第7話 温泉回
サブタイトルは温泉回ですが、正しくは温泉でも作ろうかい?です。
Mayaと温泉できゃっきゃうふふするわけではありません。
SuperMayaは、Mayaサブセットに色々な対応を丸投げしてせわしなく帰っていった、12分何十秒しか繋がらないならしかたがないね。
しかし、あの不安定な接続回線で1000年も未来から、よく500ギガバイト以上のアップグレードデータを送ってきたものだ。そりゃあ丸1日かかったはずだ。
さて、Mayaサブセット、面倒だからMayaさんでいいか、
「Mayaさん、ここは仮想世界で、編集モードでしたよね、色々創れるんですよね?」
「はい、ほとんどのオブジェクトが創れますが、元になるデータやパラメータが指定されれば早いですよ」
「それにしても。ここなんにもないな」
「あなたが作った3Dフィールドでしょ?何言ってんですか」
「イヤそうだけど、もっとこう、田舎なら田んぼや畑や漁港があるとか、都会ならビルや高速道路が通ってるとかー
できない?」
「では、少し都会とかビルとかいうタテモノをつくってみましょうか?」
Mayaは、あそこの平地にしましょうと指さして作ったのだが、
何あれ、廃墟?倒れたり壊れたビルや高速道路だったモノ
途中で折れ曲がった何かのタワー?
最新のデータから作りました、だって。
「止めて!戻して、戻して!何もない草原のほうがマシ」
折角実現したフルダイブ世界でいきなりディストピアや荒廃した廃墟の世界にダイブしたくはないよ。
これじゃあ、作りかけの世界、じゃなくて壊れかけの世界だよー。
「もっとこう、のんびりした温泉みたいなところを作ろうよ」
そういえば今年は慰安旅行ってないのかなあ、今はそれどころではないしな。
「オンセンとは何ですか?」
そうなるよねえ、去年の慰安旅行で行った草津温泉の街並みスナップショットの画像を見せる。
ピクチャフォルダに入っていると思うよ、というと
Mayaさんは、何枚かスナップショットの画像を中空に表示して見ていたが
ネットで検索したのか地図画面も表示した。
「ここですか……いいですね、冬はスキーもできますよ!
スキーってしたことありませんが」
温泉いいですねえ、作りましょうと言われる。
「地形データのあの山のあたり。あそこにしましょう」
少し離れた山間部に、なんと草津のような温泉街が生成されていく。
現実と変わらない大きさのように見える。
「うわ、温泉街!スケール感、ぱねえ」
「そう見えるだけですよ、露天風呂もつくっておきました。混浴ですよ、うふふ」
でも、水着着用ですよ。
入ろうとすると強制的に水着姿になるそうだ。
「環境生成ログもたまってきました。これで温泉いっぱい作れますうれしいです」Mayaさんご機嫌だが、
のちにSuperMayaから、
折角のログで悪いんだけどさ、環境生成ログは収集対象になっていないからいらなーい。
それに、そんなにたくさん温泉いらないからね。
と釘を刺され、呆然とするのだった。
「Mayaさん、3Dフィールドの隅っこにヨットが3艇泊っている小さな港があったでしょ?」
「はいあります。雑な作りだったのでキレイにしておきました」
「タハハ雑だったかな、あの辺りをフルダイブのエリアにして、ノートパソコンで持ち出せないかな」
「NPCなし、環境表現なし、音響なしであれば、すぐできます」
「NPCなしは分かるけど他はどうなるの」
「今いるフィールドですので、行ってみましょう。頑張って走ってください」
こっちです、と指さしMayaさんは走り出した。
オレもMayaさんを追いかけて走る。
「体感的に走る振動は伝わるのだが、やはり夢の中で走っている感覚だね、疲れないし」
「到着しました、この港ですね。港はここしかありませんが」
海に突き出した突堤、桟橋、岸壁と歩き回る。うんいいじゃない?
「NPCはいない無人だね、他は?」
「音響を生かすとこうなります」
『ざざーちゃぷちゃぷ』と効果音が再生される。
「環境表現はその場所によって変わるのですが、ここで生かすとこうなります」
「磯の匂いがする!海風を感じる……やべーメッチャ海じゃん」
「Mayaさんこの状態を切り出せないかな」
「やってみますが、機材のスペックに大きく左右されますからあまり期待しないで下さい」
「Export用アプリをビルドします。一旦ドアアウトしてください」
はっ。ぼーっとしてた。これがフルダイブ後の状態か、
「確かに夢だな」
パソコンのディスプレイモニターはスタンバイ状態になっているが、ドアアイコンの右側に新しくアイコンができている。
NVR OSの六角形∞を簡略化したデザインだ。NVRアプリとでも呼ぶか。
会社で社外持ち出ししたノートパソコンに”家の中LAN”のWi-Fiを設定する。
自宅NVRパソコンで追加されたアイコンをクリックしてノートパソコンにコピーした。
ニューラル・コネクタを引き抜きノートパソコンに差しなおす。
ノートパソコンを再起動して、画面に追加されたNVRアプリをクリックする。
オレの意識は、七色の光の海をくぐりぬけ仮想世界に飛び込む。
目の前には、さっきも見た港の風景、波の音がする。
歩き回ってみる、普通に歩けるが、ある程度港から離れると進めなくなる。
あと、「クサッ」磯の香りが、すごく生臭い、駄目だこれすげー臭い。
これが、機材のスペックに左右されるってやつか。
暫くうろうろ歩き回っていると実行時間終了で自動ドアアウトした。
ニューラル・コネクタを自宅NVRパソコンに戻し、再度ドアインする。
「Mayaさん外で動かしてみたんだけど、環境表現はとりあえず外しておこう」
「はい、では音響のみ生かして再ビルドしておきますね」
フルダイブゲームが作れる事を報告しなければならない。
ノートパソコンにMayaさんが作り直してくれたアプリを入れ、どう説明したものか、悩むのであった。
☆ ☆ ☆
「おはようございまーす」
TGフェス対策室のドアを開けると、もう榎本課長と十三子が来ていた。
「ああ、おはよう」
課長は、なにやら計画表みたいなA3の紙を広げている。
「おはよう七海くん、何か進展あった?」
十三子も今来たところなのか、ノートPCを引っ張り出している。
「おはようございまーす」
と森さんも出勤してきた。
「おはよう、みんな揃ったところでミーティングを始めるぞ」
「富山君、だいぶ粘っていたようだがどうだった?」
「色々やってみてたんですけど、このデモアプリって本物なんですか?LEDが光るだけで何も起きないし、
何よりアプリのサイズが小さ過ぎるように思うんです」
「うーんそうか、困ったな、ハワード氏に問い合わせたいところなんだが、連絡がとれないんだ」
「課長、先に私からいいですか?フェスのポスター下絵ができたんで見て貰えませんか、あとわたしにもノートPC欲しいんですけど、タブレットだけじゃ全然足りないんで」
「わかったノートPCは急いで用意しよう」
「課長、フルダイブアプリ……できました」
「なんで」「えー」「なんだと」
「実は、自宅で趣味で作っているゲームの開発環境にUfinityというのがあるんですけど、先日物凄いアップデートがかかってVRゲームが簡単に作れるようになったんですよ」
「Ufinityというのは聞いたことはあるな」
「はい、それで、ヘルプエージェントというのが追加されてて、ニューラル・コネクタをつなぐとフルダイブができると言われて、やってみたらできたんです」
「まだゲームの体裁じゃないんですけど見てもらおうと思って」
じゃあやってみようということになった。
ニューラル・コネクタをUSBポートに差し込みノートPCを起動する。
「課長、ちょっとこのノートというかニューラル・コネクタの近くに来てもらえますか」
六角形のNVRアプリを起動する。
「いいですか、一応何もしなくても5分で終了するようになっています」
課長の後ろから手を伸ばし、表示されたドアアイコンをクリックする。
課長の動きが止まる。
「やっぱり座った状態か、寝ころんだ状態じゃないと危ないな」
5分後、課長がドアアウトする。
「七海君、これをどうやって……」
「アップデートの中にこのニューラル・コネクタに対応したドライバが入っていたみたいで、ビルドできるようになったみたいです」
SuperMayaの話はやめておく、信じて貰えないだろうし、自分でも信じられないような事だった。
「わたしも、わたしも!やってみたーい」
森さんも十三子も順に体験してもらった。
みんな、何度もドアインし、すごいすごいと大騒ぎ。
「あとはどんなゲームに仕上げるかだけです、みんなで考えましょう」
午後から、具体的な計画会議に入る。
オレ:「参考までに、景色でも、キャラクターでも画像があればビルドの時に取り込んでくれるみたいなんだ」
十三子:「さっきの港みたいな景色ね、やっぱりゲームは動きのあるゲームよね、どんなのがいいかしら」
課長:「動き回るだけならパルクールというのがあるな」
オレ:「あー塀を飛び越えたり、壁を走ったりするやつですね。社長が言ってた、VRMMORPGは?」
課長:「VRじゃなくても、RPGはストーリーから作ると大がかりになるし、さすがに社内だけじゃ無理だろう」
森さん:「わたし、格ゲーやりたいです」
オレ:「対戦型の格ゲーは、リアルに知ってる相手だと戻ってきた後ケンカになるぞ」
森さん:「じゃあ相手をNPCにする。こんな感じで」
さすが、絵が上手だ、メモ用紙にササっとラフ絵を描いて見せる。
オレ:「それならいいんじゃないかな、じゃあパルクールもNPCのインストラクターが先行して走るってすればどうかな」
森さん:「まかせて!イケメンやかわいいNPCいっぱい描くから」
おおよその方針が決まった。
課長が、A3サイズのTGフェスのガントチャート(スケジュール表)を広げて、
「七海君、今の内容でどれくらいで作れそうだ?」
「うーんザックリですが作るだけなら、1つのゲームに、1いや2日あれば十分ですよ」
「なにっ。まだ2か月あるんだぞ、逆方向にリスケしないと……」(リスケとは、リスケジューリング、計画し直しのことですね)
「森さんのキャラデザができ次第着手します、森さんの方はどのくらいかかりそうかな」
「ポスターで作ってたキャラもあるし、2週間かかんないくらいかなー、あポスターの画像データ渡しとくね、ななみんと、とみとみがモデルだよー」
ななみんとか初めて呼ばれた。森さんフレンドリー過ぎん?いいけど。
ノートPCに送られてきた画像、「ちょっ、オレ、イケメン過ぎ、十三子カワイ過ぎ、絶対詐欺だって言われるから」
課長が脱力しながら、
「じゃあデバッグテスト、システムテストを入れても1か月ちょっとか。会場との調整を入れてもこんなにかからん」
一気に余裕状態になってしまった。
「課長、ちょっと気になることがありまして、ニューラル・コネクタを屋外で使った時の実績がないんですよ、周囲のWi-Fiの干渉とか確認したいんで、明日1日休みを貰えませんか」
「そうだなニューラル・コネクタはまだ分かっていない事だらけだしな、
TGフェスの道筋も見えたことだし1日くらい休んでもいいぞ」
「ありがとうございます」
「それから、富山君、明日一日七海君に付き合いたまえ、無理にとは言わないがサポート役だろ?」
「え、」
榎本課長は、どこから取り出したのか薄色のサングラスをかけ、白い手袋をする、両肘を机につき、口元を隠すように両手を組む。
もちろんニヤリと笑い「問題ない」と言うのだった。
その日の夕方、帰り支度をしながら、
「なあ、とみ、明日デートしないか?」
「明日は屋外テストなんじゃないの?何急に言い出すのよ、課長も変に気を回してるみたいだけど」
「フェスを前にして、この先いつ休みが取れるかわからないんだ。だから」
「う、うん じゃ、いいわよ」
十三子は恥ずかしそうに俯くのだった。
「あ、一応フィールドテストだから、ノートPCとUSB装置忘れるなよ」
「分かってるわよっ!」
マスター、空気読みなよ。とMayaの声が聞こえた気がした。
次回「突然ですがデートしましょう」




