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第81話 大陸会議への道

 ロードが王都に来て一週間が経った。


 その間、王宮では連日会議が開かれた。魔法顧問として俺も出席し、古の災禍への対策を議論した。しかし問題は一つに絞られていく。


「情報が少なすぎる」とシルヴィアが会議の合間に言った。「古文書の記述だけでは、敵の正体も規模も分からない。対策を立てるには、もっと調査が必要だ」


「ロードの国には他に資料があるか?」と俺は聞いた。


「あるかもしれない」とロードが答えた。「ヴァルナ連邦の古都サルタには、千年前の記録を保管する大図書館がある。そこに行けば、より詳細な情報が得られるかもしれない」


「海を渡る必要があるか」とレオが言った。


「そうだ」とロードが頷いた。「ただ——今は嵐の季節が終わりかけている。今から出発すれば、二ヶ月ほどで往復できる」


 俺は王に報告した。王は少し考えてから言った。


「行ってきてくれ。ただし、その前に一つお願いがある」


「何ですか」


「北の大国カルドの使者が、三日後に王都に到着する予定だ。ロードの情報では、カルドもすでに事態を把握しているという。まず彼らと会って、情報を共有してほしい」


「わかりました」


 三日後、カルドの使者団が王都に到着した。


 六人の一行で、先頭に立つのは三十代の男性だった。銀髪に長身、落ち着いた目をしている。名をヴィクトルといい、カルド王国の第三王子だという。


「エルダリアの顧問殿か」とヴィクトルが俺を見て言った。「噂は聞いている。五つの遺跡を越え、フォルスハイムの核を安定させた男だと」


「噂が広まっているとは知らなかった」と俺は言った。


「我が国の情報網は広い」とヴィクトルが微かに笑った。「それに——古文書の予言も知っている。『五つの試練を越えし者』があなたであるなら、この件に最も深く関わることになる」


「覚悟はできています」と俺は言った。


 ヴィクトルが俺をしばらく見つめた。それから頷いた。「信用できそうだ。よし、情報を共有しよう」


 謁見室でヴィクトル、ロード、王、そして俺たちが揃って話し合った。カルドが持つ情報は、ロードのものとは別の角度からの記録だった。


「我が国の北部では、三十年前から地底の揺れが増加している」とヴィクトルは言った。「表向きは地震として処理しているが、魔力測定をすると通常の地震とは異なる波形が出る。古の災禍が目覚めに向けて体を動かしている、と我が国の魔導師は解析した」


「三十年前から」とシルヴィアが手帳に記録しながら言った。「ヴァルナの海底異変が五十年前。カルドの地底異変が三十年前。段階的に活発化している」


「そして今」とロードが言った。「海の波動が急に強くなってきた。ここ一年で急加速している」


 俺は《深層感知》を、感じられる限り広く展開してみた。この部屋の中、王宮、王都、その外——そして遠く、遠く。


 何か、感じた。


 地の底から来る、微かな脈動。意識しなければわからないほど弱いが、確かにある。


「俺にも感じられる」と俺は静かに言った。「地の底から、何かが動いている」


 部屋が静まり返った。


「確認できたのか?」とヴィクトルが鋭く言った。


「かすかにだが」と俺は答えた。「活動はまだ弱い。でも確かにある」


「《深層感知》は正確か?」


「これまで外れたことはない」


 ヴィクトルがシルヴィアを見た。「あなたはどう分析する?」


「段階的な活発化と、ライトの感知が一致するなら」とシルヴィアが言った。「十年以内に何らかの変化が起きる可能性が高い。楽観はできない」


 重い空気が流れた。


「だからこそ、今動かなければならない」と俺は言った。「ヴァルナの大図書館に行って情報を集める。その上で、大陸の国々と対策を共有する。まず何ができるかを考えよう」


「賛成だ」とヴィクトルが言った。「カルドも全面協力する。私も同行したい」


「助かります」と俺は言った。


 レオが俺の隣で小声で言った。「メンバーが増えてきたな」


「旅はそういうものだ」と俺は答えた。


「まあな」とレオが笑った。「賑やかな方が楽しい」

 夕食は王宮の大広間で、エルダリア、カルド、ヴァルナの三者が揃って取った。


 言語の壁はあったが、ロードが通訳し、俺が《言語理解》で補った。食事を共にしながら、三国の人間が少しずつ打ち解けていく様子が、俺には嬉しかった。


 危機が人を繋げる。皮肉なことだが、それも確かだ。


 食事の後、ヴィクトルが俺の隣に来た。


「聞いていいか」と彼は言った。


「どうぞ」


「追放された人間が、なぜここまで国のために動く?」とヴィクトルが直接聞いた。「王への忠誠ではないだろう。あなたは王が謝罪するまで動いていた。なぜだ?」


 俺は少し考えた。


「国のためというより、人のためだ」と俺は答えた。「王都の市民、港町の人々、ルードの集落の人々。彼らを守りたいと思う。国籍や立場は関係ない」


「人のため」とヴィクトルが繰り返した。


「あなたも同じじゃないですか」と俺は言った。「王子の身分で、わざわざ使者として来た。カルドの民を守りたいからでしょう」


 ヴィクトルが静かに笑った。「そうだな。同じかもしれない」


「なら、話は早い」と俺は言った。「目的が同じなら、力を合わせられる」


「ライト・アシュフォード」とヴィクトルが言った。「あなたと組めて良かった」


「こちらこそ」と俺は答えた。


 窓の外に夜の王都が広がっていた。灯りがともり、人々が行き交う。平和な夜だ。しかしその地の底では、何かが静かに目を覚ましつつある。


 この平和を守るために——やることは、まだ山ほどある。


「明後日、出発しよう」と俺は言った。「ヴァルナへ向けて」


 旅の準備が、また始まった。

 翌日、俺は仲間たちを集めた。


「ヴァルナへ行く。船旅になる。二ヶ月ほどかかる」と俺は言った。「強制はしない。残りたい者は残っていい」


 全員が黙った。それから、レオが口を開いた。


「何を今さら」


「俺も行く」とガルダンが短く言った。


「海の魔法、見てみたいです」とリナが言った。


「大図書館の資料を見ないで帰れるわけがない」とシルヴィアが即座に言った。


 全員が行く気だった。俺は笑った。


「ありがとう」


「礼はいらない」とレオが言った。「俺たちはパーティだろ。一人が行くなら全員行く。それだけだ」


 シルヴィアが旅の準備リストを取り出した。「船旅ということは、防水対策も必要ね。まず何から揃えましょうか」


「食料は多めに」とリナが言った。


「酔い止めの薬も」とガルダンが珍しく実用的なことを言った。


「お前、船酔いするのか?」とレオが驚いた。


「山育ちだ。海は知らない」とガルダンが答えた。


 また笑いが広がった。


 出発まで一日。明後日の夜明け、五人はヴィクトルとロードとともに王都を発つ。港町から船に乗り、南西の海を渡る。


 見たことのない海、知らない国、そして大陸の命運に関わるかもしれない古の記録。


 どんな旅になるかは、行ってみなければわからない。


 でも——それでいい。それがいい。


 俺たちの旅は、いつもそうだった。そして、その先に何が待っていても——逃げない。それだけは決めていた。

毎日更新中!カルドの王子ヴィクトルも加わり、いよいよヴァルナへ!次話もお楽しみに!

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