表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/103

第76話 帰還

 王都エルダリアが見えてきたのは、フォルスハイムを出て三日後のことだった。


 城壁の向こうに建物の屋根が連なり、旗が風にはためいている。夕暮れの光が石造りの壁を赤く染めていた。


「戻ってきたな」とレオが呟いた。


「また城門をくぐるわけか」とシルヴィアが苦笑した。


 城門の前に差しかかると、衛兵が俺たちに気づいて駆け寄ってきた。


「ライト・アシュフォード殿! 陛下がお待ちです」


 王宮の謁見室に通されると、王がすでにそこにいた。


「戻ってきてくれた」と王が立ち上がって言った。「報告を聞かせてくれ」


「フォルスハイムの核を完全に安定させました」と俺は言った。「安定石を核の中心に埋め込み、制御を再起動しました。今後、あの廃都が再び脅威になることはないはずです」


「間違いありません」とシルヴィアが頷いた。「百年前からの問題が、解決しました」


 謁見室に静寂が流れた。それから——王が深く息をついた。


「ありがとう」と王は言った。静かな、しかし重みのある声だった。「百年間、罪を抱え続けた王家として……本当に、ありがとう」


 俺は頷いた。言葉はいらなかった。


「今夜は宴を開きたい」と王が表情を和らげた。「あなたたちの功績を、王国として正式に称えたい」


「宴ですか」とリナが目を輝かせた。


 王宮の大広間が宴の席となった。長いテーブルに料理が並び、ワインが注がれ、楽師の音楽が流れる。王国の貴族や将軍たちが集まり、俺たちを囲んだ。


 最初は落ち着かなかった。こんな場に縁がなかった俺には、貴族たちの挨拶をどう返せばいいかもわからない。


「難しい顔をするな」とレオが隣でワインを飲みながら言った。「笑っていればいい」


「簡単に言うな」


「お前が一番の功績者だろ。堂々としてろ」


 料理を食べながら、シルヴィアが俺に耳打ちした。「侯爵の処遇が決まったらしいわ」


「どうなった?」


「領地の一部を返還し、五年間の謹慎。処刑や投獄ではなく、改心の機会を与えることにしたそうよ。王が『フォルスハイムの真実を明かしてくれた功績がある』と判断した」


「それでいい」と俺は思った。


 宴が深まる中、王が俺のそばに来た。


「ライト」と王は静かに言った。「あなたに一つ、お願いがある」


「なんですか」


「王宮の魔法顧問として、王都に残ってもらえないか。あなたの力と知識が、これからの王国に必要だ」


 俺は少し黙った。


「すぐには答えられません」と俺は言った。「仲間たちと相談させてください」


「もちろんだ」と王が頷いた。「急がない。ゆっくり考えてくれ」


 宴はまだ続いている。音楽が流れ、笑い声が上がる。


 俺は杯を手に、仲間たちの顔を見渡した。レオがガルダンと何か言い合っている。リナが初めて食べる料理に目を丸くしている。シルヴィアが貴族の男性と難しそうな話をしている。エドガーが壁際で静かにワインを飲んでいる。カーラが父のアルフレッドと並んで座っている。


 みんな、いい顔をしていた。


 旅の終わりは、こんな景色だったか——と俺は思った。悪くない。むしろ、最高だ。

 宴が終わり、俺たちは王宮の客室に泊まることになった。


 柔らかいベッド、暖かい部屋、清潔なシーツ。旅の間ずっと硬い地面や安宿に慣れていた体が、ここまで柔らかいものを久しぶりに感じてとまどっていた。


 眠れないでいると、窓をノックする音がした。


 開けると、レオが廊下に立っていた。


「眠れないか?」と俺は聞いた。


「ベッドが柔らかすぎて」とレオが言った。「お前も?」


「同じだ」


 二人で廊下を歩き、王宮の中庭に出た。夜空に星が広がり、噴水の水音だけが聞こえる。


「なあライト」とレオが星を見上げながら言った。「王の提案、どうするつもりだ?」


「まだわからない」と俺は正直に答えた。


「俺は」とレオが続けた。「どこへでも行くぞ。お前が王都に残るなら俺も残る。旅を続けるなら俺も行く」


「そんなことでいいのか」


「仲間だろ」とレオが肩をすくめた。「難しく考えるな」


 俺は空を見た。満天の星だった。旅の間、何度この空を見上げたかわからない。砂漠の夜も、雪原の夜も、廃都の夜も、ずっとこの星が上にあった。


「ありがとう」と俺は言った。


「礼を言うな、照れる」とレオが笑った。


 二人はしばらく中庭に立ち、星を見ていた。


「ライト」とレオが言った。「追放された日、どんな気持ちだった?」


 俺は少し考えた。


「全部終わったと思った」と俺は言った。「何も残っていないと。でも——今思えば、あの日が始まりだったんだな」


「そうだな」とレオが言った。「お前が追放されなかったら、俺たちは出会っていなかった」


「不思議なもんだ」


「不思議じゃない」とレオが笑った。「必然だったんだよ。お前みたいな奴が、普通の場所で普通に生きていけるわけがない」


 俺も笑った。


「そうかもしれないな」


 夜風が吹いた。中庭の木々が揺れ、花の香りが漂った。


「明日、みんなで話し合おう」と俺は言った。「これからのことを、全員で決める」


「賛成」とレオが頷いた。「俺たちの旅だからな。お前だけが決めることじゃない」


 二人は客室へ戻った。今度は眠れる気がした。


 長い旅の、新しい始まりが、そこにあった。

 翌朝、俺は仲間全員を宿の食堂に集めた。


 王宮の朝食は豪華だったが、誰も料理に手をつける前に俺は切り出した。


「王から魔法顧問として残るよう頼まれた。どう思う、みんな」


 しばらく沈黙が流れた。


「ライトが残りたいなら残ればいい」と最初に言ったのはガルダンだった。「俺は構わない」


「私も」とリナが言った。「でも、ライトさんはどうしたいんですか?」


「正直に言う」と俺は言った。「王都に腰を落ち着けるのも悪くないと思っている。でも——旅を続けたい気持ちもある。まだ見ていない場所が、世界にはたくさんある」


「両方やればいいんじゃないか?」とレオが言った。「王宮の顧問をやりながら、時々旅に出る。王にそう交渉してみろよ」


「それは……いい考えかもしれない」とシルヴィアが頷いた。


「エドガーは?」と俺は聞いた。


「俺は一度、故郷に帰るつもりだ」とエドガーが静かに言った。「侯爵への依頼を断ってから、ずっと逃げていた。そろそろ向き合わなければいけないことがある」


「カーラは?」


「父の療養が落ち着いたら、また動けます」と彼女は答えた。「王宮の仕事も続けますし、必要なら呼んでください」


 全員の答えが出た。


「わかった」と俺は言った。「レオの案で王に交渉する。顧問はやる。ただし、旅の自由は残してもらう」


「それがお前らしい」とレオが笑った。


 昼前に王と面会し、条件を伝えた。王は少し考えてから笑顔で頷いた。


「それで構わない。むしろ、各地を旅して情報を集めてくれるなら、顧問として一石二鳥だ」


 こうして決まった。俺たちの新しい形が。


 終わりではない。形を変えた、続きだ。


 その日の午後、エドガーとカーラの父アルフレッドが王都を発った。見送りの場で、エドガーは俺の手を握った。


「また会おう」と彼は言った。


「ああ」と俺は答えた。「必ず」


 旅は、続く。

毎日更新中!王都で宴、王から新たな提案が。次話もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ