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闇医者の俺、魂を抜いて身体を作り直します  作者: 大豆


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10/20

地下に眠る患者

王都の地下へ続く亀裂を、俺は一人で下っていた。背後からヴァルドの足音が聞こえる。


「待て!」


「来るなと言ったはずだ」


「お前一人で行かせられるか」


「邪魔になる」


「それでも行く」


俺は振り返った。

ヴァルドは剣を握っている。


「俺の命を救ったのはお前だ」


「だから?」


「なら、今度は俺がお前の背中を守る」


「……好きにしろ」


俺は再び歩き始めた。地下へ進むほど、空気が変わっていく。湿っているわけではない。魔力が濃い。壁そのものに魔法陣が刻まれている。それも、一つではない。無数の魔法陣が複雑に重なり合っている。


「これは……」


ヴァルドが息を呑む。


「全部、魂を繋ぐための術式だ」


「どこまで続いている?」


「王都だけじゃない」


俺は壁へ手を当てた。

魂視を使う。魔力の流れが見える。地下を走る巨大な術式は、王都の外へ伸びている。さらにその先。街から街へ。国中へ。


「……国全体だ」


「何だと?」


「この術式は、王都だけで完結していない」


俺は歩きながら説明する。


「王都は中心。周辺の街や村が魔力を送るための中継点になっている」


「なら、これを壊せば……」


「大量の魂が死ぬ」


ヴァルドが黙った。

俺は立ち止まった。目の前に巨大な扉がある。黒い金属で作られている。その表面には、あの黒い金属片と同じ魔力が流れていた。


「ここだ」


俺は扉へ手を伸ばした。触れた瞬間、魂へ魔力が流れ込んできた。


――認証。そんな感覚だった。


「開くのか?」


「いや」


俺は扉を見る。


「俺を通すつもりはない」


「なら、どうする?」


「壊す」


俺は右手を握った。


「《魂魄切除》」


魔力が扉へ走る。黒い魔力が剥がれ落ちる。扉を構成していた魔法そのものを、一部分だけ切り取った。


轟音。扉が崩れる。その向こうには、巨大な空間が広がっていた。


ヴァルドが絶句する。


「……何だ、これ」


部屋の中央に巨大な魔法陣。その周囲には、無数の柱が立っている。柱の中には人間がいた。

いや、正確には、身体ではない。魂だ。透明な球体の中に、一人分ずつ閉じ込められている。

数百。数千。それ以上。


「生きているのか?」


「魂は残っている」


「なら、助けられるか?」


俺は答えなかった。部屋の奥にあるものを見ていた。

巨大な肉塊。人間の身体に似ている。だが、完成していない。腕が何本もあり、脚の数も合わない。胸部には巨大な穴が開いている。そこから黒い魔力が噴き出している。


「……身体を作っている」


「何?」


「魂を材料にして、身体を作ろうとしている」


俺はその肉塊を見た。魂を一つにして巨大な存在を作ったのではない。

順番が逆だった。ここでは大量の魂を集め、それを使って一つの身体を作っている。


「何を作るつもりなんだ?」


ヴァルドが聞く。


「分からない」


俺は魔力を視る。


「だが、まだ完成していない」


そのとき、部屋の奥から声がした。


「完成は近い」


俺は振り向いた。黒いローブの男が立っている。

前に診療所を襲った連中とは違う。顔を隠していない。白髪の老人だった。


「ようこそ」


老人は笑った。


「魂魔法の使い手よ」


「お前が黒幕か?」


「黒幕?」


老人は首を傾げる。


「違うな。私はただの研究者だ」


「研究者?」


「ああ。人間が死を克服するための研究をしている」


俺は巨大な肉塊を見る。


「これが死の克服か?」


「そうだ」


「趣味が悪い」


老人は笑った。


「君なら理解できると思っていたよ」


「何を?」


「肉体は器に過ぎない」


俺は黙る。


「君はすでに、それを証明している」


老人は続ける。


「身体が死んでも魂が残っていれば、新しい身体を作れる。君はそれを何度も実践してきた」


「……」


「ならば、なぜ一人の身体だけを作り直す必要がある?」


老人が両手を広げる。


「魂を一つにすればいい」


「それが、あれか」


「あれはまだ未完成だ」


老人は巨大な肉塊を見上げた。


「無数の魂を一つの器へ収める」


「それで何になる?」


「死なない人間だ」


俺は老人を見る。


「違う」


「何?」


「それは人間じゃない」


老人の笑みが消える。


「魂を一つに混ぜれば、人格は消える」


「人格など必要ない」


「なら、それは生きているとは言わない」


「君は医者なのだろう?」


老人が言う。


「なら、結果だけを見ればいい」


「結果?」


「死者がいなくなる」


俺は黙った。確かに、理屈だけなら分かる。

死なない。老いない。病気にもならない。身体が壊れても、新しい身体を作ればいい。


だが――それは人間を救うこととは違う。


「魂を一つにする必要はない」


俺は言った。


「一人ずつ身体を作ればいい」


老人が目を細める。


「何?」


「お前たちは魂を集める必要なんてない」


俺は周囲の魂を見る。


「俺なら全員を個別に蘇生できる」


老人が笑った。


「それができないから、我々はこの研究をしている」


「できる」


「何?」


「ここにいる全員、助けられる」


老人の顔から笑みが消えた。


「……馬鹿な」


「魂が残っている」


俺は一番近くの球体へ手を伸ばした。


「なら、身体を作れる」


魂を取り出す。身体を構築する。魂を戻す。

一人目。二人目。三人目。次々と魂を解放していく。


だが、途中で問題に気づいた。


「……なるほど」


「何が分かった?」


ヴァルドが尋ねる。


「この魂たちは長期間拘束されている」


「それが?」


「魂そのものが弱っている」


それだけではない。大量の魂を繋いでいたせいで、互いの記憶が混ざり始めている。このまま分離すると、自我が壊れる可能性がある。


俺は手を止めた。


「どうした?」


「全員を一気に助けるのは無理だ」


老人が笑う。


「だから言っただろう」


「だが――」


俺は魂を見る。


「治療すればいい」


「治療?」


「混ざった記憶を一つずつ分離する」


老人の表情が変わった。


「そんなことが……」


「俺の専門だ」


俺は魂魔法を使う。魂の中に混ざった情報を整理する。

一人分。また一人分。魂の境界を作り直す。

そして――


「《魂魄分離》」


魂が二つに分かれる。

さらに一つ。三つ。四つ。


「……馬鹿な」


老人が呟く。

俺は止まらない。魂を治療する。身体を作る。一人ずつ戻す。


この研究者たちが何年かけたかは知らない。だが俺には関係ない。患者がいる。なら、治す。


「お前たちは、魂を材料にした」


俺は老人を見る。


「俺は魂を患者として扱う」


老人が後ずさる。


「やめろ!」


初めて、老人の声に恐怖が混じった。


「その術式に触れるな!」


「なぜ?」


「それを壊せば――」


「何が起きる?」


老人は答えない。

俺は術式を見る。そして、気づいた。


「……そういうことか」


巨大な肉塊。無数の魂。王都全体を覆う術式。すべてが一つに繋がっている。


「この身体が完成すれば、魂の門を開く」


「……」


「違うか?」


老人は沈黙した。


「そして、門の向こうから何かを呼び込む」


老人は笑った。


「そうだ」


「何を?」


「この世界ではない場所から来る存在だ」


老人が両手を広げる。


「それこそが、人間が死を超えるために必要なものだ」


俺は巨大な肉塊を見る。


「……器か」


「その通り」


俺は黒い金属片を取り出した。すると、巨大な肉塊が反応した。


そして――肉塊の中心から、一本の腕が伸びた。


その腕の先にあったのは、人間の手だった。俺はその手を見て、目を細める。

指の形。爪。骨格。筋肉。皮膚。全てが見覚えのある構造だった。


「……俺の身体情報?」


老人が笑う。


「ようやく気づいたか」


「どういうことだ」


「その器は、君の魂を基準に作られている」


俺は初めて、言葉を失った。


「君の魂魔法を解析して得た情報だ」


老人が言う。


「その身体には、君の身体情報が使われている」


巨大な肉塊の顔が、ゆっくりとこちらを向いた。

その顔は――俺と同じ顔だった。


「完成すれば、君と同じ魂魔法を持つ器になる」


老人が笑う。


「だから、君の魂が必要なのだ」


俺は巨大な偽物を見つめる。

そして、静かに言った。


「そうか」


俺は右手を上げた。


「なら、壊す」


老人の顔から笑みが消えた。


「待て!」


「患者をこんな身体にする医者はいない」


「それを壊せば、ここにいる魂も――」


「だから壊し方を選ぶ」


俺は魔力を集中させる。


「全員、生かしたまま取り出す」


そして俺は、巨大な術式の中心へ手を伸ばした。


「治療を始める」

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