第11話 狂乱の東京ゲームフェスティバル(前編)
ディスプレイモニターの大手メーカー新山電機さんとの提携、協賛という形で急遽出展が叶った。
丁度むこうもフェスで使うコンテンツを募集していて、社長がツテのツテのツテを辿って飛び回った成果だ。
フェスの前日、
会場には中谷社長も来ているし、新山の中西西中さんたちもいる
「目的は世界初のフルダイブVRゲームを開発したことを大々的にアピールする事だ。
フェスの熱気に飲まれて目的を見失わないようにしよう!」
社長が対策チームに気合を入れる。
新山さんの向こう側から、―― あんたがね ――と聞こえた。
知らんぷりしとこう。
3日前から会場設営が本格的に始まっているが、うちは借りてるブースにノートPCを並べるくらい。
なのだが、
「実機とかどうしますかね」
「毎日終了時にバックヤードで保管だな、しっかり施錠できるように手配しよう」
「あと電源の引き回しとルーター設置っすね」
「新山さんの大画面スイッチャーっていうの?どこにあるんですかー」
「あ、ポスターポスター!」
「パソコンにどうやってつなぐんですかあ」
「POPデカめに印刷してきたんですけどお、どこかに貼れませんかあ」
「だれかHDMIケーブル知らないか?そいつでつなげばいいはずだがー」
「よくわからないから新山さんと打ち合わせが必要だな」
いつものソフト開発の打ち合わせとは全く勝手が違う、『畑違いのイベント準備と打合せ』にみんな大混乱だ。
新山電機さんは、さすがに手馴れている、動きに無駄がない。
自分のところで作っているだけあってデッカイモニターだ。最新の4K55型モニターを3面吊り下げでアピールするそうだ。かなり迫力あるなあ。
右往左往しながらも、チュウヤソフトの「フルダイブ体験ブース」は見栄え良く完成した。
「開発2課からも人出してくれるって」
十三子が仲良くなった二人、
早乙女音芽さん
今井多沙月さん
「エキストラみたいで悪いわね、ゲームの説明と、お客さんの列の誘導整理を手伝って貰うことになると思うわ」
さて、東京ゲームフェスティバル開幕初日である。
オープン直前の最後の準備に、開発1課と2課からのヘルプを加えたメンバーがブースに集合した。
「ちょっと君達バックヤードに来てくれないか」
榎本課長がブースの後ろに作られた小部屋に女子社員を集める。
スタッフの着替えとか、休憩。予備機材を置いておくための部屋だ、セキュリティーはイマイチだが最低限のプライバシーは保たれる。
オレ:「さて十三子、ミッションだ、これを着ろ」
森さんがコスプレ専門店で大量に仕入れてきた衣装を前日に運び込んでいた。
その中から、これっ!と選んだ衣装を差し出す。
「パルクールで先導するNPCキャラのコスプレをしてもらおうか」
「ええーっ!こんな短いスカート!無理無理無理ーそれ犯罪じゃないの」
森:「大丈夫よ下はレオタードとレギンスだし、ヤワハダの露出はないわよープロの有名レイヤーさんもくるから、こんなの全然目立たないって、ダイジョブ、ダイジョブ」
「サクラコと一緒にしないで!絶対運営がダメ出ししてくるから」
「この程度大丈夫だって、Mayaが格ゲーで、もーっときわどいビキニアーマーをNPCに着せてたから」
ポロリしてたし、それ人間じゃないから、木人のおっぱい見せられても誰もうれしくないから
ジタバタしていた十三子であったが、観念して衣装を受け取った。
「あのー私達、エキストラって」「言ってないわよ、さあ着替えましょう」「「ひぃー」」
2課の、早乙女音芽さんと今井多沙月さんが巻き込まれるのは
予定調和である。
「さあ、着替えるから出て行って」「あのーとみ」「いいから出てけーっ」
森さんは、シャオユウのコスプレでチャイナドレスを着ているがあんまり似ていない
「鳳凰の構え!」とかいってマネしているが、ひっくり返って尻餅をついている。
高縞さんが「あっはっはー森ぃ、本番でそれ止めとけよー、イヤ、ウケるからやっていいぞー」
チャイナドレスの下はシャオユウと同じスパッツだから問題なしっだって。
森さんと高縞さんは格ゲーのコスプレで客寄せ、対戦のマネをブースの前でするらしい
素人感爆出しで、かえってウケそうだ。
場内アナウンスが聞こえる。
『ただいまより、東京ゲームフェスティバル、2026を開催いたします』
ポスターには、世界初!フルダイブ!VRゲームなどと書いているのだが、ほとんど見向きもされない。
やはり有名どころのN社、S社、C社などに人は集中している。
モンハンの最新作とか見てみたいけど、持ち場を離れるわけにはいかない。
オレ「そうだろうねー、そんな気はしてた、社外秘だったから知名度0%だし」
「わたしたちなんて、何のコスプレかわからないし、ただの素人コンパニオンよね」
森「チャイナドレスは早まったかしらー。高縞先輩静かにしといてくださいよ、今何かしたら、ただのイタイ人ですからあ」
フェスは、初日と2日目はビジネスデイ。会場内は、どこか商談会のような引き締まった雰囲気も漂っている。
まあゲームフェスなので、とっても賑やかではあるのだが。
「「やあお疲れ様」」
とやってきたのは、ブースを提供してくれた新山電機の営業の中西西中さんたちだ。
「一番のりだよね、ちょっとやらせてもらえないかと思ってさ」
榎本課長が「どうぞどうぞ、今なら遊び放題ですよ、ご覧の通り閑古鳥ですからはっはっは」
「パルクールはこの前やったから、格闘ゲームやらせてもらおうかな、どうやるの?」
「基本的にN社さんやS社さんの対戦格闘技ゲームと同じなのですが、フルダイブですので自分の身体でそれをやるという感じですね、コンボ技も自分の身体を動かして出すという感じです。ワザが決まれば演出のエフェクトは結構気持ちいいですよ」
「とりあえずやってみますか」
早乙女「では、こちらにどうぞ、安全の為必ず椅子に深く腰掛けてください。KOするか、KOされるとそのラウンドは終了です。今回は3ラウンド制です。途中でやめたいときは、頭上を見上げてください。非常口が出てきますのでそれを掴んでください」
榎本「相手はNPCなので遠慮はいりません、攻撃されても痛くありませんから。どうぞストレス発散してください」
早乙女「じゃ、いきますよ」
中西さんがドアインし動きが止まる。ゲームPCのモニタにはプレイヤーと相手のアバターが表示されているが、プレイヤーの顔が何となく中西さんっぽい。
『ファイッ!』1ラウンド目が始まった。
新山のスタッフさんがちらほら覗きにくる。
森さんが「新山のお兄さんでしょ、ゲームしましょうよお」、とチャイナドレスで捕まえている。
ブースの前だからいいけど、夜のお店のホステスみたいだよ?
もう1台の格ゲーPCに座らせて説明している。
「フルコンタクトですよ、じゃあ、いきますよーえいっ」
新山のスタッフさんがドアインする。モニタには、やはりそのスタッフさんっぽいアバターのプレイヤーが出現している。
やっぱり。Mayaさんからは何も聞いていないがノートPCのカメラで顔の映像を取り込んで合成してるな?
それより、相手のアバターだが、なぜか、森さんがシャオユウのコスプレで対戦相手に出てきている。
森さんはブースの前で客寄せ中なのだが「わたしじゃありませーんあれは桜田サクラコでーす」
『ファイッ!』1ラウンド目が始まる。
『ハーアッ!ハイッハイッハイッ!』『ハイッハイッハイッハイッ!』
なんかサクラコの攻撃が容赦ねーな
ふと見上げると55型吊り下げモニタに2つの格ゲーのモニタが映し出されていた。
まだ開催したばかりだし、本番表示テストも兼ねているんだろうね。
通行中のお客さんも、新山のほかのスタッフも見上げている。
やがて、中西さんもスタッフの人もドアアウトしてきた。
中西さんは2度目のフルダイブなので「いやーやられちゃいましたよははは」とか平気なのだが、いきなり捕まったスタッフの青年は、「はっここどこ、なんだよー!3DVRなんかじゃないぞー!これ、フルダイブじゃないかーっ!」
そんなに大声出さなくっても、いい宣伝にはなるけどね。
それからは、「ちょっといい?」「次やらしてくんない?」「こっちは何、パルクール?」「やりたいやりたい!」
順番待ちの列をさばくのに忙しくなるのだった。
社長はだんだん盛況になっていくブースをみて、ニコニコ顔だったが、「中谷さんですか?わたくしM社の日本支社のツナザカ・マキと申します。お名刺頂けませんか?」
「おーい中谷君盛況だなあ」「中谷さんご無沙汰しています」「中谷さん!」
今まで付き合いのあった会社の社長さんを始め、なにやら雲の上のような人まで大勢に取り囲まれている。
やがて、
榎本課長「みんな、初日終了だ、お疲れさん、設備の片づけと清掃を手分けしてやろう、社長少しいいですか」
榎本課長は今日の状況から、メンバーを交代で休ませる事を提案している。
あと4日あるし、オレもそれがいいと思う。だって今日みたいな大盛況が連続すると身体が持たないって。
十三子が、ロケ弁食べる暇もなかったーと嘆いている。
メンバーがブースに集まって明日以降の出勤、休暇を調整した。
慣れないイベントという仕事にどっと疲れた。でも非日常の1日はとても楽しかった。
次回「狂乱の東京ゲームフェスティバル(後編)」




