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第77話 顧問の仕事

 魔法顧問になって最初の一週間は、思っていたより忙しかった。


 王宮には毎日のように問題が持ち込まれた。北の村で魔物の群れが出た。東の港で魔法障害が発生した。王国軍の魔法部隊が訓練で事故を起こした。それぞれの報告を聞いて、助言を出す。


「想像していたより実務的だな」と俺はシルヴィアに言った。


「顧問とはそういうものよ」と彼女は楽しそうに言った。「ところで、私も手伝っていいかしら? 王宮図書館の古代魔法の資料が読み放題なの。天国みたい」


「好きにしてくれ」


 シルヴィアは魔法顧問の助手という形で王宮に出入りするようになった。レオは王宮の衛兵隊に加わり、若い兵士たちの訓練教官として慕われた。ガルダンは王都の冒険者ギルドに顔を出し、仕事が来れば請けるスタンスで過ごした。リナは王宮の薬師部門と繋がり、薬草や錬金素材の鑑定を手伝った。


 それぞれが自分の居場所を見つけ始めていた。


 そんなある日、王から呼び出された。


「北の辺境に調査を頼みたい」と王は地図を広げながら言った。「ルード山脈の向こう——かつて人が住んでいたが、五十年前から魔力の異変が続いて外との連絡が途絶えている。何があったのか確認してほしい」


「また廃墟か」とレオが後ろで呟いた。


「違う」と王が首を振った。「今も人が住んでいる。ただ、外との交流が途絶えているだけだ」


「危険な場所ですか?」とリナが聞いた。


「詳細は不明だ。だからこそ調査が必要なんだ」


 俺は仲間たちを見た。


「行くか」とレオが即座に言った。


「当然でしょ」とシルヴィアが言った。


「異存なし」とガルダンが腕を組んだ。


「行きます!」とリナが元気よく言った。


「行きます」と俺は王に答えた。「三日後で」


「装備と食料は王宮で手配する」と王が頷いた。


 廊下を歩きながら、レオが俺の肩を叩いた。


「顧問の仕事、最初の出張がルード山脈か。休む暇もないな」


「望むところだ」と俺は答えた。


 久しぶりに旅の準備をする高揚感があった。王都での仕事も悪くない。でもやはり、外へ出る時のこの感覚は他の何とも変えられない。


 三日後の朝、五人は王都の北門を出た。


 ルード山脈まで馬で四日ほどかかる。道中は整備された街道が続き、旅は快適だった。以前の旅と比べれば装備も充実している。王宮から支給された防寒具、上質な食料、医療品。


「前の旅とは大違いだな」とレオが馬上で言った。


「あの頃は毎日野宿していたな」とガルダンが懐かしそうに言った。


「嫌いじゃなかったけど」とリナが言った。


「私も」とシルヴィアが言った。「不便だったけど、あの旅が好きだった」


「また同じ旅をしてるだろ」と俺は言った。


「確かに」とシルヴィアが笑った。「まったく変わっていない」


 四日間の道中は穏やかで、魔物にも敵にも会わなかった。それがかえって不思議なほどだった。


 そしてルード山脈の麓に着いた時——俺は《深層感知》で山の向こうに広がる場所を探った。


 確かに、人の気配がある。かなりの数だ。しかし——普通の人間の気配とは、少し違う。


「シルヴィア」と俺は言った。「山の向こうに魔力を持つ人間が大勢いる。ただ……使い方が見たことのないものだ」


「どういうこと?」


「うまく言えないが——俺たちとは違う種類の魔法を使っている気がする」


 シルヴィアが険しい顔をした。「それは……面白い。とても面白い」


「学者の顔になってる」とレオが苦笑した。


「悪い?」とシルヴィアが言い返した。


 山脈の入り口、石造りの門が見えた。扉は閉まっている。しかし——門の上に人影があった。こちらを見ている。


「向こうも気づいている」と俺は言った。


 五人は馬から降り、ゆっくりと門へ近づいた。声をかけようとした瞬間、門の上の人影が口を開いた。


「来ると思っていた」と声が降ってきた。女性の声だった。「王の使いか?」


「そうだ」と俺は答えた。「話がしたい」


 しばらく間があった。それから——重い音を立てて、門が開き始めた。

 門をくぐると、そこには小さな集落があった。


 石造りの家が数十棟、山の斜面に沿って並んでいる。住民たちが俺たちを取り囲むように集まってきた。二百人ほどだろうか。老若男女が混じっていて、表情は警戒と好奇心が入り混じっていた。


 その先頭に、三十代とおぼしき女性が立っていた。門の上にいた人物だ。赤い髪を結い上げ、古い様式の服を着ている。目が鋭く、しかし敵意は感じない。


「私はメリア。この集落の長だ」と彼女は言った。「あなたたちが来た理由は想像がつく。五十年間、外と連絡を絶っていた理由を聞きたいのだろう」


「そうだ」と俺は言った。「そして——あなたたちが無事かどうかを確認したかった」


 メリアが少し表情を和らげた。「正直に言う。私たちは外との接触を避けてきた。理由は——ここに力があるからだ」


「魔法か」とシルヴィアが前に出た。「山の向こうから感じた。普通とは違う魔力の使い方だった」


「さすがだ」とメリアが言った。「私たちは古代魔法の継承者だ。五十年前、当時の長が『外の世界に知られれば利用される』と判断して、扉を閉めた」


「利用される、か」と俺は言った。


「エルドライン侯爵の動きを、私たちは知っていた」とメリアが言った。「あの男が古代の力を求めていることも。だから余計に警戒した」


「侯爵は捕まった」と俺は言った。「フォルスハイムの核も安定した。王国は変わろうとしている」


 メリアが俺をじっと見た。


「あなたが、核を安定させたのか?」


「仲間たちと一緒に」


「五つの遺跡を越えた者か」とメリアが静かに言った。「……噂は聞いていた。本物だとは思わなかったが」


「本物かどうかは、あなたが判断してくれ」と俺は言った。「俺たちは無理に扉を開けさせようとは思っていない。ただ、外の世界は変わったと伝えに来た」


 メリアが集落の人々を振り返った。住民たちが顔を見合わせている。


「今夜、泊まっていけ」とメリアは言った。「話の続きをしたい。それから——判断する」


「ありがとう」と俺は言った。


 集落の中に通された。住民たちの視線が俺たちを追っている。好奇心が、警戒を上回り始めていた。


「面白いことになってきた」とシルヴィアが耳元で言った。


「古代魔法の継承者か」とレオが低く言った。「廃都の次は山の秘密集落か。本当に俺たちには普通の仕事が来ないな」


「それでいい」と俺は答えた。「普通の旅より、こっちの方が好きだ」


 山の風が吹き抜けた。新しい旅の、最初の夜が始まろうとしていた。

 夕食は集落の広場で、住民たちと一緒に取った。


 山の幸を使った料理が並び、素朴だが温かい味がした。住民たちは最初こそ遠巻きにしていたが、リナが薬草の話を始めると薬師らしき老人が興味深そうに近寄ってきた。ガルダンが子どもたちに囲まれ、困ったような顔をしていた。レオが若い男たちと剣の話で盛り上がっていた。


 俺はメリアと並んで火のそばに座った。


「外の世界は、本当に変わったか?」と彼女は炎を見つめながら言った。


「変わり始めている」と俺は答えた。「完全にではない。でも、変わろうとしている人間がいる」


「五十年で、世界は変わるか」


「変わらない部分も多い」と俺は正直に言った。「でも、変えようとすることはできる」


 メリアがかすかに笑った。「正直な人だ」


「嘘をついても仕方ない」


「そうだな」と彼女は言った。「……明日、長老たちと話し合う。外との扉を開けるかどうか。五十年ぶりの決断になる」


「どちらでも、俺たちは受け入れる」と俺は言った。「強制はしない」


「わかった」


 夜が深まり、焚き火の炎が揺れた。


 山の夜は静かで、星が近く見えた。旅のどの夜とも違う、穏やかな夜だった。


 新しい物語が、ここから始まろうとしていた。

毎日更新中!新章スタート。古代魔法の秘密集落が登場!次話もお楽しみに!

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