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第74話 百年前の罪

 王都に戻ると、侯爵はすぐに王宮の尋問室へ連行された。


 俺たちは待合室で待つことになった。王宮の廊下は静かで、遠くから衛兵の足音が聞こえるだけだ。


「侯爵は何を話すだろうな」とレオが壁にもたれながら言った。


「フォルスハイムのことを知っているかもしれない」とシルヴィアが言った。「何年も廃都を調査していたのだから」


「アルフレッドさんの証言とも合わせれば、百年前の謎に近づける」とカーラが言った。


 二時間ほど待つと、王宮の側近が来た。「陛下が、皆さんにも同席していただきたいとのことです」


 謁見室に通されると、王が上座に座り、侯爵が椅子に腰かけていた。縄はかかっていない。自首してきた者への礼儀か。


「侯爵が話したいことがあると言っている」と王は俺に言った。「あなたにも聞いてほしい」


 侯爵が俺を見た。先ほどの平原での険しさはなく、憑き物が落ちたような顔をしていた。


「ライト・アシュフォード」と侯爵は言った。「あなたはフォルスハイムの核を安定させた。百年前の暴走の原因を知りたいと思っているはずだ」


「はい」と俺は答えた。


「私が知っていることを話そう。それが、今日ここへ来た本当の理由だ」


 部屋が静まり返った。


「百年前、フォルスハイムを滅ぼしたのは——現王家の直系の祖先だ」


 誰かが息を呑む音がした。


「それは……本当のことか」と王が低く言った。


「記録が残っている」と侯爵は答えた。「私の家は代々、その記録を守ってきた。百年前の初代エルドライン侯爵が、フォルスハイム滅亡の現場にいた。そして真実を記録に残した」


「なぜ今まで黙っていた」


「公にすれば王家が揺らぐ。それを恐れた歴代の侯爵が隠し続けた。しかし私は——その記録を権力奪取の道具として使おうとした」


 侯爵が深く頭を下げた。「それが間違いだった。真実は、正しく明かされるべきだった」


「……記録を見せてもらえますか」と俺は言った。


 翌日、俺とシルヴィア、エドガーの三人で別邸の地下金庫を開けた。中には古びた木箱があり、百年前の文字が書かれた羊皮紙の束が入っていた。


 シルヴィアが解読を進めると、顔色が変わっていく。しばらくして彼女は羊皮紙を置いた。


「百年前の真実がわかった」と彼女は言った。「ただ——予想より、ずっと複雑な話だった」


「聞かせてくれ」と俺は言った。


「フォルスハイムを滅ぼした王族は——滅ぼしたくて滅ぼしたわけじゃなかった」とシルヴィアは言った。「核が暴走しそうになった時、それを止めようとして失敗した。不完全な制御魔法を使ったせいで、暴走が加速してしまった」


「つまり……事故だったのか」


「そう。でも王家はそれを隠した。失敗を認められなかったから。そして隠し続けた結果、百年間誰も真実を知らなかった」


「核の制御に失敗して、隠した」と俺は繰り返した。


「でも記録にはもう一つ重要なことが書いてある」とシルヴィアが続けた。「その王族は、失敗した後に正しい方法を記録に残していた。核を完全に安定させる方法——次の誰かが直しに来られるように」


「その方法とは?」


「核の中心に、古代の安定石を埋め込む必要があるの。その石はフォルスハイムの地下深くに封じられている」


「つまり、もう一度フォルスハイムへ行く必要があるか」


「ええ」とシルヴィアが頷いた。「でも今度は目的がはっきりしている」


 三人は記録を持って王都へ戻り、全員に報告した。王が深く息をついた。


「百年前の祖先の失敗か……知らされていなかった」


「記録を公開されますか?」とシルヴィアが聞いた。


 王はしばらく黙っていた。それから頷いた。「公開する。フォルスハイムで亡くなった二十万の人々への、せめてもの誠意だ」


「……正しい判断だと思います」と侯爵が静かに言った。


「あなたに言われると少し複雑だが」と王が苦笑した。笑いが部屋に広がった。


「もう一度、フォルスハイムへ行きます」と俺は王に言った。「核を完全に安定させてきます」


「頼む」と王は言った。「それが終われば——本当に、あの都は安らかになれる」


 翌朝、八人で王都を出た。王が城門まで見送りに来た。


「必ず戻ります」と俺は答えた。


 城門を背に、北の道を歩き始めた。フォルスハイムへ——百年前の物語の、最後の章へ。

「ライト」とリナが隣に並んだ。「終わったら、どうするつもりですか?」


「どうするって?」


「旅を続けるのか、王都に残るのか」とリナは言った。「追放取り消しになったし、王からも信頼されてる。王都で暮らすこともできるんじゃないかと」


 俺は少し考えた。


「全部終わってから、考える」と俺は言った。「まだ先のことは、わからない」


「そうですね」とリナが微笑んだ。「でも、どこにいても——私たちは一緒ですよね」


「ああ」と俺は答えた。「それは変わらない」


 エドガーが前を歩きながら、ぽつりと言った。「お前たちのパーティにいると、妙に安心するな」


「照れるな」とレオが笑った。


「照れてない」とエドガーが赤い顔で言い返した。


 笑い声が街道に広がった。


「ライト」とガルダンが静かに言った。「俺はお前と旅して、よかったと思っている」


「俺もだ」と俺は答えた。


 シルヴィアが空を見上げた。「秋になっても、まだ旅をしているなんて思わなかった。でも——悪くない」


 カーラが父の顔を思い出すように目を細めた。「父を取り戻せた。それだけで、この旅に参加した意味がある」


 八人の足音が、静かに街道を刻む。


 王都の城壁が遠ざかり、やがて見えなくなった。前方には緑の平野が広がり、その先にフォルスハイムへ向かう林道がある。


 風が吹いた。旅の始まりに似た、清々しい風だった。


 追放から始まった旅が、いよいよ終わりへと向かっている。それでも俺は、急ごうとは思わなかった。この仲間たちと歩く道のりを、もう少しだけ噛みしめたかった。


 遠くで鳥が鳴いた。空は高く、青かった。

 その夜、街道沿いの小さな村で宿を取った。


 村の宿屋は小さく、八人分の部屋はギリギリだったが、主人は快く迎えてくれた。夕食は質素なシチューとパンだったが、旅の空腹には十分すぎるほどだ。


「ここから廃都まで、あと何日だ?」とレオがパンをちぎりながら聞いた。


「二日ほどね」とシルヴィアが答えた。


「準備はできている」とガルダンが短く言った。


「安定石を取り出して埋め込む——それだけだ」と俺は言った。「前回よりも、目的がはっきりしている分、楽なはずだ」


「番人はいるのかな」とリナが言った。「地下に何か封じられているとしたら、守るものも当然いそう」


「その通りだ」と俺は頷いた。「でも向こうも、俺たちが来るのを待っていた可能性がある。五つの遺跡の試練も、フォルスハイムに繋がるために設けられたものだったかもしれない」


「全部、繋がっていたってことか」とエドガーが言った。


「そうかもしれない」


 火が揺れる。全員が静かに食事を続けた。


 旅の終わりが、もうすぐそこにある。


 俺はシチューの温かさを感じながら、仲間たちの顔を見た。追放された日には想像もしなかった光景だ。信頼できる仲間と、意味のある使命を持って、前に進んでいる。


 それで十分だ、と俺は思った。


 翌朝、再び歩き始めた。フォルスハイムへ向かう最後の道のりが、始まった。

毎日更新中!百年前の真実が明らかに!再びフォルスハイムへ向かいます。次話もお楽しみに!

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