第4話 錬金術師の卵
今回もお読みいただきありがとうございます!
第4話では、アキトが街で錬金術を活かして資金を稼ぐ場面をお届けします。
ちょっとしたスカッと展開もありますのでお楽しみください!
エルザの街は、思ったより活気があった。
石畳の大通りには商店が並び、昼時ということもあって多くの人が行き交っている。肉を焼く匂い、馬の蹄の音、子供の笑い声。久しぶりに触れる日常の空気に、アキトは少しだけ足を止めた。
まず金が要る。
宿に泊まるにも、食事をするにも、ギルドに登録するにも、最低限の資金がなければ何もできない。今持っているのは銅貨数枚と、森で仕留めた魔狼の素材だけだ。
アキトは街の中を歩きながら、鑑定スキルで各店の看板を読んだ。雑貨屋、宿屋、武器屋、食料品店――そして少し奥まった場所に、「素材買取・ハーゲン商会」と書かれた看板を見つけた。
迷わず扉を開ける。
店内は薄暗く、棚には瓶詰めの薬草や魔獣の牙、乾燥させた素材が所狭しと並んでいた。カウンターの奥に、五十がらみの太った男が座っていた。商会主らしい。
「いらっしゃい……と言いたいところだが、お前さん、見たところ冒険者じゃないな」
男は眼鏡越しにアキトを眺め、値踏みするような目をした。装備なし、武器なし。どう見ても新米以下だ。
「素材を売りたい」
「ほう。何を持ってる?」
アキトは荷物袋から魔狼の素材を取り出した。毛皮が三枚、牙が六本、魔石が三つ。全て丁寧に加工してあり、傷がない。
商会主の目が変わった。
「……これは」
「全部、今朝の森で獲った。三頭分だ」
「Dランク魔獣を三頭……しかも解体が綺麗だ。錬金術で加工したか?」
「少し」
男はしばらく素材を眺め、それから顔を上げた。
「毛皮一枚で銀貨二枚、牙一本で銀貨一枚、魔石一つで銀貨四枚。合計で銀貨二十一枚になる。どうだ」
鑑定スキルで相場を確認していたアキトには、それが正当な値段だと分かった。足元を見ずに正直な値をつけてくれる商人は、信用できる。
「それで頼む」
「毎度。……ところで、お前さん、錬金術の腕はどれくらいだ?」
代金を受け取りながら、アキトは商会主を見た。
「なぜ?」
「実はな、困っていることがあってな」
男は棚の奥から一本の瓶を取り出した。中に茶色い液体が入っている。
「赤鉄草から抽出した強壮薬の素材なんだが、加工が雑でな。このままじゃ薬として売れない。精製できる錬金術師を探してたんだが、この街には腕のいい職人がいなくてな」
アキトは瓶を受け取り、鑑定スキルで中身を調べた。
(確かに不純物が混じっている。でもこれなら……)
錬金術スキルが、精製の手順を自動的に示してくれた。素材の構造が見え、どこに余分なものが混じっているかが分かる。
「やってみる」
「本当か? ただし失敗したら弁償してもらうぞ」
「分かった」
アキトはカウンターの端を借り、瓶を両手で包んだ。錬金術スキルを起動し、意識を液体の中へ向ける。魔力を細く、糸のように流し込んで、不純物だけを分離していく。
一分もかからなかった。
茶色く濁っていた液体が、透き通った琥珀色に変わった。
商会主が目を見張った。
「……お前さん、本当に只者じゃないな」
「初めてやったわりには、うまくいった」
「初めて?」
アキトは少し考えてから、正直に答えた。
「まあ、そんなところだ」
男はしばらく黙って精製済みの薬を眺め、それから低く笑った。
「この薬、精製前なら銀貨五枚のところが、これだけ綺麗になれば金貨一枚で売れる。手間賃として銀貨十枚払おう。どうだ」
「ありがたい」
追加で銀貨十枚。合わせると銀貨三十一枚。銅貨換算で三百一枚分の資金ができた。しばらくは食うに困らない。
「またいつでも来い。腕のいい錬金術師はいつでも歓迎だ」
店を出たアキトは、手の中の銀貨を握りしめた。
誰かに認めてもらうことが、久しぶりだった。パーティーにいた頃は、何をしても当たり前扱いだった。飯を作っても礼も言われなかった。
だが今日の商会主は、ちゃんと値をつけてくれた。
「さて、次はギルドだな」
アキトは空を見上げ、大通りへ向けて歩き出した。
◇
ギルドへ向かう途中、アキトは路地の奥で声を聞いた。
「おい、そこのガキ。ちょっと待て」
振り返ると、三人の男たちがいた。革鎧を着た、いかにも冒険者風の男たちだ。年は二十代半ばから三十前後。体格はいい。だが目が据わっていて、態度が悪い。
鑑定スキルが自動で情報を弾き出した。カルロ、冒険者Cランク。パーティー「鉄爪」所属。問題行動複数あり。
(厄介そうだな)
「何か用か」
「ハーゲンの店から出てきたろ。素材売ったか?」
「売った。それが何か?」
先頭の男――カルロが、ニヤリと口の端を上げた。
「そこの素材、俺たちが先に目をつけてたんだよ。お前みたいな装備なしのガキが横取りしやがって。売上の半分をこっちに寄越せ」
言いがかりだ。アキトはそれをすぐに理解した。
以前のアキトなら、黙って従っていたかもしれない。争いごとは苦手だったし、何より「自分には力がない」と思い込んでいたから。
だが今は違う。
「断る」
カルロの目が細くなった。
「あ? 聞こえなかったか。Cランクの俺たちに向かってその口の利き方は――」
「Cランクなら分かるはずだ。魔狼三頭の解体素材がどれだけの手間か。俺が正当な対価で売ったものを、理由もなく奪おうとするのは盗みだ」
冷静な声で言い切った。
カルロが一歩前に出た。拳を握っている。
「やるか、このガキ」
アキトは動じなかった。
隠密スキルを切り、気配を意図的に解放した。普段は抑えている、スキルの圧が表に滲み出る。殺気ではない。ただ「格が違う」という事実を、空気として伝えた。
カルロの足が、止まった。
他の二人も、顔色が変わっていた。体が本能的に、目の前の存在を「危険」と認識したのだろう。
「……な、なんだ、お前」
「用がないなら行く」
アキトはそれだけ言って、男たちの横を通り過ぎた。
背後で、三人がざわめいている声が聞こえた。だが誰も追ってこなかった。
◇
大通りに戻ると、アキトは小さく息を吐いた。
力を誇示するつもりはなかった。ただ、不当な要求に頭を下げる必要もない。それだけのことだ。
ギルドの建物が見えてきた。二階建ての石造りで、入り口に冒険者の紋章が掲げられている。中から複数の人の気配と、賑やかな声が漏れていた。
アキトは扉の前に立ち、一度だけ深呼吸した。
無能と呼ばれた自分が、冒険者として再出発する。Fランクの最下層から。それが滑稽かどうか、他人がどう思うかは関係ない。
大事なのは、自分がどう動くかだ。
扉を押し開けると、ざわめきと煙草の匂いが混じった空気が流れてきた。
霧島アキトの、冒険者としての第一歩が始まろうとしていた。
内部は広く、木製のテーブルが並び、冒険者たちが思い思いに過ごしていた。依頼書が貼られた掲示板、受付カウンター、奥には食堂らしき区画もある。天井は煤で黒ずんでいて、生活感があった。
カウンターに近づくと、若い女性の受付嬢が顔を上げた。明るい茶色の髪を後ろでまとめ、きびきびとした目をしている。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「冒険者登録をしたい」
「承りました。こちらの用紙にご記入を――」
彼女の視線が、一瞬だけアキトの全身を流れた。装備なし、武器なし。それでも特に動揺した様子もなく、淡々と書類を差し出してくれた。
その落ち着いた対応が、なんとなく気に入った。
(悪くない街かもしれない)
アキトはペンを手に取り、用紙に名前を書き始めた。
第4話、お読みいただきありがとうございました!
今回は錬金術で資金を稼ぎ、からんできた冒険者をさらりとあしらう場面をお届けしました。
アキトはまだ全力を出していませんが、「格が違う」雰囲気だけで相手を退かせる場面、楽しんでいただけましたか?
次話ではいよいよ冒険者登録!受付嬢リナとの本格的な出会いをお届けします。
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