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第9話 鑑定眼

今回もお読みいただきありがとうございます!

第9話では鑑定スキルを使ってアキトが街のある問題に気づく回となります。

錬金術師としての一面も少し見せられたら嬉しいです。どうぞお楽しみください!

 五日目の朝、アキトは街の市場を歩いていた。


 依頼を受ける前に、少し食材を買い足すつもりだった。宿で軽く調理ができる設備があり、自炊した方が安上がりなのだ。


 薬草屋の前を通りかかった時、アキトの足が止まった。


 鑑定スキルが、勝手に反応していた。


 店頭に並べられた薬草の一部から、かすかに「毒性あり」の警告が出ている。注意して見なければ気づかないほど微弱な反応だが、確かに存在している。


 アキトは一つ、店頭の薬草を手に取った。


回復草(かいふくそう)……のはずだが)


 鑑定スキルが細部を開示する。外見は確かに回復草だ。だが葉の裏側に、別の植物が混ざっている。麻痺草(まひそう)――よく似た形をしているが、摂取すると手足の感覚が鈍る、危険な野草だ。量が多くなければ命に関わることはないが、体調の悪い者が口にすれば事態は悪化する。


「お兄ちゃん、買うかい?」


 店主の中年女性が声をかけてきた。明るい笑顔の、善良そうな人だった。


「これ、どこで仕入れたか聞いてもいいか」


「ギルドの素材市場からだよ。昨日、まとまった量が入荷してね。安く仕入れたから、他より少し安く売ってるんだ」


「……そうか」


 アキトは一旦代金を払って、その薬草を数束買い取った。他の客が買ってしまう前に、なるべく多く引き上げたかった。


 店を離れてから、アキトは別の薬草屋も見て回った。三軒目までは普通の品だったが、四軒目でまた同じ反応が出た。


 やはり、間違いない。


 流通経路のどこかで、麻痺草が回復草に混ざって入荷している。意図的か、過失かは分からない。だが放置すれば、近いうちに被害が出る。


 アキトはその足でギルドへ向かった。


 ◇


 受付カウンターに、問題の薬草を並べた。


「リナさん」


「はい。今日も……これは?」


「市場で売られている薬草だ。鑑定の結果、麻痺草が混入している」


 リナの表情が変わった。


「麻痺草が? それ、どこの店ですか」


「二軒確認した。仕入れ元はいずれもギルドの素材市場らしい」


「ちょっと待ってください」


 リナは奥の事務所に駆け込み、数分後、年配の職員を連れて戻ってきた。ギルドの副長らしかった。


「話は聞いた。君が持ち込んだというのは本当か」


「本当だ。鑑定してみるといい」


 副長は薬草を受け取り、自前の鑑定用魔道具を使った。数秒後、彼の顔が青ざめた。


「……間違いない。麻痺草が混ざっている」


「素材市場の管理に問題があるかもしれない」


「すぐに調査させよう。ありがとう、霧島(きりしま)君。これは大事だ」


 副長は頭を下げ、薬草を持って急ぎ足で出ていった。


 リナがアキトを見つめた。


「……なぜ、気づいたんですか」


「鑑定したら、そう出た」


「普通の鑑定では、混入までは読めません。よほど精度の高いスキル持ちでなければ」


 アキトは答えなかった。答えれば、またややこしくなる。


 リナは少し間を置いて、静かに言った。


「……あなたのこと、これ以上詮索するのはやめておきます。ただ、助かりました」


「役に立てたならよかった」


 ◇


 午後になって、ギルドから呼び出しがあった。


 素材市場の担当業者を調べたところ、仕入れ担当の一人が別の悪徳業者と結託し、安価な麻痺草を回復草に混ぜて量増ししていたことが発覚した。数週間前から続いていたらしく、すでに数人が体調不良を訴えていたという。


 アキトが早期に気づいたおかげで、大事には至らなかった。


「本来なら規定にないことだが」副長が真剣な顔で言った。「ギルドからの特別報奨として、金貨三枚を出したい。それと、君の冒険者カードに記録を残す。次のランク審査では有利に働くはずだ」


「受け取っておく」


 金貨を受け取りながら、アキトは静かに思った。


 スキルの使い道は、戦闘だけじゃない。こうして誰かの身を守ることもできる。


 それが意外に、悪くない気分だった。


 カウンターの奥で、リナがアキトを見ていた。


 今度は視線を隠そうともしない、まっすぐな目だった。


 ◇


 夕方、ギルドを出たアキトは市場へ戻った。


 副長が緊急手配をかけたらしく、街中の薬草屋に回収の指示が回っていた。最初に気づかせてくれた店では、店主の女性が客に事情を説明しながら代金を返している。


 アキトに気づいた店主が、慌てて駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん、本当にありがとうね。ギルドの人から聞いたよ。あんたが気づいてくれなかったら、うちの店が加害者になるところだった」


「気にしなくていい。たまたま気づいただけだ」


「たまたまじゃ済まないよ。うちにはうちのを飲んで寝込んだお客さんがいたの。早く原因が分かってよかった……」


 店主は深く頭を下げた。アキトは少し困って、軽く手を振った。


「頭を上げてくれ」


「代わりと言っちゃなんだけど、これ持っていって」


 店主が差し出したのは、木箱いっぱいの乾燥した薬草だった。


「うちで一番いい状態のやつだよ。冒険者なら使い道があるだろう?」


 アキトは鑑定スキルで確認した。どれも品質の高い薬草で、錬金術の素材としても一級品だった。受け取ると、かなりの量になる。


「助かる」


「こっちこそ助かったよ。また寄ってちょうだい」


 アキトは木箱を抱えて市場を離れた。


 ◇


 宿に戻る途中、路地の角でブルスと鉢合わせた。


「おう、今日は早いじゃないか……ってなんだその荷物」


「もらった」


「もらった?」


 アキトは簡単に事情を話した。ブルスは途中から苦笑いになっていった。


「……お前、市場で薬草を見ただけで混入を見抜いたのか」


「鑑定を使っただけだ」


「普通の鑑定じゃそこまで分からんぞ」


「そうらしいな」


 ブルスは肩をすくめた。


「もう隠す気ゼロだろ、お前」


「隠してる」


「どこがだ」


 二人は苦笑しながら歩き出した。宿の灯りが見えてきた頃、ブルスがぽつりと言った。


「……なあ、一つ提案なんだが」


「何だ」


「お前、パーティーを組む気はないか? 俺と、もう一人、昔組んでた奴を呼んで、三人でやってみないか」


 アキトは少し考えた。


 ずっと一人でやっていくつもりだった。誰かに背中を預けるということを、もうしたくないと思っていた。パーティーに裏切られた記憶が、まだ心のどこかに残っている。


 だがブルスは、少なくとも嘘はつかない男だ。


「……考えておく」


「即決は求めない。気が変わったら声をかけてくれ」


「分かった」


 宿の前で別れ、アキトは自室に戻った。


 薬草の木箱を床に置き、窓際の椅子に腰を下ろす。


 今日は色々なことがあった。毒草の発見、感謝の言葉、金貨三枚の報酬。そしてブルスからの誘い。


 追放されてから、まだ五日。


 だがすでに、違う人生が始まっているような気がした。


 アキトは窓の外を見つめた。


 小さな街の灯りが、暖かく揺れていた。


 追放された時、世界は終わったと思った。


 だが今は、違う世界が開き始めている。


 アキトは目を閉じた。明日もまた、ギルドへ行こう。そう決めて、静かに眠りに落ちた。

第9話、お読みいただきありがとうございました!


今回はアキトの鑑定スキルが戦闘以外の場面で活きる回でした。

街の人を助け、ブルスからはパーティーの誘いを受け、少しずつ彼の世界が広がっていきます。


次話ではパーティー結成に向けた動きとランク昇格の予感をお届けします。

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