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第68話 古代の番人

 広場を抜けると、廃都の様相はさらに異様さを増した。


 建物の壁には古代文字が刻まれ、その文字が薄く発光している。石畳の継ぎ目から青白い光の筋が走り、網の目のように広がっていた。普通の人間には見えないかもしれないが、《深層感知》を持つ俺には手に取るようにわかる——廃都全体が、一つの巨大な魔法陣になっていた。


「すごい」とシルヴィアが石壁の文字を指でなぞった。「これは……制御術式ね。古代の魔法師たちが、都市全体を制御システムとして機能させていた」


「どういう意味だ?」とレオが聞いた。


「建物も、道も、すべてが魔力の回路として繋がっているの。そして中心に核がある。核が都市全体を統括していた。百年前に核が暴走した時、この都市ごと魔力が爆発したというわけよ」


「今また暴走しかけているということか」とガルダンが言った。


「ええ。ただ——もともとの設計では、五つの遺跡の試練を越えた者が核に触れることで、制御を再起動できるようになっていたはずよ」


「だから俺たちが来ることを待っていた」と俺は言った。


 道が開けた。正面に巨大な建物が聳え立っている。かつては王宮だったのだろう、崩れながらも圧倒的な存在感を放っていた。その中心から、魔力の渦が脈動しているのが感じられる。


「あそこだ」と俺は言った。


 その瞬間——地面が揺れた。


 石畳が割れ、何かが這い出てきた。白い石でできた人型の巨体——高さ三メートルほどの石像が、ゆっくりと立ち上がった。目の部分が青く光り、俺たちを見下ろしている。


 一体だけではない。左右の建物の影から、同じような石像が次々と現れた。五体、六体……合計八体。


「ゴーレムか」とレオが剣を抜いた。


「古代の自動防衛機構ね」とシルヴィアが構えを取った。「核が不安定になったせいで、外敵だと誤認識しているのかもしれない」


「戦うしかない」と俺は言った。


「了解」とレオが前に出た。


 ゴーレムが動いた。石の拳が俺たちに向かって振り下ろされる。

 レオが横に跳び、石の拳をかわした。着地と同時に剣を振るうが、石像の表面に傷一つつかない。


「硬い!」と彼が叫んだ。


「当たり前だ、石だぞ!」とガルダンが怒鳴りながら別のゴーレムの足を蹴りつけた。衝撃でガルダン自身がよろめく。


「物理攻撃は効かない」とシルヴィアが冷静に分析した。「魔力が駆動源のはず。魔力回路を断てば止まるわ」


「どこにある?」と俺は《深層感知》を向けた。


 ゴーレムの体内に、細い魔力の流れが見える。全身を巡る回路の中心——胸の中央部に、小さな核がある。


「胸の中心だ」と俺は叫んだ。「そこを壊せ!」


「どうやって! 石の中に手は入らないぞ!」とレオが別の拳をかわしながら言った。


 俺は《属性融合》を発動した。集中して、ゴーレムの胸の核だけを狙う。物理的に触れる必要はない——魔力を直接当てれば良い。


《属性融合・魔力穿孔》——


 金色の光の矢が、ゴーレムの胸を貫いた。内側から青い光が漏れ出し、ゴーレムの動きが止まる。そのままガタガタと震え、崩れ落ちた。


「それだ!」とシルヴィアが叫んだ。


「七体残ってる。急ぐぞ」と俺は次のゴーレムへ向き直った。


 レオとガルダンが時間を稼ぎ、シルヴィアとリナが魔法で動きを封じ、俺が核を狙い撃つ。役割が自然に決まった。言葉を交わす必要もない。五人の旅で培った連携だった。


 三分もかからず、八体のゴーレムはすべて瓦礫となった。


 全員が肩で息をしている。リナが膝に手をついた。


「強かった……」と彼女が言った。


「古代の守護者は格が違う」とガルダンが汗をぬぐった。


 その時、カーラが俺の袖を引いた。


「ライトさん、あれを見てください」


 彼女が指さした先——崩れたゴーレムの一体の残骸のそばに、何かが落ちていた。錆びた金属の板。近づいて拾い上げると、それは名札だった。古い文字で名前が刻まれている。


 カーラが読んで、顔色が変わった。


「これは……父の名前です」


 静寂が落ちた。


「カーラの父が、ここまで来ていた証拠だ」と俺は静かに言った。


「生きているかもしれません」と彼女は名札を胸に抱きしめた。その目に涙が光った。「きっと、奥にいる」


 俺は正面の王宮を見上げた。魔力の渦がさらに激しく脈動している。時間がない。


「行こう」と俺は言った。「一緒に探す」


 六人は再び歩き出した。廃都の核へ——そして、カーラの父の行方へ。

 王宮の入り口は、巨大な石扉だった。高さ十メートルはある扉に、古代文字がびっしりと刻まれている。シルヴィアが解読を試みたが、首を振った。


「難しいわ。普通の古代語じゃない。さらに古い言語が混じっている」


「俺が読む」と俺は《言語理解》を発動した。


 文字の意味が頭に流れ込んでくる。


『この扉は、核の守護者のみが開くことができる。五つの遺跡の力を持つ者よ、汝の意思を示せ』


「意思を示す、か」と俺は扉の中央に手を当てた。


 《スキル無限》の中から、五つの遺跡で得た力を引き出す。それぞれの試練で学んだもの——強さ、知恵、勇気、絆、そして古代の力の一欠けら。それらを一つに束ねて、扉へと流した。


 扉が震えた。刻まれた文字が一斉に輝き、古代の魔力が波のように広がる。そして——重い音を立てながら、扉が内側に開いていった。


「開いた」とレオが呟いた。


 扉の奥から、眩い光が漏れてくる。俺たちは顔を見合わせ、中へ踏み込んだ。


 そこは広大な円形の空間だった。天井は高く、壁全体が水晶のように透明な石で覆われている。光が乱反射し、まるで宝石の内側にいるようだ。


 そして中央に——それがあった。


 人の背丈ほどの水晶の塔。その中で、金色と黒が混ざり合った魔力が激しく渦巻いている。不規則な脈動が轟音を生み出し、足元の床が小刻みに揺れていた。


「これが核か」とガルダンが息を呑んだ。


「不安定すぎる」とシルヴィアが顔を青ざめた。「このまま放置すれば、一時間以内に爆発するわ。爆発の規模は……半径十キロ以上を消し飛ばすかもしれない」


「この廃都ごと、周辺の町も巻き込むか」と俺は言った。


 アルマの町も、その範囲内に入る。


「ライト」とカーラが俺の腕を掴んだ。「父がいます!」


 見ると、水晶の塔の根元に人が倒れていた。中年の男性で、ぼろぼろの服を着ている。胸が上下しているのが見えた——生きている。


「カーラ、父親を連れ出せ。俺は核を止める」と俺は言った。


「一人で大丈夫?」とリナが心配そうに言った。


「みんなは出口を確保してくれ。何があっても、俺は追いかける」


 仲間たちが頷いた。カーラが父のもとへ走る。


 俺は水晶の塔の前に立った。金色と黒の渦が、俺を飲み込まんとするように激しく揺れている。


 これを止める方法は、一つしかない。


 俺は《スキル無限》のすべてを解放した。

 全身が光に包まれる感覚。《属性融合》、《深層感知》、《光魔法》——すべてのスキルが同時に起動し、俺の体から莫大な魔力が溢れ出した。


 水晶の塔の渦に、俺は両手で触れた。


 激流に飛び込んだような衝撃。金色と黒の魔力が俺を押しつぶそうとする。しかし俺は退かなかった。押し返す。押し返し続ける。


 一秒が、一時間のように長く感じた。


 やがて——渦が静まり始めた。


 黒い魔力が少しずつ金色に塗り替えられていく。脈動が規則正しくなり、轟音が消えていく。水晶の塔が、穏やかに輝き始めた。


 俺は膝をついた。魔力を使い果たした全身が、鉛のように重い。


「ライト!」


 レオの声がした。気がつくと仲間たちが俺を囲んでいた。


「止めたのか?」とガルダンが低く聞いた。


「ああ」と俺は答えた。「当分は安定しているはずだ」


 カーラが父親を抱きかかえて立っていた。父は意識を取り戻しており、娘の顔を見てゆっくりと目を細めた。


「カーラ……来てくれたのか」


「当たり前です」とカーラは涙声で言った。「絶対に迎えに来るって決めていました」


 俺は二人を見ながら、立ち上がった。足はふらつくが、倒れない。


「行こう。この場所の役目は終わった」


 六人——と一人は、輝きを取り戻した水晶の塔に背を向け、廃都フォルスハイムを後にした。次の戦いが待っている。しかし今だけは、この小さな再会を祝おうと思った。

毎日更新中!廃都の核を制圧、カーラの父も無事救出!次話もお楽しみに!

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