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第3話 最初の一歩

今回もお読みいただきありがとうございます!

第3話では、アキトが初めて本格的に力を使い、辺境の街へと歩み出します。

スカッとする展開になっていると嬉しいです。どうぞお楽しみください!

 夜明けの光の中を、アキトは歩いていた。


 森の獣道を踏みしめるたびに、露が靴の先を濡らした。冷たい。だが不思議と、不快ではなかった。むしろ体が、昨日よりずっと軽い気がした。


 理由は分かっている。昨夜、自分の中に眠っていた力を知ったからだ。


 体力増強スキルが、無意識のうちに働いているらしかった。鑑定スキルで自分のステータスを確認すると、筋力・敏捷性ともに数値が跳ね上がっていた。一晩でここまで変わるのか、と思いながら、アキトは森の中を進んだ。


 目的地は、辺境の街。


 名前は分からない。だが街道さえ見つければ、人の気配をたどれるはずだった。鑑定スキルと空間把握スキルを組み合わせると、周囲の地形がおぼろげに感じ取れた。北東に、整地された道がある。距離にして、おそらく半日ほどだろう。


 歩きながら、アキトは昨夜試せなかったスキルを少しずつ動かしてみた。


 風魔法で足元に薄い気流を作ると、跳躍力が上がった。試しに軽く跳んでみると、大人の背丈の三倍ほど上に浮いた。そっと降りる。着地音がほとんどない。


「……隠密と組み合わせたら、完全に気配が消えるな」


 独り言を呟きながら、アキトは試行錯誤を続けた。


 スキルはそれぞれ独立しているわけではなく、組み合わせることで効果が変わることに気がついた。炎魔法と風魔法を同時に使えば、炎が風に乗って広範囲に拡散する。氷魔法と土魔法を重ねると、地面を凍らせて相手の足を止められる。雷魔法と水魔法を合わせれば、広域の痺れ攻撃になる。


 まるでパズルだと、アキトは思った。


 どの組み合わせが最も効果的か。どのタイミングで何を使うか。スキルが多いということは、選択肢が多いということだ。逆に言えば、正しく選ばなければ力を持て余すだけになる。


 覚えることは山ほどある。だが、それが楽しかった。


 そうやって一人で試行錯誤しながら歩いていると、不意に、草むらが揺れた。


 アキトは足を止めた。


 隠密スキルが、複数の気配を捉えていた。三つ。それぞれが人間よりも大きく、荒々しい殺気を帯びている。


魔狼(まろう)か)


 鑑定スキルが、姿を現す前に答えを出した。魔狼(まろう)はDランク相当の群れを作る魔獣で、単体では大したことはないが、三体以上になると連携を取り始める。経験の浅い冒険者なら三体同時は危険な相手だ。


 だがアキトは、その場を動かなかった。


 草むらから、灰色の巨体が三頭、姿を現した。肩の高さが人の腰ほどある狼型の魔獣。赤い瞳がアキトを捉え、低く唸り声を上げながら間合いを詰めてくる。


 先頭の一頭が、地を蹴って飛びかかってきた。


 アキトは一歩、右に踏み込んだ。


 剣術スキルが体の動き方を教えていた。余計な力を抜いて、最小限の動作で躱す。飛びかかってきた魔狼の爪がアキトの肩をかすりもせずに空を切り、巨体が地面に落ちた。


 その瞬間、アキトは右手を振った。


 武器はない。ただの素手だ。だが体力強化スキルと剣術スキルが組み合わさった一撃は、魔狼の側頭部を正確に打ち抜いた。くぐもった音がして、魔狼は一回転して地面に倒れた。


 残り二頭が、左右から挟み込もうとする。


 アキトは両手を広げた。左手に氷魔法、右手に雷魔法を同時に展開する。左の魔狼の足元が瞬時に凍りつき、動きが止まった。右の魔狼には雷の散弾を放ち、まとめて動きを奪う。


 そのまま三歩で間合いを詰め、動けなくなった二頭の眉間をそれぞれ平手で打つ。


 静寂が戻った。


 地面に三頭の魔狼が横たわっている。時間にして、十秒もかかっていなかった。


「……やりすぎたか」


 アキトは息一つ乱さず、手のひらを見つめた。


 昨日まで、自分は何もできない人間だと思っていた。荷物を運ぶことしか取り柄がない、スキルなしの役立たず。だがこうして動いてみると、体が正確に反応する。魔法が思い通りに出る。スキルが、過不足なく働く。


 誰かに「お前は無能だ」と言われ続けると、いつの間にかそれが本当のことのように思えてくる。


 怖ろしいことだと、アキトは今さら気づいた。


 魔狼の素材は高く売れる。せっかくなので鑑定スキルで使える部位を確認し、錬金術スキルで素早く加工した。毛皮、牙、魔石。荷物袋に詰めると、ずっしりと重くなった。


「これで当面の資金は何とかなるな」


 空を見上げると、朝日が高くなっていた。


 アキトは歩き出した。辺境の街へ向かって、足取りは軽かった。


 街道に出たのは、それからしばらく経った頃だった。整地された石畳の道が北東へ伸びており、遠くに街の輪郭が見えた。小さな煙突から煙が上がっている。人が生活している証拠だ。


 アキトはその光景を眺めながら、小さく息を吐いた。


 一年間、何もできなかった。そう信じて生きてきた。


 だが今日からは違う。スキルがある。力がある。そして何より、もう誰かの顔色を窺わなくていい。


「行くか」


 自分自身に言い聞かせるように呟いて、アキトは街へ向けて歩き出した。


 ―― 霧島(きりしま)アキト、十七歳。《《無能》》と呼ばれた男の、本当の一歩が始まった。


 ◇


 街の門に着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 エルザ(えるざ)――それが街の名前らしかった。門柱に刻まれた文字を、鑑定スキルが自動的に読み取った。王国の辺境に位置する小さな交易街で、人口は二千人ほど。冒険者ギルドもある。


 門番の男が、アキトに視線を向けた。


 三十代ほどの、がっしりとした体格の男だった。革鎧を身に着け、槍を脇に立てている。その目が、アキトの全身をざっと見て、すぐに興味をなくしたような顔になった。


「通行料は銀貨一枚だ。冒険者なら証明書を出せ」


「冒険者証はまだ持っていない。これで通れるか」


 アキトは荷物袋から魔狼の魔石を一つ取り出した。


 門番の目が変わった。Dランク魔獣の魔石は、銀貨五枚以上の価値がある。しかも傷一つない、きれいな状態だ。


「……どこで手に入れた」


「森で三頭狩った。素材はギルドで売るつもりだ」


 門番はしばらくアキトを見た。どう見ても、戦士には見えない格好だった。装備らしい装備もなく、武器も持っていない。それでいてDランク魔獣の魔石を平然と差し出している。


「……まあいい。通れ」


 魔石を受け取ることなく、門番は槍を脇にどけた。通行料の銀貨も取らなかった。


 アキトは軽く会釈して、街の中へ足を踏み入れた。


 石畳の道が続いている。両側に商店が並び、人々が行き交っていた。肉屋、薬草屋、鍛冶屋、宿屋。活気があって、匂いがあって、声があった。


 久しぶりに、人の中にいる感覚だった。


 旅をしている間は常にパーティーと一緒だったが、あれは「人の中にいる」とは言えなかったかもしれない。アキトはいつも少し外れた場所に立っていた。輪の中には入れなかった。


 だが今は、誰もアキトのことを知らない。


 それが、むしろ気楽だった。


「ギルドはどこだ」


 呟いて、空間把握スキルを使った。街の中心部に、大きな建物がある。人の出入りも多い。おそらくあそこだろう。


 アキトは人混みをぬけて、歩き始めた。


 無能と呼ばれた男が、Fランクから始める。それが滑稽だとは思わなかった。どこから始めても、上を目指すのは変わらない。


 それに――底辺から見える景色も、悪くはないだろう。

第3話、お読みいただきありがとうございました!


今回はアキトが初めて戦闘し、エルザの街へ到着するまでの話でした。

スキルの組み合わせが今後の戦闘の肝になってきます。


次話ではいよいよ冒険者ギルドへ登録!

受付嬢のリナとの出会いもお楽しみに。


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引き続きよろしくお願いします!

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