第8話 護衛の依頼
今回もお読みいただきありがとうございます!
第8話はアキトが初めて護衛依頼に挑む場面です。
想定外のピンチが訪れますが……果たしてどう乗り越えるのか、お楽しみください!
四日目の朝、掲示板に新しい依頼が貼り出されていた。
「商人護衛:エルザ〜隣町カルベ間。馬車一台、荷物あり。Eランク以上推奨。報酬:銀貨十五枚」
Eランク以上推奨。アキトはまだFランクだ。
だが一緒に掲示板を眺めていたブルスが、隣で首を傾けた。
「これ、今日の昼出発で護衛が集まってないらしい。さっき商人が直接ギルドに頼み込んでたぞ。Fランクでも人数が揃えば受けさせてもらえるかもな」
アキトは依頼票を手に取った。カルベまでの街道は半日の道のりで、比較的安全なルートと聞いていた。Eランク推奨とはいえ、よほど運が悪くなければ問題ない。
「受けてみる」
「俺も同行しよう。護衛は人数がいた方がいい」
こうして、アキトとブルスの二人が護衛として雇われることになった。
◇
依頼主の商人はゴルドという五十代の男で、体格がよく声が大きかった。馬車に積まれているのは布地と陶器で、どちらも割れたり濡れたりすると価値が下がる繊細な荷物だ。
「よろしく頼むよ。Fランクとは聞いたが、若いのに頼もしそうじゃないか」
ゴルドはアキトを見て、屈託なく笑った。見た目で判断せず、まず信頼してくれる人間らしい。
「問題なく届けます」
「そいつは心強い! では出発しよう」
馬車が走り出すと、ブルスがアキトの隣に並んだ。
「お前が護衛依頼を受けるとは思わなかった。てっきりずっとFランク依頼をこなすのかと」
「変化が必要だと思った」
「実力を隠しながらか?」
アキトは答えなかった。ブルスは苦笑して前を向いた。
街道は整備されており、馬車は順調に進んだ。午後の陽射しが木漏れ日を作り、鳥の鳴き声が聞こえる。穏やかな道だった。
だが街を出て一時間ほど経った頃、アキトの隠密スキルが反応した。
(……多い)
前方の茂みに、複数の気配が潜んでいた。六つ。それも、魔獣ではない。人間だ。
「ブルス、止まれ」
「え?」
「前の茂みに六人いる。武装している」
ブルスが眉を寄せた。
「山賊か……なんで分かる」
「気配がする」
その直後、茂みから男たちが飛び出してきた。手に剣や棍棒を持った、荒くれた風貌の六人組だ。先頭の男が馬車の前に立ち塞がり、野太い声を上げた。
「止まれ! 荷物と金を置いていけば命だけは助けてやる!」
ゴルドが青ざめた。ブルスが剣の柄に手をかけた。
「六人か……俺一人じゃ厳しいな」
「俺がいる」
「お前Fランクだろ!」
「大丈夫だ」
アキトは馬車から降り、六人の前に立った。山賊たちがどっと笑った。
「なんだ、ガキが一人で出てきたぞ。度胸だけはあるな」
「降参するなら今のうちだ。ギルドへの自首を勧める」
さらに笑いが大きくなった。
「気でも狂ったか! やれ!」
先頭の男が踏み込んできた。アキトは一歩だけ横にずれ、男の剣をかわして手首を軽く掴んだ。そのまま体重を使って投げると、男は数メートル先の地面に叩きつけられた。
残り五人が一瞬固まった。
アキトは氷魔法を最小出力で使い、地面に薄い氷を張った。前に出てこようとした三人が足を滑らせ、転倒する。残り二人が後退しようとしたところへ、雷魔法の微弱な電撃を流した。痺れて動けなくなる。
十五秒もかからなかった。
六人全員が地面に転がり、誰一人立っていなかった。
ブルスが剣を抜いたまま、固まっていた。
「……お前、それが『大丈夫』か」
「手加減した」
「手加減してこれか!」
ゴルドが馬車の上から覗き込んで、目を丸くしていた。
「す、すごい……Fランクとは思えんな」
「運が良かった」
アキトは山賊たちを縄で縛り、馬車に積んだ。ギルドに引き渡せば追加の報酬にもなる。
再び馬車が動き出すと、ブルスがぽつりと言った。
「……もう実力を隠す気ないだろ」
「隠してる」
「どこがだ」
アキトは前を向いたまま、小さく苦笑した。
カルベへの道は、その後は穏やかだった。夕暮れ時に街へ着いたとき、ゴルドは約束の銀貨十五枚に加えて、礼として金貨一枚を渡してくれた。
「また依頼する時はぜひ頼む。お前さん、本物だ」
アキトはその言葉を、素直に受け取った。
◇
エルザに戻ったのは夜になってからだった。
山賊六人をギルドに引き渡すと、担当の職員が驚いた顔で人数を数えた。
「護衛二名で六人を制圧……しかも全員生きている?」
「縛っただけだから」
「普通、山賊六人を生捕りにするのは至難の業なんですが……」
「怪我をさせると後が面倒だと思った」
職員が何か言いたそうな顔をしたが、アキトは報酬の受け取りだけ済ませてカウンターを離れた。
リナが奥の事務机でこちらを見ていた。目が合うと、今日は視線を外さなかった。
静かに、だが真剣な目でアキトを見つめている。
アキトは小さく会釈して、ギルドを出た。
◇
宿への帰り道、ブルスが隣を歩きながら口を開いた。
「なあ、一つだけ聞いていいか」
「何だ」
「お前、どうしてFランクから始めた。実力があるのは分かりきってる。最初から上のランクで登録する方法だってあったはずだ」
アキトは少し考えてから、正直に答えた。
「追放されたんだ、前のパーティーに」
ブルスが目を丸くした。
「……お前が? なんで」
「スキルなしだと思われていた。役立たずだと言われた」
「それで追放か。どんなパーティーだそれは」
「勇者のパーティーだ」
ブルスが足を止めた。アキトもつられて立ち止まった。
「勇者……まさか、レイドのパーティーか? 王都で英雄扱いされてるっていう」
「知ってるのか」
「冒険者なら誰でも知ってる。最近、噂がでかいからな。魔王軍の前衛を撃退したとか言って、王都中で持ち上げられてるらしい」
アキトは黙った。
レイドたちが英雄か。自分を「役立たず」と切り捨てた連中が、今頃英雄と呼ばれている。
おかしいとは思わなかった。あの三人は確かに強い。少なくとも、Fランクの依頼をこなしている自分よりは、よほど世間に認められた存在だ。今は。
「……そうか」
それだけ言って、アキトは歩き出した。
ブルスが追いついて、隣に並んだ。
「怒らないのか」
「怒っても何も変わらない」
「追放した奴らを見返したいとは思わないのか」
アキトは夜空を見上げた。星が出ていた。
「見返すというより……いつか、同じ場所に立ちたいとは思う。ちゃんと自分の足で辿り着いた場所に」
ブルスはしばらく黙っていた。
「……お前、やっぱり変なやつだな」
「そうかもしれない」
宿の灯りが見えてきた。
アキトは歩きながら、心の中で静かに繰り返した。
焦らなくていい。急がなくていい。
ただ、一歩ずつ。自分の力で、上を目指す。
――それだけでいい。
◇
宿の自室に戻り、ベッドに腰を下ろしたアキトは、今日一日を振り返った。
護衛依頼、山賊六人の制圧、ブルスとの会話、そしてレイドたちの噂。
情報が多い一日だった。特に、勇者パーティーが王都で英雄扱いされているという話は、予想はしていたが改めて聞くと不思議な感覚があった。悔しいというより、遠い話を聞いているような、そんな距離感だ。
アキトは冒険者証を取り出した。Fランクの刻印が光を反射している。
(Fランク冒険者が、英雄に並ぶ日が来るだろうか)
来る、とは言い切れない。だがなれない、とも思わなかった。
ただ今は、目の前のことをひとつずつやるだけだ。
明日もギルドに行く。依頼をこなす。少しずつランクを上げる。
それを積み重ねた先に、何があるかは、その時に考えればいい。
アキトは冒険者証をしまい、目を閉じた。
窓の外で、夜風が静かに吹いていた。
第8話、お読みいただきありがとうございました!
今回は初めての護衛依頼で山賊六人を「手加減して」全員生捕りにするアキト、楽しんでいただけましたか?
ブルスへの本音の告白と、勇者パーティーの噂を聞いた時のアキトの静かな反応……怒りや焦りではなく「いつか同じ場所に立ちたい」という言葉が彼らしいと思っています。
次話ではついにEランク昇格へ向けて動き出します。お楽しみに!
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