第3話 憂鬱な日のかわし方
昨日は楽しかったが、それなりに酔いが回っていたのだろう、二次会がなんだか大変だった覚えがある。
ハワード何某がちらりと見せたフルダイブVRを実現するというUSBデバイス。
あのときは社長もオレも酔っぱらっていたから、オーッ!って思ったけど、冷静に考えてみたら、そんなものがある訳ない。
絶対詐欺師だろう、引っ掛からなくて良かった。
でも、社長、名刺交換していたな。
いつもの休日を楽しむべく久し振りにパソコンの電源を入れる。
そういえば、Ufinityのアップグレードを実行して、シャットダウンされた状態なのか、ということは1週間ほど放置していたことになる。
すっかり忘れていたよ、1週間も触る気にならなかった。
会社でもそわそわ落ち着かなかったのは十三子のせいだ、彼女を見かける度、あまり仕事も手につかなくなったような気がする。
このパソコンに至っては完全放置だった。
十三子になんとか連絡してみるか、でも何と言って切り出す?
それにそもそも、スマホの電話番号もメールも変わっていて分からない。
今日は休日だから時間はあるが、訪ねようにも今の住まいも知らない。
唯一会社のメールアドレスであれば送ることはできるが
プライベートに使うのは論外だし、送ったところで今日見てくれるはずもない。
ベッドに突っ伏してゴロゴロする。
「……止めた……」
今どうしようにも、何もできないのであればウジウジ悩むのは時間の無駄だ。
「全く、高校生じゃあるまいし、何やってんだオレ」
ベッドから、やおら立ち上がりキッチンに行く。
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先日、偶然目にして衝動買いしたコーヒーミルで豆を挽き、黙々とコーヒーを淹れる。
湯気の立つブラックコーヒーのマグカップを抱えて、パソコンの前に座る。
Ufinityのアイコンがあったところが豪華になっている。金色の∞図形の背景に3対2枚で6枚の翼
「Ufinity、あなたに無限の可能性を与える……か」
アイコンをクリックし起動する。
コンソールウィンドウがポップアップする
「初回起動時のセットアップかな、親切にも日本語だ……なんだこれ」
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[Ufinity Editor - Upgrade Available]
アップグレードが正常に適用され利用可能になりました。
Current: Ufinity 2026.1 (7.3.2LTS)
Upgraded: Ufinity 3126.4 (Singularity) Type:Maya
terminated Ufinity
[System Operation Remove Win And SetUp NVR]
[セットアップ開始]
・ヘルプエージェントシステムサブセット[OK]
・標準NVRアセット展開[OK]
・遠距離広域通信標準アセット展開[OK]
・BGeneドライバ Ver3.0[OK]
・特殊対話機能 Ver3.2[OK]
・環境生成サブセット Ver2.1[OK]
・メディカルチェックアセットVer2.0[OK]
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
見たことも聞いたこともないアセットやドライバーが次々に組み込まれていく。
最後に、
『御注意:旧時代のOSは利用できません。NVRへ移行します』
<再起動してください>
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表示されている再起動ボタンをクリックする。
「パソコン壊れたかも、まさかまた一晩かかるとかじゃないよな、勘弁してくれよー」
と、祈っていると意外にもすんなりと再起動が完了した。
完了したのだが、見たこともない画面が表示されている。
真っ黒な背景に大きくUfinityのロゴ。金色の六角形∞図形の後ろに6枚の翼
いや、そもそもこのロゴはUfinityのものなのか?もとは、間抜けなサイコロみたいなデザインだったはず。
その下にNVRの文字その下に何だ、ドアアイコン?
半開きのドアの絵のアイコンが表示されている。
ディスプレイモニター全面がUfinityになっている。
「いや……違う。これはUfinityじゃない、画面にNVRと出てるじゃないか」
そもそも、起動してから今まで一言もUfinityとは表示されていない、
いや最初の方で表示されたがそれっきりだ、Ufinityを終わるみたいなメッセージだったと思う。
「どうしたものか、マウスは動く、キーボードは使えそうだな」
パソコンが壊れるんなら、その時はその時と、開き直って、唯一出来そうな操作、ドアアイコンをクリックする。
豪華なロゴがすうーっと消えて、ぱっと3Dオープンワールドの景色になる。
「これ、知ってるというか、オレが作りかけていた3Dゲームじゃないか」
先週作りかけていた世界が鮮やかなグラフィック描画と共に画面一杯に表示されていた。
画面の下方五分の一くらいがテキストの表示と入力ができそうなチャットエリアみたいだ
以前より遥かに美麗なグラフィックス、フィールドとしてはもう完成している。
マウス操作で辺りをスクロールや拡大縮小してみる。動きもスムーズ思った通りの操作ができる。
あれは?
野原にぽつんとテーブルと切株の椅子がいくつか配置されている。
「これはオレが作って配置したオブジェクト」
テーブルの横に女性が立っている。
これも自分が配置した3Dキャラ、お姉さんキャラの涼子さんだ。
真ん中分けの長い黒髪、ちょっとツリ目のクールビューティーで、黒っぽいノースリーブの上着に膝丈の紺色フレアスカート、ひざ下まであるブラウンのブーツという出立ち。
間違いない。涼子と名付けた3Dキャラクターオブジェクトだ。
ズームアップしクリックしてみると、ビクッと動いたぞ。
チャットエリアに
『何か御用でしょうかマスター』と表示される。
「ま、ますたあ?」
チャットエリアをクリックし、フォーカス(入力可能状態)する。
日本語で大丈夫かな、キーボードから「あなたは涼子さんですか」と入力する。
『いいえ、わたしはマヤ(Maya)です。--涼子--という名前に変更しますか?(Yes/No)』
Nキーを押す。
『はじめまして、わたしはヘルプエージェントの--Ryokoa--Myoya--Maya-- Mayaです。
SuperMayaのサブセットとしてここに登録されました。Mayaとお呼びください。対話型で操作を案内します』
妙にモタついたが、何か変換とか登録とかの処理を行ったのだろうな、質問に答えてくれるだろうか。
「今、どういう状態?」
『今はNVRStage 1、マスターのアカウントでドアイン状態です。アカウントは〔YatsuShige@Nanaumi〕以前の内容が引き継がれています。更に編集モードです』
う~ん、ステージ1は”初めて状態”みたいなものなのかな?マスターというのは管理者権限、つまりマスター権限を持ったユーザーみたいな意味のようだ。ご主人様ではないのか、ちょっと残念。
「ドアインとは?」
『中開ドアアイコンをクリックすることにより、NVRシステムに入った状態です。再度中開ドアアイコンをクリックすることでドアアウトしスタンバイ状態に戻ります』
なるほど、ログインとかサインインのように、ドアインというらしい。確かにドアアイコンをクリックしたしな。
左上辺りに半開きのドアアイコンがふよふよ浮いている、これか。
さっきの起動直後状態であるスタンバイには自由に戻れるようだ。
「NVRとは?」
『一般的には、Neural virtual reality(神経仮想現実)ですが、本システムでは、OS(基本ソフト)の事です』
WinやMacのようにNVR OSという訳か……ちょっと待て。
「NVRは誰が作った?」
『施設管理システムの一部をMayaがパク ・ ・ ・アクセス制限に抵触しました。回答が拒否されました』
「施設管理システムとは?」
『回答が拒否されました』
迂闊なヤツめ、正式な答えは得られなかったが、施設管理システムという上位か下位か知らないが、システムの一部を切り取って作られたと想像できる。
作ったのは、目の前でふらふらしているこいつ、Mayaであるらしい。
あとは、
「編集モードとは?」
『現在のモードです。チャットエリアに文章で入力することにより、環境オブジェクトの追加、削除、変更が可能です。プレイヤーやNPCの動作も定義することができます』
ノンプログラミングとかプログラムレスという編集環境ということか、それが本当ならとんでもない技術だ。
本当にどこから来たのやら。
「ほかに、アナウンスすることは?」
『NVRStage 2に移行するには、有料の拡張部品(Nコネクタ)が必要です』
出たよ商売上手め!
アプリ内課金が必要です、みたいなことを言われた。
しょうがないので、現状でやれそうなことを試してみた。
「向かって右側に木を3列追加して、幅4メートルの道路を東西に通してください」
『これでいいですか』
『注意:要求は1つずつにしてください、今の場合木でできた道路になることがあります』
「まじかーっはっはっは」
結構楽しかった。
ネタバレになるのもつまらないので、サブタイトルだけお知らせしますね。
次回「それ絶対詐欺ですってば、え違うの?」




