第5話 Fランクから始める
今回もお読みいただきありがとうございます!
第5話では冒険者登録と受付嬢リナとの出会いをお届けします。
最下位スタートのアキトが周りにどう見られるか…ぜひお楽しみください!
ギルドの内部は、思ったより広かった。
入り口を入ってすぐ左に受付カウンターがあり、正面の壁には依頼書がびっしりと貼られた大きな掲示板がある。右手奥には食堂区画があり、テーブルに座った冒険者たちがめいめいに酒を飲んだり、地図を広げたりしていた。
アキトが扉を開けた瞬間、いくつかの視線がこちらに向いた。
装備なし。武器なし。どう見ても一般人。
視線はすぐに離れた。興味を失ったのだろう。
受付カウンターに近づくと、先ほど書類を差し出してくれた受付嬢が顔を上げた。茶色の髪を後ろで束ねた、きりっとした目の女性だ。年はアキトと同じくらいか、少し上に見える。
「お待たせしました。記入はお済みですか?」
「済んだ」
アキトは用紙を差し出した。名前、年齢、出身地、スキルの欄。スキルの欄には、正直に書く気にはなれなかった。「∞」と書いたところで信じてもらえないし、余計な騒ぎになるだけだ。空欄にしておいた。
受付嬢が用紙に目を通し、スキルの欄で少し止まった。
「スキル欄が空欄ですが……」
「なし、ということで登録してほしい」
「……承知しました」
彼女は特に追及しなかった。プロだと思った。
「霧島アキト様ですね。初回登録はFランクからとなります。ランクアップには依頼の達成と、ギルドの審査が必要です。冒険者証はこちらになります」
差し出されたのは、薄い金属製のプレートだった。表面に名前とFランクの刻印がある。
アキトはそれを受け取り、手のひらで眺めた。
Fランク。最下位。追放されて、また底から出直しだ。
だが今度は、本当の意味で自分の力で上がっていける。
「ありがとう。名前を聞いていいか」
受付嬢が少し目を丸くした。
「……リナです。ダルクス・リナ。よろしくお願いします」
「リナさん、よろしく。また世話になると思う」
アキトが軽く会釈して離れようとしたその時、背後から声が飛んできた。
「おい、今登録したのか? Fランクか」
振り返ると、テーブルに座っていた男たちの一人がこちらを見ていた。日焼けした顔に人を食ったような笑みを浮かべた、三十手前の男だ。隣に同じような雰囲気の仲間が二人いる。
「そうだ」
「装備もなしか。どこかの坊ちゃんが冒険者ごっこか?」
周囲のいくつかの視線が集まった。笑いをこらえているような空気もある。
アキトは相手を一瞥した。鑑定スキルが情報を出す。ブルス、Dランク冒険者。エルザ所属歴三年。
(Dランクか)
反論する気にもなれなかった。言葉で説明するより、依頼をこなして結果を出した方が早い。
「そうかもしれない」
一言だけ返して、アキトは掲示板へ向かった。
背後でくくっと笑う声が聞こえた。からかいの対象が面白い反応をしなかったので、すぐに飽きたようだった。
掲示板には様々なランクの依頼が並んでいた。Fランクが受けられるのは下の段だ。スライム討伐、薬草採取、荷物運び、害獣駆除――いずれも報酬は銅貨数枚程度だが、まずはここからだ。
アキトは「薬草採取(赤鉄草×10束)」という依頼票を手に取った。報酬は銅貨二十枚。鑑定スキルがあれば一時間もあれば集められる量だ。
「その依頼にしますか?」
リナが声をかけてきた。
「ああ。一番早く済ませられそうだから」
「Fランクの方には荷物運びを勧めることが多いんですが……薬草採取は森に入る必要があって、少し危険なんです」
「大丈夫だ」
アキトは依頼票をカウンターに差し出した。
リナは少し迷ったような顔をしたが、受理の印を押してくれた。
「お気をつけて。何かあったら、ギルドにお知らせください」
「ありがとう」
アキトはギルドを出た。空は青く、風は爽やかだった。
Fランク。最底辺。それでいい。
上がっていく過程を、楽しんでやろうと思った。
◇
街の外れから森へ続く獣道を、アキトは軽い足取りで進んだ。
鑑定スキルを起動したまま周囲を見回すと、植物の種類と性質が次々と頭に入ってくる。食用、毒性、薬効――目に映るものすべてに情報がついてくる感覚は、何度経験しても不思議だった。
赤鉄草はすぐに見つかった。茎が赤みがかった緑色で、葉の裏に細かい産毛がある。湿った土を好むため、小川沿いに群生していた。
アキトは手際よく採取しながら、同時に周囲の魔獣の気配を探った。隠密スキルで自分の気配を消しているので、魔獣はこちらに気づいていない。採取の邪魔をされることなく、淡々と作業が進んだ。
十束集めるのに、三十分もかからなかった。
折り返してギルドへ戻る途中、後ろから足音が聞こえた。複数人。急いでいる。
振り返ると、冒険者らしき男女が二人、血相を変えて走ってきた。女性の腕に切り傷があり、男性が彼女を支えている。
「おい、そこの! ヒールポーションを持ってないか!」
男が叫んだ。
アキトは二人を見た。鑑定スキルが状況を解析する。女性の傷は浅いが、出血が続いている。男性も疲弊しており、魔力がほぼ底をついている。Eランクの二人組のようだ。
「ちょっと待て」
アキトは採取した薬草の中から数束を取り出し、その場で錬金術スキルを起動した。葉を素早く加工し、凝縮した薬液を作る。
「これを傷口に」
「え、でも……」
「使ってくれ。止血できる」
男性が半信半疑で受け取り、女性の傷口に当てた。するとじわりと液体が染み込み、数秒で出血が止まった。女性が目を丸くした。
「す、すごい……痛みも引いてきた」
「良かった。深くはないから、ギルドで手当てすれば十分だ」
「あ、ありがとう! お前、名前は?」
「霧島アキト。今日登録したFランクだ」
男性が一瞬固まった。
「F……ランク? その腕で?」
「始めたばかりだから」
アキトはそれだけ言って歩き出した。
二人がまだ呆然としている気配が背中に伝わったが、構わなかった。
◇
ギルドに戻って依頼票を提出すると、リナが採取物を確認した。
「……十束、全部揃っていますね。それも状態がとても良い」
「採りやすい場所があった」
「一時間も経っていませんが」
「近かった」
リナはしばらくアキトを見た。何かを言いたそうな顔をしたが、結局は報酬の銅貨二十枚をカウンター越しに差し出した。
「お疲れ様でした、霧島さん」
「ありがとう。また明日も来る」
「……はい、お待ちしております」
ギルドを出たアキトの耳に、先ほど自分をからかったDランクの男の声が聞こえた。
「なんで一時間でFランクが戻ってくるんだ……」
アキトは振り返らずに、小さく口元を緩めた。
Fランクで結構。焦る必要はない。
明日も依頼をこなして、少しずつ積み上げていけばいい。
第5話、お読みいただきありがとうございました!
Fランク最底辺からスタートしたアキトですが、すでに周囲と格が違いますね。
リナとの出会い、からかってきたDランク冒険者への無言の返答、怪我をした冒険者への一幕、楽しんでいただけましたか?
次話では依頼をこなしながら、アキトがどんどん頭角を現していきます。
感想・評価・ブックマーク、引き続きよろしくお願いします!




