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第80話 ヴァルナ連邦の使者

 翌朝、港町を出発した。


 ロードと彼の部下三人が一緒に来た。長旅で疲弊しているはずだが、その目には強い意志の光があった。伝えなければならないことがある——その一点だけで、ここまで来たのだろう。


「王都までの旅は大丈夫か?」と俺はロードに聞いた。


「問題ない」と彼は答えた。「海を越えてきたのだ。陸の旅など、散歩と同じだ」


 レオが隣で「豪快な人だな」と呟いた。


 道中、ロードは少しずつ話してくれた。ヴァルナ連邦がどんな国かを。


「我々の国は、七つの都市が連合して一つの国を作っている」と彼は言った。「大陸の南西にある大きな島の上だ。温暖で、海産物が豊富だ。魔法も発達しているが、あなたたちとは違う体系の魔法だ」


「どんな魔法ですか?」とシルヴィアが目を輝かせた。


「海の魔法だ。風を読み、波を操り、海流を感じる。陸の魔法とは根本が違う」


「海の魔法か」と俺は《深層感知》を意識した。「俺には感じ取れない系統かもしれない」


「それはわからない」とロードが言った。「あなたの魔法は……見たことがない種類だ。何スキルあるのか」


「数えたことがない」と俺は正直に答えた。


 ロードが目を丸くした。「数えたことがない?」


「増えていくので」


 ロードが信じられないという顔をした。レオが「俺たちも最初そんな顔をした」と言い、全員が笑った。


 三日後、王都エルダリアに到着した。


 城門の衛兵がヴァルナの人々を見て驚いたが、俺の顧問証明書を見せると通してくれた。王宮に通報が行ったらしく、城内に入るとすぐに王宮の使者が迎えに来た。


 謁見室に通されると、王がすでに待っていた。ロードたちを見て、王は表情を引き締めた。


「はるばる来てくれた」と王がロードに声をかけた。「ライトから連絡を受けた。危機の話を聞かせてほしい」


 ロードが一礼した。それから、持参した革装の書物を開いた。


「我々の国に伝わる古文書だ」とロードは言った。「千年前から語り継がれてきた予言がある。『海の底に眠りし古の災禍、五百年に一度目覚め、大陸を揺るがす。しかしその眠りは今、乱れ始めている』」


「五百年に一度」とシルヴィアが繰り返した。「それが今、乱れているということ?」


「そうだ」とロードが頷いた。「五十年前から、我々の海で異変が起き始めた。海底から不規則な魔力の波動が発生するようになった。古文書の記述と一致する」


「五十年前」と俺は言った。「ルード山脈の集落が扉を閉めたのも、五十年前だ」


 シルヴィアがはっとした顔をした。「関係があるかもしれない。魔力の異変に敏感な彼らが、危険を察知して山に籠もった……」


「その可能性がある」とロードが言った。「大陸の各地で、五十年前から小さな異変が起きているはずだ。我々はそれを確認するために、大陸中の国へ使者を送っている。エルダリアはその一つだ」


 王が静かに言った。「他の国はどうだ?」


「北の大国カルドはすでに情報を受け取った。東の連邦も動き始めている。しかし——各国が協力して対処しなければ、意味がない。古の災禍は、一国の力で止められるものではないからだ」


 謁見室に重い沈黙が流れた。


 俺は考えた。フォルスハイムの核を安定させた。ルードの集落と繋がりを持った。そして今、海の向こうから警告が来た。すべてが繋がっているような気がした。


「俺たちには何ができますか」と俺は聞いた。


 ロードが俺を見た。「あなたの力が鍵になるかもしれない。古文書にはこうも書かれている——『五つの試練を越えし者が、災禍に対する最後の盾となる』」


 全員が俺を見た。


「……また俺か」とレオが苦笑した。


「逃げないぞ」と俺は即座に言った。


「わかってる」とレオが笑った。「だから言ってない」

 その夜、王宮の一室でロードと詳しく話した。


 俺、シルヴィア、レオ、ガルダン、リナの五人と、ロードと部下たち。テーブルの上に地図が広げられ、古文書のページが並べられた。


「古の災禍とは具体的に何か」とシルヴィアが聞いた。「姿が描かれた記録はあるか?」


「ある」とロードが古文書を開いた。「これだ」


 描かれていたのは——巨大な何かの輪郭だった。触手のような形が海から伸び、大陸に達している絵だ。古い絵なので細部は不明だが、その大きさが尋常ではないことは伝わってくる。


「でかい」とレオが絵を見て言った。


「これは一体……」とリナが青ざめた。


「古の魔物か神か、我々にもわからない」とロードが言った。「ただ過去の記録では、目覚めるたびに沿岸の都市が複数消えた。海が荒れ、大地が揺れ、空が暗くなった——と書かれている」


「いつ目覚めるんだ?」と俺は聞いた。


「わからない」とロードが首を振った。「早ければ十年後。遅くとも五十年以内に、と古文書は言っている」


「幅があるな」とガルダンが言った。


「その分、準備できる時間があるということだ」と俺は言った。「状況を把握して、対策を立てる。まず何が必要かを考えよう」


「頼もしい」とロードが言った。「あなたのような人間が、大陸にいてくれてよかった」


「仲間がいるから言える言葉だ」と俺は隣の四人を見た。


 レオが肩をすくめた。「また厄介ごとに首を突っ込むな、俺たちは」


「嫌か?」


「嫌じゃない」とレオが笑った。「ただ、まあ——たまには平和な旅もしたいと思っただけだ」


「帰りの馬上でしていいぞ」


「それはそうだな」


 笑い声が部屋に広がった。ロードの部下たちも、言葉は通じないなりに笑顔になった。


 深夜まで話し合いは続いた。


 翌朝、王との会議が開かれた。王はロードの話を聞いた後、静かに言った。


「エルダリアは協力する。大陸の危機に、一国だけで向き合う理由はない」


「ありがとうございます」とロードが深く礼をした。


「ライト」と王が俺を見た。「この件の対策を、あなたに中心になって進めてほしい。他国との連絡も含めて」


「わかりました」と俺は答えた。「ただ条件がある。俺一人でなく、仲間たちと一緒に動かせてください」


「もちろんだ」と王が頷いた。


 廊下に出ると、レオが俺の隣を歩きながら言った。「大陸規模の話になってきたな」


「ああ」


「面白いじゃないか」


「そうだな」と俺は笑った。


 王都の空が青く高く広がっていた。どこまでも続く旅の先に、また新しい戦いが待っている。怖くはない。仲間がいる。そして——やるべきことがある。


 それだけで、十分だ。

 その日の午後、俺はカーラを訪ねた。


 王宮の伝令使として仕事を再開していた彼女は、執務室で書類を整理していた。父のアルフレッドも体力が戻り、今は王宮の資料室で働いているという。


「ロードさんたちのこと、聞きました」とカーラが言った。「大変なことになりそうですね」


「そうだな」と俺は言った。「カーラには伝令使として、他国との連絡を手伝ってほしい。ロードが言っていた北の大国カルドや東の連邦と、正式な連絡を取る必要がある」


「任せてください」とカーラがきっぱりと言った。「父も情報整理を手伝えると思います」


「ありがとう」


「ライトさん」とカーラが俺を見た。「また長い旅になりそうですか?」


「かもしれない」と俺は正直に答えた。「でも今回は違う。一国じゃなく、大陸全体で動く話だ。旅というより——大きな仕事だ」


「大きな仕事」とカーラが繰り返した。「でも、あなたらしいと思います。いつも、そういう場所に立っている」


「そうか?」


「ええ」とカーラが微笑んだ。「追放された人が、大陸を守ることになる。小説みたいですね」


 俺は思わず笑った。「そうかもな」


 執務室の窓から王都が見える。城壁の向こうに広がる街、その先に続く街道、そして海の彼方に未知の脅威がある。


 でも今は、ここが俺の場所だ。


 仲間と、目的と、やるべきことがある。


 それ以上は、何もいらない。

毎日更新中!大陸規模の新たな脅威が明らかに!次話もお楽しみに!

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