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第67話 廃都への道

 翌朝、アルマの宿で朝食を取りながら、俺たちはカーラと向かい合った。


「フォルスハイムへ向かうと聞きました」と彼女がパンをちぎりながら言った。「私も同行させてもらえませんか」


「危険だぞ」とレオが率直に言った。「侯爵の調査隊が三十人以上消えてる場所だ」


「わかっています」とカーラは静かに答えた。「でも、フォルスハイムには私自身の理由もあるんです」


 俺は彼女を見た。落ち着いた瞳の奥に、何か覚悟のようなものがある。


「理由を聞かせてくれ」


「私の父が、三年前に侯爵家の調査隊の一員としてフォルスハイムへ向かいました。そして、戻りませんでした」


 誰も言葉を発しなかった。


「王宮の伝令使になったのも、情報を集めるためです。フォルスハイムに関する情報なら何でも。父の手がかりが欲しくて」


「それで、わざわざ危険を冒してここまで俺たちを探しに来た?」


「はい。あなたたちなら、あの廃都で生き残れる可能性があると思って」


 シルヴィアが俺を見た。俺は少し考えてから答えた。


「同行は許可する。ただし俺たちの指示には従ってもらう。危ないと判断したら、迷わず引き返せ」


「はい」とカーラが深く頷いた。「ありがとうございます」


 こうして六人になった俺たちは、アルマを出発した。


 フォルスハイムへの道は、南の街道から外れた古い林道を進む。地図にも記載の少ない道で、草が生い茂り、かつてここが主要路だったとは思えない。


「百年前まではこの道も人が行き交っていたのよ」とシルヴィアが言った。「フォルスハイムは古代王国の首都として、大陸有数の都市だったらしいわ。人口は二十万を超えていたとも」


「それが一夜で消えた」とガルダンが言った。


「魔法の暴走で、ね」


 林道を三日歩くと、様相が変わってきた。木々が少しずつ黒く変色し、葉をつけていない枯れ木が目立つようになる。鳥の声も聞こえない。虫の音もない。まるで生命が拒絶されているような、息苦しい静けさだった。


「《深層感知》で見ると、空気中の魔力濃度が高い」と俺は言った。「普通の生き物には有害なレベルだ」


「私たちは大丈夫なのか?」とリナが不安そうに言った。


「今のところは。ただ奥へ進むほど濃くなるだろうから、注意が必要だ」


 カーラが小さな魔法の護符を取り出した。「これを。王宮の術師に作ってもらった、魔力過剰症を防ぐ護符です。六人分持ってきました」


「準備がいいな」とレオが感心した。


「父を探しに行くつもりでしたから」とカーラは静かに言った。

 護符を受け取りながら、俺はカーラの顔を改めて見た。父を探すために王宮で働き、情報を集め、単身ここまで来た。見た目は細身で剣を持っている様子もないが、その意思の強さは本物だ。


「護符、ありがとう」と俺は言った。


「役に立てて良かったです」と彼女は微笑んだ。


 さらに一日進むと、廃墟が見えてきた。


 最初は石塀の一部だった。苔むした石が積まれ、ところどころ崩れている。次第に建物の残骸が増え、やがて俺たちは廃都の外縁部に踏み込んでいた。


 フォルスハイム——。


 かつて二十万の人々が暮らした場所は、今は沈黙の海だった。崩れかけた家々が左右に並び、石畳の道は雑草に覆われている。風が吹き抜けるたびに、どこかから崩れた石の音がした。


「重い空気だな」とレオが周囲を見回した。


「魔力だけじゃない」とシルヴィアが静かに言った。「百年分の……何かが積もっている感じ」


 ガルダンが無言で手を胸に当てた。戦士として生きてきた彼でも、この場所の異様さは肌で感じるのだろう。


 リナが俺の袖をつかんだ。「誰かいます」


 俺は《深層感知》を展開した。廃都の奥——中央部に向かって数百メートルの地点に、複数の気配がある。人間だ。それも、大勢。


「二十人以上いる。止まっている。まるで……待ち伏せしているみたいだ」


「侯爵の私兵か?」とガルダンが言った。


「可能性が高い」とシルヴィアが険しい顔をした。「私たちが来るのを見越して、先回りしたのかもしれない」


 俺は考えた。引き返すという選択肢は、頭の中にない。


「正面から行く」と俺は言った。「ただし、不用意には攻撃しない。まず話を聞く」


「奇襲してきたら?」とレオが聞いた。


「その時は遠慮なくやる」


 六人は廃都の石畳を踏みしめ、奥へと進んだ。風が唸り、崩れかけた建物の影が伸びる。


 正面、大きな広場に出た瞬間——俺たちの前に、黒い鎧の集団が立ちはだかった。


 先頭に立つ男が兜を脱いだ。四十代とおぼしき、鋭い目をした男だった。口元に薄い笑みを浮かべ、俺を真っすぐに見た。


「やっと来たか、ライト・アシュフォード。待ちくたびれたぞ」


 その男の鎧には——エルドライン侯爵家の紋章が刻まれていた。

「あなたが侯爵家の者か」と俺は静かに言った。


「私はダルク・ヴァルテン。エルドライン侯爵閣下の右腕を務める者だ」と男は答えた。「わざわざここまで足を運んだのは、闘いたいからではない。取引をしたい」


「取引?」


「そうだ」とダルクは一歩前に出た。「フォルスハイムの核——古代王国が封じた力の結晶を手に入れるために、あなたの力が必要だ。協力してくれるなら、我々はあなたたちに一切手を出さない。それどころか、相応の報酬も用意しよう」


「断ったら?」


 ダルクはわずかに目を細めた。「断る理由があるのかね? あなたたちも廃都に用があってここに来たのだろう。目的が一致しているなら、手を組んだほうが効率的だ」


「侯爵は俺たちに刺客を送ってきた」と俺は言った。「手を組む相手の顔じゃない」


「それは誤解だ。私兵が暴走した。閣下はあなた方を傷つける意図はなかった」


 嘘だ、とシルヴィアが目で俺に告げた。俺も同じことを思っていた。


「考える時間をくれ」と俺は言った。


「いいだろう」とダルクが頷いた。「ただし、長くは待てない。廃都の核は日に日に不安定になっている。時間がないのだ」


 ダルクたちが広場の端に下がった。俺は仲間たちと輪になった。


「当然、信用できないよな」とレオが低い声で言った。


「ええ」とシルヴィアが頷いた。「ただ、核が不安定というのは本当かもしれない。《深層感知》で確認できる?」


 俺は廃都の中心へ感知を伸ばした。遠く、建物の向こうに——巨大な魔力の渦がある。不規則に脈動していて、まるで心臓の鼓動のようだった。そして確かに、その脈動は少しずつ乱れていた。


「本当だ。かなり不安定になっている。放置すれば——」


「爆発する」とシルヴィアが静かに言った。「五つの遺跡を制覇した俺たちが来たことで、封印が解け始めているのかもしれない」


 予想外の展開に、俺は一瞬息をのんだ。


「つまり、俺たちが来たせいで状況が悪化している?」


「そう。でも——それを安定させられるのも、あなたたちだけよ」


 俺は前を向いた。ダルクたちが待っている。廃都の奥で魔力の渦が揺れている。そして仲間たちが、俺の判断を待っている。


「行こう」と俺は言った。「取引はしない。でも廃都の核を安定させる——それは俺たちの仕事だ」


 六人は広場の先へ足を踏み出した。ダルクが何か叫んだが、俺は振り返らなかった。

毎日更新中!廃都フォルスハイムでついに侯爵の右腕と対面!次話もお楽しみに!

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