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第49話 ゼファンの真実

封印を作った老術師ゼファンが語る、アキトの出生と力の秘密。そして新たな脅威とは。

 夜になっても、ゼファンの話は続いた。


 焚き火が窪地を照らす中、五人は老術師の言葉に耳を傾けた。長い年月が積み重ねられた声は、穏やかでありながら重みがあった。


 「アキト、お前の両親のことは知っているか?」


 「孤児院育ちです。親のことは何も」


 ゼファンはゆっくりと頷いた。「そうか。では話そう。お前の母は、この大陸でも数少ない《全属性術師》だった。生まれ持って全ての属性を扱える、稀有な才能の持ち主じゃった」


 「母が……」


 「お前の父は優秀な剣士だった。二人は若くして命を落とした——儂の力が及ばなかった」


 老人の声が、わずかに陰った。


 「お前はその二人の力を受け継いだ。全属性の術と、剣士の感覚。しかしそれだけではない。お前の中には、まだ儂にも解明できていない何かがある。封印を段階的に解いても尚、底が見えなかった」


 「底が見えない……」


 「それが《∞》の意味じゃ。無限の可能性、とも言える。そしてそれがゆえに、狙われる危険もある」


 アキトは顔を上げた。「狙われる?」


 「この大陸には、強大な力を持つ者を取り込もうとする組織がある。《蒼穹の楔》という」


 カルツが眉をひそめた。「聞いたことがない名前だな」


 「表には出ない組織じゃ。しかし確実に存在する。お前が封印を解き、力が開放されたことは、すでに彼らの耳に入っているだろう」

 「《蒼穹の楔》が何を目的としているのかはわかっているのか?」とミレイが鋭く聞いた。


 「力の収奪じゃ。強大な力を持つ者を見つけ、その力を組織のために使わせる。従わない者は消される」


 重い沈黙が落ちた。


 「儂が封印を作ったのは、お前を守るためだけではなかった。力が未熟なうちは彼らの目に留まらない。段階を踏んで成長すれば、いざ狙われたときに自分で身を守れる——そのための時間を作りたかったのじゃ」


 「それで……俺が追放されたことも」


 「追放した者たちが《蒼穹の楔》と繋がっていたかどうかは、儂にはわからない。ただ——お前を追放した元のパーティのリーダーが、最近その組織と接触しているという話を聞いた」


 アキトは静かに息を吸った。かつての仲間、リオン。追放を言い渡した男の顔が浮かんだ。怒りはもうない。しかし無視もできない話だった。


 「どこで動いているのかわかるか?」


 「首都エルグラードに組織の拠点があると見ている。じゃが確証はない。儂の老いた足ではもう動けぬ」


 ゼファンが静かに杖を地面に突いた。


 「アキト、頼みがある」


 「何でしょうか」


 「《蒼穹の楔》の動きを止めてほしい。このまま放置すれば、お前だけでなく多くの者が被害を受ける。儂には時間がない——じゃが、お前ならできる」


 ◇


 「時間がない、とはどういうことだ?」


 カルツが直球で聞いた。ゼファンは穏やかに答えた。


 「儂は長く生きすぎた。封印を五つ作るために、寿命の大半を使った。残りはもう長くない」


 誰も言葉を返せなかった。


 セルが静かに「……治療できることはありますか」と聞いた。


 「気持ちはありがたいが、これは術で治せるものではない。時の流れに逆らう術は儂にも使えぬ」


 ゼファンが笑った。しかし悲壮感はなく、むしろ穏やかだった。


 「悲しむな。儂は十分生きた。お前たちに会えたことが、最後の望みじゃった」


 アキトは老人をじっと見つめた。会ったのは今日が初めてだ。しかしこの人が自分の人生の陰でずっと見守っていたのだと思うと、言葉が出なかった。


 「……必ず止めます」


 やっとそれだけ言えた。


 「うむ」とゼファンは頷いた。「信じておる」

 ◇


 話が終わると、ゼファンは懐から小さな石を取り出してアキトに渡した。


 親指ほどの大きさで、表面に細かい紋様が刻まれている。触れると、ほんのり温かかった。


 「それは儂が残した最後の術具じゃ。《記憶石》という。儂が知っていることを全て記録してある。《蒼穹の楔》の構成員の顔、拠点の位置、弱点——役に立てるはずじゃ」


 「ありがとうございます」


 「使い方は簡単じゃ。石に意識を向けて《深層感知》を使えば、中の記憶が流れ込んでくる。じっくり確認するといい」


 アキトは石を握り締めた。この小さな石の中に、老人の長い年月が詰まっている。


 「一つだけ聞いていいですか」


 「何でも聞け」


 「俺の両親は……どんな人たちでしたか」


 ゼファンは少し間を置いた。そして静かに微笑んだ。


 「お前によく似た人たちじゃった。困っている者を放っておけず、仲間を大切にし、どんな状況でも諦めなかった。お前はちゃんと受け継いでいる」


 アキトは目を伏せた。こみ上げるものがあったが、こらえた。


 「……ありがとうございます」


 ◇


 その夜、五人はゼファンの近くで眠った。


 翌朝、目が覚めると老人の姿はなかった。石の椅子も、焚き火の痕以外に何も残っていない。まるで最初から誰もいなかったかのように。


 「……行ってしまったな」


 カルツが静かに言った。


 アキトは手の中の記憶石を見つめた。温かさは変わらない。


 「次は首都エルグラードだ。《蒼穹の楔》の動きを確かめる」


 全員が頷いた。誰も余計なことを言わなかった。それでよかった。


 魔獣の巣窟を後にする五人の背後で、朝の光が岩山を照らした。新たな目的地が決まった。ゼファンの願いを胸に、アキトたちの次の旅が始まる。

 ◇


 ガルダの街に戻ると、冒険者ギルドで昨日の受付の女性が目を丸くした。


 「お戻りになったんですか……全員無事で?」


 「全員無事だ」とカルツが胸を張った。


 「黒鉄竜二匹、天雷獣一匹、深淵蜘蛛十二匹を撃破しました。討伐証明の素材をお持ちします」


 ミレイが鱗と牙をカウンターに並べると、女性が絶句した。


 「……本当に倒してきたんですか」


 「信じてもらえないのは少し悲しいな」とカルツが苦笑いした。


 報酬は大きかった。Sランク討伐の依頼は長年達成されていなかったため、特別報酬が加算された。カルツが金額を見て「よし!」と声を上げ、ミレイが「浪費しないでよ」と釘を刺した。


 宿に戻り、アキトは一人で記憶石に意識を向けた。《深層感知》を使うと、映像のように情報が流れ込んできた。《蒼穹の楔》の幹部の顔、首都エルグラードの拠点の位置、組織の目的——そして、元のパーティのリーダー、リオンの名前が確かに記録されていた。


 「ゼファン老師……」


 アキトは石を静かに握り締めた。老人はもういない。しかしその意志は、確かにここにある。


 必ず止める。


 その決意を胸に、アキトは目を閉じた。首都エルグラードへの旅が、明日から始まる。

 ◇


 翌朝の食事の席で、カルツが言った。


 「《蒼穹の楔》か……物騒な名前だな。どのくらい強い連中なんだ?」


 「記憶石の情報によれば、幹部はAランク以上が複数いる。組織全体の規模は中程度だが、闇に潜んで動いているから厄介だ」


 「正面から戦えば勝てるか?」


 「戦力だけなら、今の俺たちなら押せる。問題は相手が隠れている間は手が出せないことだ」


 「つまり炙り出す必要があるな」とブルスが静かに言った。


 「そういうことだ。首都に着いたら、まず情報を集める。焦らず、確実に」


 「了解」とカルツが頷いた。「まあ、封印のときも似たようなものだったな。一つずつ、確実に」


 ミレイが微笑んだ。「その通りね」


 五人は食事を終え、エルグラードへの旅路につく準備を始めた。ゼファンの願い、両親の面影、そしてリオンの影——全てを胸に抱えながら、アキトは北へ続く道を見据えた。


 新たな章が、始まろうとしていた。

 ◇


 翌朝の食事の席で、カルツが言った。


 「《蒼穹の楔》か……物騒な名前だな。どのくらい強い連中なんだ?」


 「記憶石の情報によれば、幹部はAランク以上が複数いる。組織全体の規模は中程度だが、闇に潜んで動いているから厄介だ」


 「正面から戦えば勝てるか?」


 「戦力だけなら、今の俺たちなら押せる。問題は相手が隠れている間は手が出せないことだ」


 「つまり炙り出す必要があるな」とブルスが静かに言った。


 「そういうことだ。首都に着いたら、まず情報を集める。焦らず、確実に」


 「了解」とカルツが頷いた。「まあ、封印のときも似たようなものだったな。一つずつ、確実に」


 ミレイが微笑んだ。「その通りね」


 五人は食事を終え、エルグラードへの旅路につく準備を始めた。ゼファンの願い、両親の面影、そしてリオンの影——全てを胸に抱えながら、アキトは北へ続く道を見据えた。


 新たな章が、始まろうとしていた。

物語の核心が明らかに!次回も目が離せません。応援よろしくお願いします!

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