第8話 突然ですがデートしましょう
ここは、どこかの駅前ではなく、新宿駅西口
「ごめーん待ったあ?」
「うん、すごく待った。もう帰ろうかと思った」
「ダメよ約束だからね、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「そんなに期待されても困るんだけどね」
「十三子が行きたいとこある?」
「そうね、どこでもいいけどゆっくり話ができるところがいいわ」
「わかった、どこか静かな場所……こっちかな」
二人は都庁方面、新宿中央公園に向かってゆっくりと歩く。
「何か飲む?そこのカフェに入ってもいいけど」
「テイクアウトがいいわ、天気もいいし近くのベンチに行きましょ」
ベンチに座る二人に春の日差しがあたたかい。
「ねえなんで、いまの会社に入ったの?」
「学生の頃からバイトで今のとこ行ってたの知ってるだろ」
「ははあ、そのまま居ついちゃったのね」
「そっちこそ、いいとこに就職したじゃないか、上場企業だろ?」
「まあそうだけどね、女子社員なんて内側から見れば、『体のいい腰かけ』とか、『永久就職先探し』って見る人ばっか、職場自体、嫌になっちゃう」
「それで辞めたのか、とみとみがそう思ったんなら仕方ないな」
「なによ、ずいぶん物分かりがいい事いうじゃないの」
「ははは、年取ったのかもな」
「そういえばさ……」
などと、のんびり話をしていたら、鐘の音が響く。もう12時か。
「あれカリヨンって言うんだっけ、……お昼どうするオレこの辺りあんまり知らないんだけど」
二人でぶらぶら歩きながら、十三子が指さす。
「あそこがいいわ、あのホテルのレストラン。割と静かよ、ちょっと高いけど」
「まあいいか、こっちから誘ったんだし奢ってやるよ」
「まあ、ヤツシゲ君大好きよ」
「なんだよ……」
「うふふ」
食後のレストランにて、
「この後どうする、時間的にゲーセンか映画か、ありきたりな事しか……そうだ、そうだった。昨日言っといたPCと例のUSB持ってきてるよな?」
「持って来てるわよ、肌身離さず」
「じゃあ、今から草津温泉に行こうか」
「うん、……えっ?えええーっ!」
レシートを取って立ち上がる。
駅の西口に向かって歩く。
「少しうちにこないか?」
「え、……それは構わないけど、草津温泉と関係あるの?訳分かんないわよ」
「それは今は秘密」
今日うち親いないから、というとマジで頭をグーで殴られた。
冗談なのに、いてーっ、殴られた頭を抱えてしゃがみこむ。
「なにが親いないよ、一人暮らしでしょうが!そーゆーのいらないから」
「そんな、邪険にしなくっても」
「家って、桜ヶ原だっけ?ぁあ?学生時代から変わってないのよね?」
「うん駅から多摩川方面徒歩20分の風光明媚なところ、変わってないよ」
学生時代、風邪ひいて寝込んでる時に一度見舞いに来てくれたことがあった。
京王線の電車1本で自宅に帰ってきた。
鍵を開けて、どーぞっとドアを開ける。
「あら、割とキレイにしてるのね」
「ソファでも床でも適当に座っといて、コーヒー淹れるから」
なんとオレの家にはリビングがあるのだ、いいだろー。
床にはふかふかのカーペット、ソファとローテーブルにローボードにテレビが乗ってるほかには、何もなしっ。
居間、キッチン、風呂、トイレ、寝室、自室の2LDKだ。まあDとKはまとめて1つなのだが、
月9万円の家賃で一人暮らしには贅沢でしょ?
ケットルをコンロに乗せ、お湯を沸かす間に、パソコンを起動する。
十三子が持ってきたノートパソコンのWi-Fi設定に”家の中LAN”を追加してやる。
お湯が沸いたのでコーヒーミルでゴリゴリ豆を挽いてドリップで淹れる。
不揃いなマグカップの1つをとみとみに渡す。
「ん、ありがと。ねえこれどうすんのUSB」
さて、どこに差すか、Mayaさんに聞いてみるか
「とみとみ、いや富山さん聞いてほしいんだが」
「実は、昨日会社で見せたフルダイブプログラムはオレが直接作ったものじゃないんだ。
昨日言ったように、ヘルプエージェントというのがいて、それに依頼して作ってもらったんだ」
「でもちゃんと動くモノが出来たんでしょ?それって生成AIってやつじゃん。普通じゃないの?」
はっ、そうか!
「そうか、そうだよな!、とみとみ……お前、天才か!」
「何よ、勝手に納得しちゃって」
プログラマーの性か自分で作っていないものは自分のものではないという考え方に固執していたようだ。
自宅のNVRパソコンにドアインする。
「Mayaさん、ネットワークにつないだもう1台のパソコンをNVRで動かしたいんだけど、できる?」
「はい、できます。そのパソコンにニューラル・コネクタが接続されていれば、こちらから制御できます」
「条件はありますが、基本的に同一LANに接続されたニューラル・コネクタ接続PCは同一仮想空間に入ることになります」
オレは、昨日作った草津温泉に行きたいと告げて一旦、ドアアウトした。
「ヤツシゲ君、意識がなかったように見えたけど、大丈夫?」
「うん大丈夫、やり方が分かった、とみのパソコンにニューラル・コネクタを差して再起動すればいいらしい。あとはこっちから制御する」
サーバー/クライアントというより、マスター/スレーブといった感じ、分かり易くいうと親がコケれば子もコケる関係だ。
「とみ、準備は良いか?」
オレは再びドアアイコンをクリックしドアインした。
七色の海を通り抜けて仮想世界に飛び込むと、目の前には草津温泉の街並みが広がっている。
しばらく待っていると、近くに人型のノイズが発生する。やがてそれは、しっかりした色を持ち実体化する。
あ、やっちまった。
結果をあまり考えずにネットワークとかニューラル・コネクタとかばかり考えていた。
森さんが作ってくれた画像からアバターを生成したのだろう、メッチャかわいい女の子が立っていた。
「とみとみ、ようこそ草津温泉へ、そしてようこそオレの仮想世界へ」
その女の子はビックリしたように目を見開き、後退りしている。
「あなた、ダレ?」
「オレ、オレ、ヤツシゲだよ」
「うそ!ヤツシゲはそんなにイケメンじゃないわ」
失礼な、ほっとけ
「まあまあ、今だけだよ、有効時間がどれくらいか聞いてないからいつ戻るかわからないけど」
時間がないよほれほれと、追い立てて草津の街中を二人で歩く。
ある温泉宿の前にきた時、真ん中分けの黒髪を後ろでお団子にした仲居さんが声をかけてきた。
「いらっしゃいませーお二人さんご案内」
「あなたMayaさんでしょ」
「まあまあ露天風呂に入っていってくださいよ、せっかく作ったんだし」
ぐるりと宿を回り込むと、裏手に東屋風の屋根がかかった露天風呂があった
近付いていくと、二人ともパッと水着姿に代わる。
「キャーなにこれ」
かわいい十三子がスク水姿になっている。
うへへ、コレモイイ。
「水着着用がルールらしいよ、お湯に入ってみよう」
ゆっくりお湯に入ってみる。
「「はぁ~」」
「あったか~い!広~い!」
「実際はこんなに広くなかったけどなあ」
仮想世界でも温泉は気持ち良かった。
時間切れらしい、遠くでブザーのような音がしたと同時に、二人ともドアアウトした。
「はっ、ふうう」
十三子と目を見合わせ「「いいお湯だったー」」
冷蔵庫からビールを取り出し、はいっと渡す。
缶ビールをプシッと開けて、カンパーイ
「やっぱ風呂上りは冷えたビールだよね、時間が有ったらあの温泉宿でも飲めたかも」
「こんなデートした人はいないわね絶対、サイコー!」
ポロリはなかったザンネン。
次回「本格開発作業」




