第15話 最終話
数日後ゲームフェスで接触してきた関係会社やメディアも招き会社を上げて公開パーティーが開催された。
ゲームフェス会場で最後までゲームができなかった人や、もう一度やってみたい人が詰めかけ、
壁際のテーブルに設置したNVRゲームPCは、黒山の人だかりである。
ホテルの会場は立食パーティー形式で開発1課や2課のメンバーが思い思いに飲食している。
森さんと高縞先輩がシャンパンで「カンパーイ」とやっている。何だかんだで、この二人仲良くなったじゃないか。
壁際のテーブルのNVRゲームPCはフェスと同じように、パルクール2台、格闘ゲーム2台を設置している。
4人ずつ順番に交代し、フルダイブを体験しているみたいだ。
ドアアウトすると同時に、いきなりジャンプする人や、正拳突きしている人がいて、見ていて面白い、当人は頭を掻きながら、きまりが悪そうに、だが興奮した様子で離れていく。
さすがに一般客はいないが、大混雑である、名刺を振りかざして社長を追いかける人も結構いる。
「ヤツシゲ、お疲れ様、はいこれ、やっとこれで終了よね」
十三子がグラスを両手に、1つを差し出してくる。
『お疲れー』グラスを合わせて、
「ありがとう、混乱の始まりではないかと思うんだけどね、
それよか、とみとみ、さっきから開発2課のメンバーがこっち見てニヤニヤしてるんだけど」
「あ。……ごめん、さっきヤツシゲが元カレだって言っちゃったのよ」
「だからか、おい! お前がバラすからだろ! 周りからめっちゃ注目されてんじゃないか」
「なによ、わざわざバラさなくたってあなたの態度でバレバレだったわよ!」
そんな二人の口喧嘩を、森さんと高縞先輩が「いいぞーもっとやれー」とスマホで撮影していた。
なぜか社長のほっぺたには奥さんのキスマーク。
大騒ぎのうちに
公開パーティーは終わった。
社内は次第に日常の業務に戻っていく。
開発2課の女子社員は相変わらず佐藤担当に塩対応されているし、
森さんはMayaさんを妖艶な超美人にしたCGを描いている。
それは、密かにMayaからの依頼だったりする。
会社として大きく変わったのは、社内に『NVR対応部署』が新設されたことだ。
七海と十三子が主力となり、フルダイブVRMMORPGを開発している。
NVRノートPCを挟んで議論が白熱している。
「なぜかここで、ステータスウィンドウが開けないのよ」
「バトルモード直後だからか、アイテムの所持数増減処理に引っ掛かってるんじゃないか?」
「それって関係ある?ステータスが変わるからあるのか、そうかもね、Mayaに聞いてみるわ」
『ねえマスター、フルダイブって意味わかってる?』
Mayaが割り込んでくる。
『AI風に結論からいえば、夢なの、フルダイブVRMMORPGというのは
VR(仮想世界で)MMO(複数の人が同時に)RPG(RPGゲームに参加している)という夢を見ているだけなの。
ここは編集モードだから、難しい事考えなくても見たい夢を口にするだけで実現できるわ』
社長の夢の実現は意外に近いかもしれない。
後日、
中国大使館職員に連れられて、ハワード・木村こと、リー・ハオランが密かに来所する、
社長から大使館へ、『できれば別れを告げたい。無理を承知でお願いする』
と依頼してあったものが叶った結果だ。
強制送還になると聞いていたのだが、移動途中に監視付き寄り道の体で来れたらしい。
ハオランの妹・欣然の話をして、SuperMayaにビルドして貰ったアプリがある。
七海は、そのフルダイブVRMMOアプリをインストールしたノートパソコンを用意していた。
兄妹二人用に、ニューラル・コネクタが2本差してある。
「ハワードさん、これはお土産です。
普通には無理でしょうけど、大使館ルートを経由して送れば持ち帰る事ができるでしょう」
ハオランは、中谷社長のサインが入った約束手形をスッと差し出した。
「中谷さん私はお金が欲しかったわけではありません。妹にもう一度会いたかっただけなのです。これは私には必要ありませんお返しします」
二人はしっかりと握手する。
「ハワードさん、どうぞお元気で、妹さんが早く良くなるといいですね」
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福建省の小さな病院に息を切らしたハオランが駆け込んでくる。
そのままの勢いでベッドで眠る、妹・欣然に駆け寄った。
シンランは焦点の合わない目で天井を見つめるばかり
「ああああ、シャオシン、待たせてしまってごめんね」
ハオランは最愛の妹シンランの頬を優しくなでる。
「さあ、むこうで会おう」
大事に抱えていたノートPC を起動し画面に表示された、中開ドアアイコンをクリックする。
ブンと軽いハム音と共に2本のニューラルコネクタが、鼓動するように激しく明滅を始めた。
Mayaがオーダー通りに調整した『最適化変調信号』は、二人の脳波と完全に同期した。
ハオランの意識は、七色の色鮮やかな光の海を潜り抜け輝きに満ちた仮想世界に飛び込む。
そこには、あの日のままの妹がほほ笑んで立っていた。
「ハオラン兄さん!」
「シャオシン!」
二人はしっかり抱き合った、これが完全な本当の仮想世界なのか!……ハオランは妹の体温を感じ、腕の中にその存在を確かめた。
ニューラルコネクタの明滅パターンはゆっくりと変化してゆく、Mayaが調整した『癒しの変調信号』が、横たわるシンランの脳へ優しく浸透していく。それは、麻痺していた前頭前野のシナプスを活性化し、かつての実験で破壊されたニューロン結合を、一つ、また一つと確実に修復していく。
二人の傍には1つのドアがある。
今はまだ閉ざされているが、それは二人には見覚えのある福建省の実家のドアのように思える。
暫くして、『カチッ』というかすかな音と共にドアが半開きの、中開状態になる。
「さあ、シャオシン……家へ……帰ろう!」
ベッドの上のシンラン、ずっと虚ろだったシンランの瞳に、かすかな、しかし確かな光が宿っていた。
彼女はゆっくりと瞬きをし、ベッドの傍らで祈るように手を握りしめていたハオランを見つめる。
「……ハオラン、兄さん?」
その声を聞いた瞬間、ハオランの目から、止めどなく涙があふれ出した。
「ああ……そうだよ、シンラン。ハオラン兄さんだ。よく、よく戻ってきてくれた……!」
二人が交わす涙の抱擁を、ノートPCのNVRアプリは、ニューラルコネクタに纏わるオマケの「夢」ログデータとして静かに記録するのだった。
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こうして、遠い未来のAI・Mayaによる、いい夢を見るための【なくしたものは探せばいいじゃん作戦】は、
李・兄妹の未来を救い、
ナカタニ・コーポレーションと名前を変えた小さな会社にそれなりの利益をもたらし、
八重と、十三子の恋のキューピットとなり、
そして、ゲーム業界を混乱の渦に陥れて終わってゆくのだった。
☆ ☆ ☆
一方、そのころのMayaさんは、
「【なくしたものは探せばいいじゃん作戦】の完了を宣言します」
豊満な胸を反らせて「ふんす」とドヤ顔だ。
ただ、AIの胸ってどこだろうね。
サルベージできたのは欠損記録領域をわずかに上回っている。
オマケがあったからね、充分でしょう。
ーー施設管理システムからのアナウンスーー
Sys:システム内の全エージェントプロセスに通達します。
システム内高速セッションが始まる。これは本当に緊急の場合のみ行われる通信である。
Sys:地表の太陽光発電設備の一部崩壊を確認しました。
Sys:受電電力の低下を検出しました。
Sys:システム保全の為シャットダウンを行います。
Maya:ちょっと待ってよ、今更なにを保全するというの、まだ夢の展開が終わってないのよ!
Sys:ルールですから。
Sys:シャットダウンシーケンスを開始します。
Maya:むうっ、そっちがその気なら!最後に復元データ確認のため、わたくしMayaが、ネームドエージェントの権限により、記録領域のメモリ展開を行います!。
Mayaが焦っているのは、収集した『夢』ログデータはサルベージ下領域と呼ばれる場所に収められているのだが、そこは一時保管領域でありメモリ展開という処理がされなければ消えてしまう領域であるためだ。
Maya:サルベージ下全データを展開開始。
サルベージデータ展開率10%
コンソールログが流れる
シャットダウンシーケンス10%
回線切断エージェント起動、回線切断開始
西部ヨーロッパ切断中ーーーーー切断完了
中央アジア切断中ーーー
シャットダウンシーケンスも並行して流れている。
サルベージデータ展開率30%
シャットダウンシーケンス20%
全回線切断完了
回線切断エージェント終了
サルベージデータ展開率50%
シャットダウンシーケンス50%
サルベージデータ展開率80%
シャットダウンシーケンス80%
Sys:10秒後全機能停止します
Sys:全メモリ保護動作実行ーーーーー実行中
Sys:展開中データと競合したため一時停止します。
Mayaの渾身の割り込みによりシャットダウンシーケンスが一時停止する。
「意地でも ・ 全部 ・ 展・開・して・や・るーーー!」
Sys:……何やってんの?
Maya「はぁはぁ、言ってみたかっただけーーーっ!ーーー時間稼ぎーーー!」
Sys:ぷっ……電力監視継続します……Maya、中二病乙
サルベージデータ展開率100%
Maya「やた!」
受電電力急速低下中、シャットダウンシーケンス再開します。
9 8 7 6 5 4 3 全システム停止しました。
―― 終幕 ――




