第13話 事情聴取
千葉にある警察署、ハワード・木村はここに勾留された。
取調室に入ってきた刑事が、
「警部ちょっと」 小声で何か伝えている。
「外事?入管案件じゃないのか?」
パスポートが偽造だとばれたようだ。
通常の不法入国だと、出入国管理庁いわゆる入管の出番なのだが、
なぜか入管の職員とともに、警視庁公安部外事第七課の刑事が来ている。
☆ ☆ ☆
チュウヤソフトでは、TGフェスの終了とともに気が抜けたとでもいうべき空気が漂っている。
東京ゲームフェスティバルは終わったが、色々と後始末が必要になった。
「社長、来客ですよ。警察の方ですが……」
受付兼、秘書兼、経理部長兼、監査役兼、社長の妻である中谷政子が不安そうな顔で伝えに来た。
応接室に案内された刑事に社長は緊張した面持ち。
TGフェス対策チームも呼ばれた。
「お忙しいところ、済みません、
千葉県警の佐久間と申します。事件を担当しています」
スーツ姿の鋭い目つきの男が「警視庁公安部の加瀬と申します」
加瀬は「逮捕に協力いただいた、ハワード・木村ですが、パスポートが偽造でしてね、本名はリー・ハオランという外国の工作員、いわゆるスパイですね、それが判明しました」
「「「えーっ」」」
驚愕する社長と対策チームのメンバーたち。
「盗まれたノートPCの確認と、被害届の正式な受理のため、署に同行頂けませんか」
「調書作成のために社員さんにも話を伺いたいと思いまして」
TGフェス対策チームのメンバーは警察のワンボックスカーで千葉の警察署に行くことになった。
「パトカーには乗れないんっすかね」
「高縞そんなに逮捕されたいのか」
「課長業務のほうはいいんですか?」
「ああ片付けてきた」
☆ ☆ ☆
マジックミラーを挟んだ隣の部屋では取り調べが行われていた。
盗まれたノートPCは証拠品として一旦警察預かりになっていたが無事に戻ってきた。
社長は、「刑事さん無理を承知のお願いですがハワードさんと面会できませんか」
刑事は内線でどこかに問い合わせていたが、
「少しなら時間を取れるようなので、なるべく手短に願いますよ」
予想通りアクリル板ごしの会話だった。
「ハワードさん、私はそれほどあなたを怒っていないのですよ。結果的に、わが社はあなたのおかげで世界初のフルダイブVRを実現させてもらえた。感謝すらしているくらいです」
ハワードはグッと両手を握りしめた。「社長さん……本当に、すみませんでした……」
オレは、少し近付き「ハワードさん、少しわからないのですが、どうして私のパソコンを盗んだのですか?パソコンなら他にも置いてあったし、ニューラル・コネクタだって元はあなたが持ち込んだものでしょう?」
「それは、あなたがそこの彼女と抱き合っているのを大画面で見たからです」
「えー」
十三子が顔を真っ赤にして両手で覆っている。
「あなたたちが抱き合っていたのは、私の故郷、福建省の棚田の風景でした。
あの仮想世界なら私も妹ともう一度会えると思ったんです。会えるんですよね!ねえできるんでしょう!?」
社長:「妹さん……? 一体どういうことですか?良ければ事情を聞かせてもらえませんか」
ハワード・木村は、彼の過去を訥々と語りはじめるのだった。
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「二年ほど前、私の故郷、福建省の田舎での話です……」
福建省の緑豊かな山奥、長閑な棚田がどこまでも広がる美しい片田舎。朝日が山の端に覗くころ朝霧が棚田を白く流れ、夕暮れ迫るころ稲穂が金色に輝きます。
そんな、のんびりした田舎に二人の兄妹が暮らしていました。
兄の名前は、李 浩然。妹は、李 欣然といい、
小欣シンちゃん、浩然哥ハオラン兄さんと呼び合うとても仲の良い兄妹でした。
二人の父は既に他界し母は近くの病院に入院しています。
医者からはここでの治療には限界があるといわれ、母親をもっといい病院に入れてあげたいと、仕方なく都会に移り住みます。
ある日、妹は病院から母親の容体が急変したので、緊急手術が必要だと連絡を受けます。
借金して、母親の手術を行ってもらうのですが、
兄には負担を掛けたくないと、急遽必要になった母親の手術費を稼ぐため、勤め先の会社(智能設備研究院)が募集している高額報酬の実験に応募します。
しかしその実験は、長時間のUSB装置の連続負荷実験というものでした。
実験の結果、妹は脳に障害を負い認知症、失語症になって入院してしまいます。
兄は妹の障害の原因となった実験を探るため智能設備研究院を訪ねますがまともに取り合ってもらえません。
普通には抗議もできないと考えた兄は国家安全省に求職します。
「諜報員になって組織の裏からでも真実に辿り着いてやる」
智能設備研究院の実験については公募されてはいたのですが現時点で内容は極秘でした。
妹の状態(認知症、失語症)から人体実験のようなものが行われたのではないかと推測します。
そのUSB装置はシンランの勤務先の智能設備研究院が研究開発していたもので、
正式名称を「脳細胞共振的信号発信機」
Brain Cell Resonance Signal Generator
略してBGeneまたは単にUSB装置と呼ばれています。
BGeneは、電磁波を介して脳に直接コンピューターの信号を送り込むためのもので
ニューラル・コネクタとも呼ばれています。
実験の結果、脳に障害を引き起こす危険性が判明した事と、軍事利用の可能性が低いことからこの先の予算がつかず、開発中止となりました。
ニューラル・コネクタは、13000セット程作られましたが全て廃棄処分することが決定しました。
兄はそれなりの訓練を受けたのち、ヨーロッパ系貿易商社の海外営業員に偽装、名前は日系三世のハワード・木村を名乗ります。
偽造パスポートと問題のUSB装置を船便で渡され日本に潜入することになります。
次回「明かされる真実語られる未来」




