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第52話 リオンとの再会

ついにリオンと対面。アキトは何を思い、何を言うのか。

 扉が開いた。


 現れたのは、アキトが予想していた通りの顔だった。しかし予想とは違う部分もあった。


 リオン・ヴァルクは、疲れていた。


 以前の彼は自信に満ちた目をしていた。Aランクを目指す若き冒険者として、常に前を向いていた。しかし今、扉の前に立つリオンの目は、どこか濁っていた。頬がこけ、肌に張りがない。


 「……アキト」


 リオンが静かに言った。驚いている様子はなかった。降りてくる途中で、下の会話を聞いていたのかもしれない。


 「リオン」


 アキトも静かに答えた。


 二人の間に、長い沈黙が落ちた。応接室の空気が張り詰める。カルツが小さく息を呑む気配がした。


 リオンが先に口を開いた。


 「強くなったな、お前」


 「お前も変わった」


 「……褒め言葉じゃないな、それは」


 「ああ」


 リオンが椅子を引き、対面の幹部の男から少し離れた場所に腰を下ろした。まるで自分がその男の側ではないと示すように。


 「座っていいか」


 「どうぞ」


 アキトも椅子に深く座り直した。向き合う必要があるなら、正面から向き合う。それがアキトの出した答えだった。


 「なぜここにいる」とアキトは聞いた。「《蒼穹の楔》に何を求めた」


 リオンは少し間を置いてから答えた。「力だ。Aランクになるための力」


 「組織が提供した禁術の強化を受けたのか」


 リオンが目を細めた。「どこまで知ってる」


 「記憶石の中に全部あった」

 リオンは静かに笑った。しかし笑い声は出なかった。


 「ゼファン……あの老人が生きていたのか」


 「亡くなりました。でも俺に全てを残してくれた」


 「そうか」


 リオンが膝の上で手を組んだ。少し俯いてから顔を上げ、アキトを真正面から見た。


 「……俺がお前を追放したことを、後悔していないとは言わない」


 アキトは何も言わなかった。続きを待った。


 「でも当時の俺には、お前がスキルを持っていないとしか見えなかった。パーティの足を引っ張っていると思っていた。今思えば——封印のせいだったのかもしれないが、あの時はわからなかった」


 「それはわかる」とアキトは静かに言った。「封印が外から見えるものじゃなかった。俺自身も知らなかったんだから」


 リオンが少し目を開いた。


 「怒らないのか」


 「怒っていないとは言わない。でも今はそれより、お前がここにいる方が問題だ」


 リオンは幹部の男を横目で見た。男は黙って俯いている。


 「俺がこの組織に何をされたか、知りたいか?」


 「聞かせてくれ」


 リオンは静かに話し始めた。半年前、ある男に声をかけられた。Aランクに必要な力を手に入れる方法があると言われ、断り切れずに禁術の強化を受けた。最初は確かに強くなった。しかし二か月が過ぎたころから、体の制御が利きにくくなった。スキルが暴走する感覚が出始め、今は組織に縛られている状態だという。


 「逃げようとしても、術の縛りで動けない。逆らえば命はないと言われた」


 「……禁術の縛りか」


 アキトはセルを見た。セルが静かに頷き、リオンに近づいた。「確認させてください」と言って手を翳す。しばらくして「あります。複雑な術式ですが、解除できると思います」と言った。


 「頼む」


 「はい」


 ◇


 縛りの解除に三十分かかった。


 セルが術を解き終えると、リオンが深く息を吐いた。長い間、体を締め付けていた何かが消えた顔だった。


 「……軽い」


 「しばらくは無理をしないでください。術の後遺症が残ることがあります」とセルが言った。


 リオンがアキトを見た。「なぜ助けた」


 「お前が悪人とは思っていないからだ。騙された。それだけだろう」


 「甘いな」


 「そうかもしれない」


 リオンはしばらく黙ってから、立ち上がった。「俺にできることをする。この組織について、知っていることを全部話す。それで許されるとは思っていないが——」


 「許すとか許さないとかじゃない」とアキトは言った。「ただ前に進め。それだけでいい」


 リオンが目を細めた。何か言いかけて、やめた。それでもその目に、少しだけ光が戻ったように見えた。

 ◇


 幹部の男が全てを話した。


 《蒼穹の楔》は十五年前に設立された組織だ。強大な力を持つ個人を取り込み、その力を使って大陸の権力構造を操ることを目的としていた。禁術の強化を餌に構成員を増やし、縛りをかけて逃げられないようにする手口は確立されていた。


 リオンのような例は珍しくない。声をかけられた者の多くは、力への渇望から断れずに術を受け、後悔している。


 「幹部は全部で七人。王都にいるのは三人——俺と、あと二人だ。残りは他の都市に散っている」


 「その二人の居場所は?」


 「この屋敷の中だ。逃げようとしたが……」


 廊下から音がした。ブルスが二人を引きずって来た。縄で縛られた男二人が、床に転がる。


 「確保した」


 カルツが口笛を吹いた。「さすがだな、ブルス」


 「逃げ足が遅かった」


 これで王都にいる幹部三人全員を確保した。ギルドと騎士団に引き渡せば、王都支部は完全に壊滅する。残る幹部四人は他の都市にいるが、居場所の情報もある。


 「騎士団を呼んでいいか」とアキトはギルドマスターに先ほど渡した書類の控えを思い出しながら言った。


 「もう来ている」


 ミレイが窓の外を示した。屋敷の正門前に騎士の一団が集まっていた。どうやらギルドマスターが手配を進めていたらしい。


 「動きが早いな」とカルツが言った。


 「ありがたい」


 アキトは立ち上がり、幹部の男を騎士たちに引き渡すために歩き出した。


 ◇


 夕暮れの第一区画、屋敷の外で全員が揃った。


 「王都の件は片付いた。残り四人の幹部は他の都市にいる。騎士団が追う手配をしてくれた」


 「俺たちは?」とカルツが聞いた。


 「しばらくは王都で待機する。騎士団から情報が入り次第、動く」


 「了解」


 リオンが少し離れたところに立っていた。どこへ行く当てもない顔をしている。アキトは声をかけた。


 「今夜は宿に来い。話の続きがある」


 リオンが少し驚いた顔をしてから、静かに頷いた。「……わかった」


 夕日が王都の石畳を橙に染めていた。長かった一日が、ようやく終わろうとしていた。

 ◇


 宿の食堂で六人が食事をした。


 六人——アキト、カルツ、ブルス、ミレイ、セル、そしてリオン。少し前まで想像もしなかった光景だった。


 リオンは最初ほとんど話さなかった。しかしカルツがなんでもない話を振り続け、セルが温かいスープを「どうぞ」と差し出すうちに、少しずつ口が開いていった。


 「……お前たちは、変なパーティだな」


 「そうか?」とカルツが首を傾けた。


 「普通は追放した奴と飯を食わないだろ」


 「普通に縛られてたら、ここまで来られなかった」とアキトが言った。


 リオンはしばらく黙ってから、小さく言った。「……すまなかった」


 「聞こえなかった」とカルツが耳に手を当てた。


 「うるさい」とリオンが苦い顔をした。それでも「すまなかった」と、もう一度言った。


 アキトは頷いた。「聞こえた」


 それだけで十分だった。謝罪は一言で十分だ。あとは前を向けばいい。


 食事が終わり、リオンが立ち上がった。「今夜は別の宿を取る。迷惑はかけない」


 「迷惑じゃない」


 「でも俺には、まだ整理が必要だ」


 アキトは引き止めなかった。「わかった。明日また話そう」


 リオンが静かに頷き、食堂を出た。その背中を見送りながら、カルツが呟いた。


 「あいつ、変わるかもな」


 「変わればいい」とアキトは答えた。「それだけだ」


 窓の外に王都の夜が広がっていた。《蒼穹の楔》との戦いはまだ終わっていない。しかし今夜は、一つの区切りだった。

長かったリオンとの因縁に決着が近づいています。次回もよろしくお願いします!

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