第12話 狂乱の東京ゲームフェスティバル(後編)
翌日は社長が虫の息になるくらい集中的に話を持ち掛けられたくらいで、ブースの状況は相変わらず大盛況だった。
ただ、新山のスタッフさん(桜田サクラコにボコボコにされた人)から、このようなフルダイブなら、身体に衝撃は感じても痛くもないし、ケガもしないんだから、知り合いと対戦できてもいいんじゃないかな。というコメントをもらった。
そうだよねやっぱりそうか、対人対戦は可能だ。というか簡単だ。十三子と露天風呂に入ったんだからできないはずはない。同一LANに別々のニューラル・コネクタからドアインすればいい。
ただ、このフェスの格闘ゲームで慌てて実現しなくても良いと思う。倫理や法律や費用などゲーム以外で見えていない問題もあるように思うのだ。
それでも、フルダイブでも今までのVRと同じように会話でも戦闘でも他者と触れ合うことができる事は見せてやってもいいのかもしれない。Mayaに何かアプリを作ってもらうかな。
その日は帰宅して自宅パソコンにドアインする。
「マスター、お願いがあります」
「Mayaからお願いとか珍しいな」
「たいしたことではありません。ゲームフェスに持ち込んでいるそのノートパソコンをここのLANに繋いで欲しいんです」
「それは構わないけど、なぜか理由を聞いてもいいかな」
「少し長くなりますよ。別に隠すことではないのですが、実は通常この地域、まあ日本ですね。
日本中のLANを介してそのノートパソコンと富山さんのノートパソコンのログデータは少しずつわたしMayaサブセットに送られてきているのです。それは、ここでビルドしたアプリに遠距離広域通信標準アセットというソフトが組み込まれているからなのですが、東京ゲームフェスティバルの会場に限ってなぜか通信できない、いわゆる圏外になってしまうのです。そこで、せめてここに帰ってきたときにここのLANを経由してログデータを同期したいのです」
「そうだったのか、SuperMayaがどうやってログデータを収集しているのかなとは思っていたよ」
「ですので、そのパソコンは大切に、盗まれたりしないようにしてください。それはSuperMayaの願いでもあります」
「ついでに言いますと今言った2つのノートパソコンには、標準NVRアセットというソフトも組み込まれていますので、どこのLANでも繋がっていればドアインするだけで同一仮想空間にドアインできますよ。SuperMayaから仮想空間データを1つ預かっていますのでそのノートパソコンに入れておきますね、余ってたログデータから作ったって言ってましたよ」
なんだ、既に実現していたのか、そのうち十三子のノートと繋がるのか試してみよう。
東京ゲームフェスティバルは3日目から一般公開となる。
チュウヤソフトのブースは昨日に増して大賑わいだ。
開場と同時にウワサを聞き付けたゲームファンと、企業の関係者が押しかけている。
こちらのスタッフも慣れてきたのか、次々にお客さんをさばいている。
「みんな、交代でお昼食べてねー」十三子はしっかり自分のロケ弁を確保している。
3日目、4日目とイベントをこなしみんなずいぶん手馴れてきたように見える。
高縞さんなんか「俺、イベント業界に転職しようかな」とか言っている。
最終日、低気圧が接近しているとかで、朝から天気は曇り空、開催が危ぶまれたが実施されることになった。
ただし、時間は、9:30~15:00と、終了時間が繰り上げられた。
最終日の朝、「みんな後少しだガンバロー」榎本課長もお疲れ気味だ。
社長は昨日帰ってから寝込んだと聞いたが、最後には顔を出すといっていた。
昼も過ぎてもう少しで閉会という頃、
チュウヤソフトのブースに一人の男がふらりとやってきた。
「榎本さん、お久しぶりです」
「ハワードさん!ずいぶんご無沙汰でしたね、だいぶ連絡をとろうとしたんですよ」
「それは申し訳ない、本社に呼ばれましてね、2か月ほど帰国していたんですよ」
もちろん嘘である。
「そうでしたか、国内にいなかったのなら仕方なかったですね」
「とみ、ちょっといいか、試したいことがあって、お前のノートでドアインしてほしいんだ、意識がなくなるんで、もちろんバックヤードでな」
二人でバックヤードに入り込む。
「わたしが入るだけでいいの?というかホストPCもなしに、ここでドアインできるの?」
「ああそれを試したいんだ。オレも自分のでドアインしてみる。こっちのPCにMayaさんが仮想世界を用意しているそうだ」
「わかったわ、温泉みたいなことになるのね」
「時間はほんの少し、2,3分くらいだから、じゃいくぞ」
二人ほぼ同時にドアインする。
チュウヤソフトのブースの横はもちろん新山電機のブースであり、天井から吊り下げられた55型モニタが3面並んでいる。
その中の1つ、右端のモニタにチュウヤソフトからの映像が表示されたが、ゲーム画面ではないようだ。
会場をブラついていたハワードが、それに目を止め立ち止まった。
ドアインと同時にオレの意識が切り替わる。
いつものドアインとは違うみたいだ。
辺りは白っぽい霧が流れているように見えるが、すぐに朝日が差し込み霧が晴れていく。
ここはどこだろう田舎だな。あたりには棚田の景色が広がっている。
あぜ道をむこうから十三子がかけてきて、抱きついてきた。
『ヤツシゲー』
『やめろよ、重いよ』
『なんですってえ!』
そこでドアアウトしてしまった。
仮想空間の共有確認はとれたんだが、さっきの景色はなんだ?SuperMayaがセットしたと言っていたが?
ブースの外では、55型モニタにほんの数分だけ表示された仮想世界のものらしい寸劇は、あれなにーと言われるくらいでスルーされていた。
ただ、目を見開きそれを見つめていたハワードは、その場に立ち尽くしていた。
バックヤードから出てきたオレと十三子に森さんが「二人密室でいい事してたでしょう?とみとみは重かったあ?」
なんでバレてるっ!?
たしかMayaはどこのLANでも繋がるようなことを言っていた、だからか!
場内アナウンスが、今日の終了時間は午後3時と告げているもう少しだ。
十三子が「あれ、ヤツシゲ、あんたのパソコンは?バックヤードに置いてきたの?」
「いや?持ってきたぞ、そこの隅っこに置いたと思ったけど」
隅のパイプ椅子に座って「店番しとく」と言っていた高縞先輩が
「あ、あれお前のノートだったのか?さっききたハワードつったか、あのオッサンが普通に、『お疲れ様ー』って持ってったぞ、あっちの方に急いで行ったけどー」
(なんで?、盗んだのか?)
「なんだって?なんで、ハワードさんが?ちょっと探してくる」
「わたしも行く。サクラコちゃんわたしのノートパソコン持ってて、ジャマならバックヤードのロッカーに入れといて」
「とみ、スマホで連絡する」「わかったわ」
十三子は高縞が指さす方向へ走り出した
オレはスマホをポケットから引っ張り出し、GPSトラッカーアプリを起動した。
「コイツか、今は、え?ホール5のあたりをうろうろしているようだ」
十三子に電話する。
「とみ、いまホール5のあたりだ、何か迷ってるみたいな動きだ」
『わかったー』
どうせ、出口はホール1か2だ先回り、と思ったが人が多くて思うように進めない、おまけにブースが入り組んでいたりすると、ほとんど迷路だ。
「こんな迷路ゲームがむかしなかったっけ、ゲームフェスだけに」
『なにバカなこと言ってんの!見つけたわ、ホール3に向かって走ってる。あーもうじゃま』
新山ブースはホール8だから出口に一番遠い。直線でも500メートルくらいある。
場内アナウンスが聞こえる。
『本日はご来場いただきましてまことにありがとうございます。あと30分ほどで閉会とさせて頂きます。どちら様もお忘れ物がございませんようご退場ください』
GPSトラッカーアプリを見る。
ホール1にいる!逃げられてしまう。
(Mayaに言われた。
『ですので、そのパソコンは大切に、盗まれたりしないようにしてください。それはSuperMayaの願いでもあります』
未来から、何が見えていたのだろうか。)
ホール1出口が見えてきた、「あっ!」
男がよろよろと走っている。まあねー1~2キロメートル走った事になるからね。
そこへ左から走り込んできた十三子が猛烈なタックルを食らわせ二人ともゴロゴロ転がっている。
周りにいたお客さんたちは、何事かと遠巻きになったのだが、十三子はきょろきょろと辺りを見回し、
「捕まえたー!もう逃がさないわよお!」
と男に馬乗りになり、両手を振っている。
周りの、観客?からパチパチと拍手が聞こえる。
なーんだー、イベントの続きかー?
オレはやっと近くに辿り着いて「とみ、そのコスプレで良かったな、全然違和感ないぞ」
十三子は、顔を真っ赤にしながら「みんなーまたねーさよならー」
ヤケクソだな。
オレは近づいてきた警備員に「窃盗犯です。警察を呼んでください」
『本日はご来場ありがとうございました。これをもちまして東京ゲームフェスティバル、2026を閉会いたします』
「さあ、ハワードさん、行きましょうか」
ハワード・木村氏は駆け付けた警察官に身柄を拘束され、連行されていった。
次回「事情聴取」




