第9話 本格開発作業
コンピューターのシステムやプログラム(要はアプリね)を作る事を『開発』と言います。
なんか、かっこいいと思いませんか?
さて、
今日は、TGフェス対策室で仕事をする。
朝からTGフェスチームで打ち合わせだ、社長は相変わらず脈のありそうな企業を訪ね回っているし、課長は機材調達に出かけている。
「じゃあオレから、榎本課長が作ったスケジュールでは、来週いっぱいでパルクール完成なんで、今の状況が知りたいかな」
細かな作業展開は各自に任せる。と言われている。
森さんが「NPCのキャラクターなんだけどお、女の子3人はできてます。あそこっ」
と言ってホワイトボードにマグネットで貼ってある3枚のポーズを付けた全身立ち絵を指さす。
「男の子の方なんだけど、子供とお兄さんとムキムキおじさんでいいかなー」
「子供はどうかなあ、人間じゃなくてもいいんじゃないかな、格ゲーだし、ロボットとか少林寺木人とか」
「うーん考えてみるう」
「出てくるキャラはランダムで登場するし、アタリ、ハズレありということで」
「わたしが描いたキャラにハズレはありませんっぷんぷん」
「ゴメンゴメン、そういう意味じゃないから、じゃ出来てるところまで一旦預かろうか」
「はーい、ななみんのとこに送っとくね」
「ななみん?」
十三子が眉を寄せるが、そんなとこに反応しないでくれー。
「じゃ富山さんの方は?」
「パルクールのコース設計はできてるわ、ハイこれ、データは送っとくわね。他にあと2コース設計してるけど必要なら言ってちょうだい」
A4サイズの用紙に、コースの全体図と障害物の配置が書いてある。
「パルクールは3分のコースを3回トライするから余裕見て一人約10分だね」
森さんが「えー10分間走りっぱなしなの?わたしムリー、絶対リタイアする」
おおよそ600メートルのコースだが平坦ではないので3分くらいはかかると思う。
肉体的な負担はゼロなのだが、そういえば途中ドアアウトってできるのだろうか。
「うーん、一旦全部預かろう。とにかく作ってみて、ベータ版ができてからブラッシュアップしよう」
「じゃあ森さん残り出来たらメール添付で送っといて」
「わかったー」
「格ゲーの方は少し先行して検討しておく、富山さんも格ゲーの方、舞台とか、衣装とか、調べるか考えてみてくれないかな」
「わかったわ」
「おつかれさん」
「あ、課長お帰りなさい」
「みんなご苦労さん」
「「お帰りなさい」」「お疲れ様です」
社長も帰ってきた。
「これ、差し入れだよ、一息入れよう」
森さんが「あ、たい焼きだーまだ熱いじゃん、ありがとうございまーす」
「お茶淹れてきますね、森さん手伝って」十三子は給湯室に行くようだ。
「榎本君、さっき聞いた話だが、フルダイブができたというのは本当かね」
「はい、社長もぜひ確認してください。おーい七海君、社長にも例のヤツ見せてもらえないか」
「アレですね、わかりました、社長ちょっとこのノートパソコンの前にお願いします」
「おおこれは、あのUSB装置だな」
六角形のNVRアプリを起動する。
「これは私が作ったデモみたいなものです。5分で自動的に終了します。いいですか?」
社長の後ろから手を伸ばし、ドアアイコンをクリックする。
社長の瞼が落ち動きが止まる。
5分後、社長がドアアウトする。
「うっ、ふうう。七海君やったな、普通に歩けるし波の音が聞こえた。リアルな作り物のヨットハーバーという感じだがフルダイブだな」
「すみません、元が自分が雑に作ってたゲームなんで、それとパソコンのスペックが仮想空間のリアリティにかなり影響するみたいです」
十三子たちが戻ってきた。
お茶にしよう。
「ところで、七海君そのフルダイブ中の画像というか景色をモニターに表示できないかね」
「あーそうですね確かに、プレイヤー本人は周りが見えないし、気にしてませんでした。外からゲームが見えなければ何やってるか分かりませんものね」
「ゲームフェスの場所が確保できそうなんだ、試作版でいいんだが一つ社外の人物に体験させてもらえないだろうか。それも、できるだけ早く」
なんとディスプレイモニターの大手メーカー新山電機がゲーミング用最新4Kモニタを出展するそうで、少し余計めにブースを確保しているそうだ。それで、協賛・提携という方向で映像コンテンツを提供してくれるところを探していると。
既に数社名乗りを上げていて、是非うちも検討してくれと頼みこんできたところだそうだ。
「わかりました。丁度さっきパルクールのすり合わせが終わったんで、明後日くらいにベータ版を出せると思います」
「本当かね。頼むよ!」
「ところで課長、実機どうします?」
実機というと物々しく聞こえるが、要するに会場で実際にゲームを動かすパソコンの事だ。
「借りれるブースの広さにもよるしな、ノートパソコンで、パルクール2台、格ゲー2台でキツキツだろう。
モノはレンタルという手もあるが、会社の資産にもなるし、4台新規購入する。七海君、要求スペックを送っておいてくれ、だがまずはブースを借りられたらという前提だな」
「わかりました。それと、セキュリティなんですが……」
会場設営時、実機の4台はセキュリティーワイヤーで柱や机とパソコンを結び盗難防止する予定だが、
他にフルダイブを体験してもらうだけの目的で2~3台持ち込む予定である。
これは最悪ブースや固定の発表場所が確保できないときの為でもある。
持ち運んで使うので、どこかに縛り付けておくわけにもいかない。
しかたがないので、気休めだがパソコンの裏面にGPSトラッカーを接着剤で張り付けておくことにする。
購入資材に入れてもらうようお願いした。
「あと、課長、この先暫く自宅作業をしたいんですけど、自宅パソコンでないとフルダイブのビルドができないので」
近頃あまり聞かなくなったが、在宅勤務、テレワーク、リモートワークというヤツだ、わが社でも制度として、ちゃんと存在する。許可するのは上司である課長だ、何の問題もない。
「個人の設備に頼るのは申し訳ないが非常事態だ、よろしく頼む、ニューラル・コネクタは必要数申請してくれ」
「じゃ、帰宅しますお先に」
「七海君、後で、格ゲーの仕様で相談に行くから、デバッグテストも要るでしょ」
「とみ……富山さん急がなくていいから、余裕があればお願いするよ」
重い!バッグにノートPC2つとニューラル・コネクタ2セットを入れて担いでみる。
このバッグは購入したときデカ過ぎんだろーと思ったのだが、作りがしっかりしていて担ぎやすそうだったのでよく使っている。
昼間の空いている電車に乗って帰宅するのって、罪悪感を感じるなあ。
☆ ☆ ☆
帰宅して、自宅NVRパソコンでドアインする。
「こんにちわマスター、変な時間にお越しですね」
「まあね、Mayaさん聞きたいことがあるんだが、フルダイブゲームの途中でドアアウトってできないの?」
「できますよ。頭の上の方を見上げると、非常口という緑色のドアアイコンが見えるようになります。本人にしか見えませんけど、それに手を伸ばすだけでドアアウトできます」
なんだ、できるんだ。
「画像データをいくつか持ってきたんだけど、これを元にして、パルクールゲームを作って欲しいんだ」
キャラクターやコースのデータが入ったフォルダを示して、大まかなゲームの流れを説明する。
「パルクールを検索して理解しました。これと貰ったデータをもとに作成します」
「それと、実行中のゲームシーンをモニタに表示したいんだけど、できる?」
「夢を見ている人の脳内をスキャンする事になりますので、倫理的アラート(エシカル・アラート)が発生します」
「へー、意外とマトモなんだな、何でもアリかと思ってた」
「失礼ですよマスター。スキャンデータを加工して、ついでにカメラワークも追加して2Dの表示用データを出力することは問題ありません」
「それでお願いします。じゃ、Mayaさん作っといてよろしくー」
ノートパソコンをセットアップしないといけないので、一旦ドアアウトする。
ピンポ~ン 「はーい」
ガチャ
「あれ、カギあいてる、ちょとお!ヤツシゲ不用心よ」
十三子が遠慮なく上がり込んでくる。
「お疲れ様、はい差し入れ、駅前の石窯パン屋のごちそうパン買ってきたわよ、どうせ何も食べてないんでしょ」
「ありがとう、助かったよ」
自宅NVRパソコンに『!ビルド完了』と表示された。
「とみ、パルクールできたみたいなんだけど、やってみる?最初なんで時間は3分、1セットのみで作ってもらった」
「わあ、もうできたの?やるやる」
「オレはちょっとモニタのほう確認したいから」
十三子はリビングの床にどっかりと座り込み、ノートパソコンにセットされたNVRアプリを起動する。
十三子の瞼が落ち、動きが止まる。
モニタにパルクールのスタートシーンが表示される。
「うまく表示されてるな、音も出るのか……いいねえ」
3人のNPCの女の子が並んでいる、森さんによると、アリスとドロシーとなぜかノリコらしい。
十三子のアバターは、温泉で見たかわいい十三子だ、気に入ったキャラを使いまわしている。
「Mayaさん、一般の人はどうなるの?」
「通常はプレイヤーによって標準体型の男性か女性のアバターが出てきます」
アリスが『用意はいい?スタートするよー、ハイドーン!』と言って走り出すと残りのNPCは飛び跳ねて応援する。かわいい十三子があわてて追いかける。
Mayaさんいい仕事してんなー。
明日会社には、これ持っていくか。
次回「実は格ゲーってよく知らないんだよね」




