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第50話 王都エルグラード

記念すべき第50話!五人、ついに王都へ到着。新たな戦いの幕が上がる。

 ガルダを出て五日後、王都エルグラードが見えてきた。


 丘の上に出た瞬間、ミレイが息を呑んだ。「……大きい」


 平野の中央に広がる都市は、これまで訪れたどの街とも規模が違った。何重もの城壁に囲まれ、中心には王城の尖塔が天を突いている。城下には無数の建物が密集し、遠目にも人と馬車の往来がわかる。


 「人口十万を超えると聞いていたが、こりゃ本当だな」とカルツが腕を組んだ。


 「エルザ大陸最大の都市です」とセルが解説した。「商業・軍事・政治の全てがここに集まっています」


 「《蒼穹の楔》の拠点もここにある」


 アキトは記憶石から得た情報を思い返した。組織の王都支部は、第三区画の古い商業地区に潜んでいる。表向きは薬草問屋を営んでいるという。


 「まず宿を取ろう。目立たない場所がいい」


 「わかった。案内は俺に任せろ」とカルツが張り切った。「こういう大きな街は路地裏に安くていい宿があるもんだ」


 「経験者の顔だな」とミレイが苦笑いした。


 ◇


 王都の第二区画、市場の近くに小さな宿を見つけた。清潔で目立たず、主人は無口だった。申し分ない。


 部屋に荷物を置き、全員で地図を広げた。


 「第三区画の薬草問屋《緑雨堂》が拠点だ。周囲を見張りながら、まず外から様子を探る」


 「仮に組織の人間と鉢合わせたら?」


 「ここで顔を割れるのはまずい。変装か、気配を消して近づく」


 「《気配遮断》のスキルはあるか?」とブルスが聞いた。


 「ある。三人分まで同時に適用できる」


 「なら俺とブルスで表から、アキト・ミレイ・セルで裏から挟む形で偵察できるな」とカルツが提案した。


 「それでいこう。ただし今日は偵察だけだ。接触はしない」


 全員が頷いた。アキトは《深層感知》を静かに発動させ、王都全体に意識を広げた。広大すぎて全ては探れないが——第三区画の方角に、薄く異質な気配があった。組織特有の、警戒を張り巡らせた感覚だ。


 「いる。確実に」


 「想定通りだな」とブルスが静かに言った。

 ◇


 夕刻、五人は手分けして第三区画に向かった。


 カルツとブルスは市場を冷やかす旅人を装い、表通りをゆっくり歩いた。アキト、ミレイ、セルは《気配遮断》をかけた状態で裏路地を進む。


 《緑雨堂》は通りに面した普通の薬草問屋だった。看板は古く、店先に薬草の束が並んでいる。客が何人か出入りしており、見た目は全く普通だ。


 しかしアキトには感じ取れた。店の奥——地下に向かう気配が複数ある。表の店員とは明らかに違う、鋭く警戒した気配だ。


 「地下に五人。全員Bランク以上の実力者だ」


 アキトが小声でミレイに伝えた。ミレイが静かに頷き、小さな手帳に書き込む。


 「出入り口は表と、この裏路地の扉だけか」


 「もう一つある。地下から繋がった隣の建物へ出る抜け道があるはずだ——《深層感知》で地下通路の気配を感じる」


 「抜かりないな」とミレイが眉をひそめた。


 三十分ほど観察し、引き上げた。合流したカルツが「表から見る限りは普通の店だったが」と言い、アキトが「だから厄介だ」と返した。


 ◇


 宿に戻り、情報を整理した。


 「地下に幹部クラスが集まっているとすれば、一気に制圧することも可能だ。ただし抜け道を塞がないと逃げられる」


 「抜け道の出口はどこだ?」


 「隣の廃屋の床下だと思う。明日もう少し詳しく探る」


 ミレイがメモをまとめながら言った。「焦る必要はない。確実に追い詰めてから動こう」


 「賛成」とセルが頷いた。


 カルツが腕を伸ばしながら言った。「しかし久しぶりの大都市だな。飯がうまいのはいいことだ」


 「今は任務中よ」とミレイが呆れた。


 「腹が減っては戦もできぬ」


 「……それはそうだけど」


 セルが小さく笑いながら夕食の包みを広げた。市場で買った温かいパンと肉のスープだ。王都の食事は確かにうまかった。


 「明日も偵察を続ける。全員、今夜はゆっくり休め」


 アキトの言葉に全員が頷いた。王都の夜は賑やかで、窓の外から人々の声と楽器の音が流れてくる。


 作戦は少しずつ固まっていく。《蒼穹の楔》の終わりが、近づいていた。

 ◇


 深夜、アキトは眠れずに窓辺に腰を下ろした。


 記憶石を手のひらに載せ、《深層感知》で中の情報をもう一度確認する。《蒼穹の楔》の幹部の一覧——その中に、見覚えのある名前があった。


 リオン・ヴァルク。


 かつてのパーティリーダー。アキトを「無能」と断じ、追放を言い渡した男だ。


 ゼファンの記録によれば、リオンは半年前から組織と接触を始めた。理由は「Aランク昇格に必要な力を手に入れるため」とある。組織が提供する禁術の強化を受けていた。


 怒りはない、と思っていた。しかし記録を読んでいると、胸の奥が静かに痛んだ。


 ——あいつは今も、間違った道を歩いている。


 アキトは石を握り締めた。《蒼穹の楔》を止めること。それはリオンを含む全員に向き合うことでもある。


 難しい道だとわかっている。それでも——向き合わなければ、ゼファン老師の願いは果たせない。


 窓の外で、王都の灯りがゆらゆらと揺れていた。


 ◇


 翌朝、食堂に下りるとカルツが先に座ってパンをかじっていた。


 「早いな」


 「目が覚めた。お前こそ顔色が悪いぞ、眠れなかったか?」


 「少しな」


 「……リオンのことか?」


 アキトは少し驚いた。カルツが言葉を続けた。


 「記憶石に名前があったんだろ、あいつの。見てる途中で顔が変わった」


 「わかるのか」


 「長い付き合いだからな」


 アキトはパンを手に取り、一口食べた。


 「向き合うことになるかもしれない」


 「そうなったら、俺たちもいる」


 カルツがそれだけ言って、またパンをかじった。それ以上は何も聞かなかった。


 アキトは静かに頷いた。十分だった。

 ◇


 二日目の偵察で、抜け道の出口を特定した。


 《緑雨堂》の隣、廃屋の床下に続く地下通路は、そこから五十メートル先の路地裏に出る構造だった。アキトが《深層感知》で慎重に追うと、通路の出口は古い井戸の裏に偽装されていた。


 「三方向を同時に塞げば逃げ場はない」


 「表・裏・抜け道の出口、か。俺とブルスで二か所を担当できる」とカルツが言った。


 「アキトが表から制圧、私とセルが裏口を封じる」とミレイが補足した。


 「完璧な包囲だな」


 「決行は明後日の夜明け前がいい。人が少なく、組織の警戒も薄くなる時間帯だ」


 「わかった」と全員が頷いた。


 アキトは記憶石をそっと懐にしまった。ゼファン老師、見ていてください——心の中で呟いた。


 王都の空に星が瞬いていた。決戦まで、あと二日。五人の準備は、静かに整っていく。

 ◇


 その夜、ミレイが宿の共用テラスでアキトに話しかけてきた。


 「ねえ、全部終わったとき——《蒼穹の楔》を潰して、リオンのことも片付いたとき。お前はどうしたい?」


 「どうしたい、か」


 アキトは夜空を見上げた。王都の灯りで星は少ないが、それでも幾つか見えた。


 「まだわからない。でも……またみんなで旅をしたい。目的のない旅を」


 ミレイが少し驚いた顔をしてから、微笑んだ。「それ、いいね」


 「目的のない旅は、目的のある旅と違って終わりがない」


 「終わりがないのは、いいことよ」


 二人はしばらく黙って夜風に当たった。下の通りでは酔っ払いの笑い声が聞こえ、遠くで音楽が鳴っていた。


 「ありがとう、ミレイ」


 「何が?」


 「声をかけてくれた日から、ずっと」


 ミレイは少し顔を赤くしてから、ふいとそっぽを向いた。「……水臭いこと言わないの」


 それでも口元は笑っていた。


 第50話。アキトの旅は、まだ半ばだ。しかし確かに、歩み続けている。

50話到達、いつも応援ありがとうございます!《蒼穹の楔》編、これから本格的に動き出します!

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