表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/103

第73話 王都の危機

 翌朝、王宮から緊急の使者が来た。


「エルドライン侯爵が動きました」と使者が息を切らして言った。「昨夜のうちに私兵を集結させ、王都へ向けて進軍を開始しました。現在王都の北、約三十キロの地点にいます」


 宿の食堂が静まり返った。


「ダルクが捕まったことで、開き直ったか」とレオが立ち上がった。


「数は?」と俺は使者に聞いた。


「千二百から千五百と見られています。王国軍の主力は南の国境警備に当たっており、今すぐ動かせるのは五百程度とのことです」


「三倍か」とガルダンが腕を組んだ。


「陛下は、ライトさんにご相談したいとのことです」


 全員が顔を見合わせた。俺は立ち上がった。「行こう」


 王宮の執務室に通されると、王が地図の前に立っていた。将軍たちが周囲を囲み、険しい顔で議論していた。俺たちの姿を見て、王が近づいた。


「状況は聞いたと思う」と王は言った。「軍事力では今すぐ対抗できない。しかし侯爵には弱点がある」


「何ですか」


「侯爵自身だ」と王は言った。「ダルクを失った今、軍の指揮は侯爵本人が取っているはずだ。侯爵を直接止めることができれば、私兵たちは戦う理由を失う」


「侯爵を捕えてほしいということか」


「頼めるか?」


 俺は仲間たちを見た。


「行きます」とリナが即座に言った。


「当然だ」とガルダンが短く言った。


「面白い」とレオが剣の柄を叩いた。


「シルヴィア?」


「ダルクを捕えた時と同じね」と彼女は静かに言った。「ただ今回は千五百の私兵の中から侯爵だけを狙う。難しい」


「《深層感知》で侯爵の気配を捉えれば位置はわかる。後は——そこまでたどり着けるかどうかだ」


「俺が切り開く」とレオが言った。


「私が支援する」とエドガーが言った。「侯爵の軍の弱点もある程度わかる」


 エドガーの言葉に、王が目を細めた。


「あなたはダルクと接触していたのか?」


「依頼を断った立場ですが、情報は得ています」とエドガーが答えた。「侯爵の軍は精鋭が少ない。数を揃えているだけで、核となる部隊は先鋒の三百人程度です。そこさえ突破できれば」


「侯爵まで一直線に行ける」と俺は続けた。


 王が地図に視線を落とした。「北街道を進軍しているなら、ここ——ウォルク平原で合流することになる。そこならこちらの五百でも正面から時間を稼げる」


「俺たちが侯爵を止める間、王国軍が陽動に回るか」とガルダンが言った。


「そういうことだ」と王は頷いた。


 俺は地図を見た。ウォルク平原まで、馬で一時間ほど。すでに侯爵軍は動いている。時間がない。


「出発します」と俺は言った。「王国軍は一時間後に動いてください。それまでに、俺たちが侯爵の近くまで潜り込む」


「わかった」と王が頷いた。「頼む、ライト」


 俺たちは執務室を後にした。廊下を歩きながら、レオが隣に並んだ。


「なあライト」と彼が言った。「追放取り消しをもらった翌日に、王国のために戦うのか」


「変か?」


「変じゃない」とレオが笑った。「お前らしい。損得じゃなくて、やるべきかどうかで動く」


「当たり前だ」と俺は言った。「王国が守られれば、民も守られる。それだけだ」


 馬の手配を済ませ、七人は王都の北門を出た。朝の光の中、ウォルク平原へ向けて駆けた。

 ウォルク平原に着いた時、すでに侯爵軍の先頭が見えていた。


 広大な草原に、黒い鎧の集団が隊列を組んで進んでいる。旗が風になびき、蹄の音が地面を揺らしていた。千五百——想像よりもはるかに圧迫感がある。


「でかい軍だな」とレオが馬を止めながら言った。


「深呼吸しろ」とガルダンが言った。「数だけだ」


 俺は《深層感知》を最大限に広げた。千五百の気配が一度に流れ込んでくる。強い。多い。しかしその中に——一際強く、落ち着いた気配がある。隊列の中央後方。護衛に囲まれているが、確かにそこにいる。


「侯爵は中央後方だ。護衛は二十人ほど」と俺は言った。「先鋒を三百と言ったが、その通りだ。前線は数が多いが、中央は手薄になっている」


「先鋒を迂回するか」とエドガーが言った。「侯爵軍は前線集中型だ。側面は薄い。東側の草むらを使えば、気づかれずに中央まで近づける」


「行こう」と俺は言った。


 七人は馬を東へ回した。草が腰の高さまで茂る平原の端を、低く伏せて駆ける。侯爵軍の視線は前方——王都の方向に向いている。俺たちに気づく者はいない。


 隊列の側面を抜け、中央後方に近づいた。護衛の二十人が見える。その中心に、赤い外套をまとった初老の男が馬上で指揮を取っていた。


エルドライン侯爵——初めて直接見る顔だ。


「あの男か」とレオが低く言った。


「ああ」と俺は頷いた。「行くぞ」


 七人が一斉に草むらから出た。護衛の兵士たちが驚いて剣を抜く。しかし俺たちは止まらなかった。


 レオとガルダンが護衛の前線に突っ込む。エドガーとリナが側面を抑える。シルヴィアが後方から魔法で援護する。そして俺は——护衛の隙間を縫って、侯爵の馬の前に立った。


 十秒もかからなかった。


 侯爵の馬が止まった。侯爵が俺を見下ろした。六十代とおぼしき、威厳のある顔立ちだ。しかしその目に、動揺が走っていた。


「……お前が、ライト・アシュフォードか」と侯爵が言った。


「そうです」と俺は答えた。「降りてください。話があります」

 侯爵はしばらく俺を見つめていた。


「話?」と彼は言った。「剣ではなく、言葉で来たか」


「まず話を聞いてください」と俺は言った。「フォルスハイムの核は安定しました。もう使えない。ダルクさんも王宮で証言しています。あなたの野望の礎は、すでに崩れています」


 侯爵の顔が、わずかに歪んだ。


「それでも止まれないのはなぜですか」と俺は続けた。「千五百の命を、意味のない戦いに使う必要がありますか」


「黙れ」と侯爵が低く言った。「お前に何がわかる。私は三十年かけて、この国を変えようとしてきた。腐った王家を倒し、新たな秩序を作るために」


「腐っているかどうかは、俺には判断できません」と俺は言った。「でも——千五百人の兵士にも家族がいます。あなたの命令一つで、それが失われる」


 侯爵が馬から降りた。俺と同じ高さに立ち、目を合わせた。


「……お前は変わった男だな」と侯爵が言った。「私を倒しに来て、説得を試みるか」


「戦いたくないので」と俺は正直に答えた。


 侯爵が、小さく笑った。苦い笑いだった。


「ダルクが捕まった時点で、終わりだとわかっていた」と侯爵は言った。「それでも動いたのは——最後まで抗ってみたかったからかもしれん」


「侯爵」


「わかった」と彼は言った。「軍を止める。私が王宮に出頭しよう」


 平原に、侯爵の撤退命令が響いた。黒い鎧の集団が、ざわめきとともに動きを止めた。


 王国軍が北から近づいてくる音が聞こえた。しかし戦いは起きなかった。


 俺は空を仰いだ。青い空に、雲が流れている。


「終わった……か」とリナが俺の隣で呟いた。


「今回は、な」と俺は言った。


 すべてが解決したわけではない。フォルスハイムの謎も、まだ残っている。しかし今日、王都は守られた。誰も死ななかった。それで十分だ。


 七人は馬を並べ、王都へと引き返した。

毎日更新中!ついに侯爵と直接対峙、説得に成功!次話もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ