込まれていく。

その瞬間。千年前のすべての記憶が戻ってきた。

俺は――なぜ魂魔法を作ったのか。なぜリゼを救おうとしたのか。なぜ記憶を捨てたのか。そして、なぜ俺が千年間、生き続けているのか。


すべてを思い出した。

俺は目を開く。門の向こうには、もう誰もいない。

ただ一つ。新しく作られた身体の中で、リゼが俺を見ている。


「……先生」


「何だ?」


「今度は、私が先生を治してあげます」


俺は一瞬だけ黙った。


「必要ない」


「そうですか?」


「ああ」


俺は自分の魂を見る。そして、その奥に刻まれた黒い傷を確認する。


「だが、少しだけ手伝ってもらう」


「何を?」


俺は門の残骸を見る。


「この世界には、まだ俺が作った魂の網が残っている」


「……」


「それを全部、終わらせる」


俺は立ち上がった。


「今度こそ、誰も道具にしない」


その瞬間、地下施設の外から、大鐘の音が響いた。

一度。二度。三度。

ヴァルドが地上への階段を見る。


「王都からだ」


「何かあった?」


「分からない」


俺は魔力を広げる。そして、王都全体の魂を確認した。無数の魂。その中に、一つだけ異常なものがある。


巨大な魂。しかも、その魂は――王城にいる。


「……次の患者が見つかったな」


俺はそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。