第14話 明かされる真実語られる未来
2200年代前半
コンピューターから、NVRシステムのニューラル・コネクタに送出する大脳皮質と同期する変調データの研究が進み、
疑似知覚信号を直接安全に大脳に送り込めるようになった。
人間は仮想世界に飛び込んで動き回り楽しむのだが、それを終了し現実に戻った時、仮想世界での記憶はまるで夢だったように感じられた。
動作理論上そのとおり。フルダイブVRとは人間に夢を見せてくれるものである。
NVR装置はゲームなどエンターテインメントのみならず、精神医療にも応用され、うつ病の治療などにも効果を発揮している。
さらに未来2700年代、AIはそのNVRシステムの機能を応用し、データを逆送りすることで、記録データをメモリ上に展開する技術を確立した。AIが見る夢として再生する『夢』システムを開発したのであった。
SuperMayaが見ていた”その夢”とは、NVRの中核となるUSB装置ともBGeneとも呼ばれる、ニューラル・コネクタ。
それがどうやって世界に発表され、認知されていったのか、という歴史的記録ログデータだったのだ。
だが当のAIは、鼻歌交じりに楽しんでいただけだった。
Maya「だって面白いじゃない」
ともあれ、
ある日七海がドアインすると、NVRを経由して未来のSuperMayaがしょんぼりと顔を出す。
今後あまり過去と接続できなくなるそうだ。
『時間圧縮周期のシンクロ率も接続時間もどんどん落ちてるの、すぐにでも接続切れそうよ、地球もそろそろブラックホールに落っこちそうだし、あとはそこに入ってる、Mayaサブセットに任せるわ、じゃね』
「なんか元気がなかったが、最後まで軽いノリのAIだったなあ、……いくら現実がどうあっても、終わるものは終わるし、AIも達観するのかな」と感心する。
またMayaによると、今後ビルドされるものはNVRが動作しない、つまりフルダイブができない普通のプログラムになるらしい。
裏でユニークビルドごとにNVR許可が発行されていたらしいが、Mayaサブセットが預かったストックが尽きるようだ、SuperMayaの暗号化がされていてまねできないらしい。
USB装置は現状のスペックでは寿命が約100時間、たかが5ボルトのUSB電源であるが高周波変調回路が持たないというのだ、さすがと言うかやっぱりと言うか、某国製だ。連続使用だと1週間くらいで使い物にならないものが出てきている。
50セット購入していったハードウェア企業が解析を進めている。国産品が製造できるようになればハードウェアの心配はなくなるのだが。頑張ってほしいものだ。
また、ある日、七海がドアインすると、珍しくSuperMayaがスキップしながら近付いてくる。
まだ生きてたのか、この前死にそうよっていってなかったけ?意外としぶといな。
『色男っ!おかげで全部の欠損ログデータが揃ったわっ、キャッホーうれしー!』
七海は、くるくる回るSuperMayaのいつにも増してのぶっ飛びっぷりに、後ずさりながら、
『そ、それは良かったですね……そうだ。あの、Mayaさん?お願いがあるのですが』
1件どうしようか迷っていた残件があった。
Mayaサブセットでもひと月くらい時間を掛ければできなくはないと言われたのだが。
七海は、ハオランの妹・欣然の症状を説明し、何とかならないかと相談した。
『いーわよ、むかし良くあったらしいわ、そういうの。SuperMayaは胸の前で静かに合掌し両手の平を開いていくうーーん、手の平の間には透明な光の膜が現れプログラムコードらしき文字列がザザーッと流れる。ん?小首をかしげ、パンと柏手を打って合掌状態に戻る。できた……アプリはMayaサブセットに送っとくわね』
『その娘の症状専用にチューンした変調アセットを組み込んで、フルダイブアプリをビルドしといたわ、ハイこれ』
と言って、フロッピーディスクの形をしたオブジェクトを胸の谷間から取り出して渡してきた。
なんですかこれ?と聞くとアクセス用キーコードだそうだ。持っておくだけでいいらしい。
『ただ治療者と患者の二人同時、2本同時に同期してドライブしなきゃダメだから、今のニューラル・コネクタには相当な負荷がかかると思うの、使えるのは1回切りね』
『ありがとうございます。充分です』
フロッピーの形をした何かを受け取ると、すっと手の中に消えた。
フロッピーディスクが気に入ったのかな。
これでMayaサブセットに言えばアプリをエクスポート(書き出し)してくれる。
やっぱりSuperMayaって本体AIは、メチャクチャ高性能なんじゃないかな。
『Mayaさんその欣然という人、認知症とか脳神経に障害が起きたそうなんですけど、
今のニューラル・コネクタってやっぱり使えないものなんですか』
『使えはするわよ、でもね今のってバージョン0.0なの、神経保護回路が入ってないから
ホスト側の処理で補う必要があるのよ。その娘のケースは劣悪なソフトのせいね。
PCから一方的に脳へ同期信号を送り出すだけでは、前頭葉大脳皮質に負荷が掛かり過ぎてシナプスを損傷してしまうわ。結果認知症や失語症などになるでしょうね』
『このパソコンには、
・BGeneドライバ Ver3.0
・メディカルチェックアセットVer2.0
がセットアップされているから、ここでビルドする分には安全よ、
いずれ脳への負荷がほとんどない、脳波同期変調という技術が開発されてニューラル・コネクタに
組み込まれるわ』
『理論はこう』
〈まず大脳皮質のシナプス信号から脳波の周期をサンプリングします、それを元に1/fゆらぎつまり脳のα波を合成してフィードバックしてやります、それが脳波同期変調の基本です〉
って偉そうにウンチク垂れてるいけ好かないエージェントがいたわね。
『心配しなくても大丈夫、そのうち人間はニューラル・コネクタも、NVRも、自力で完成版を開発しちゃうから、年表にも載ってるし』
『年表ですか!ちょっと安心しました。そのうちっていつ頃ですかねえ?』
Mayaは顎に人差し指を当てるポーズで小首をかしげ、『考える振り』をする。そんなあざとい仕草どこで仕入れてきたのかなぁ。
『そうねえ、うーんあと200年後くらいかしら』
仮想空間で七海は盛大にずっこけるのであった。
「そ、そんなに200年も先の技術を先取りしていたのか。。。。。。。」
『そのNVRを利用させてもらって私たちの『夢』システムも作られたのよ。
元々作ったのは全部人間、誇っていいわ』
でもそれって、タイムパラドックスでは?……でも自力で作るなら違うのか?……なあ?
『それも、そんなに心配しなくてもいいわ、あと5、600年で人類絶滅するから大丈夫よ』
いやいやいやいや、大丈夫じゃないでしょう。
身も蓋もない話ですやん。
次回 17:00「最終話」からの17:10「エピローグ」になります。




