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第45話 全ての封印の果てに

五つの封印、全解除。アキトの本当の旅が、ここから始まる。

 光が、世界を満たした。


 岩柱から放たれた白い輝きが山頂を超え、空へと昇っていく。霧が晴れた青い空に、光の柱が一本まっすぐ立った。それはしばらく続いてから、静かに消えた。


 アキトは岩の上に膝をついたまま、荒い息をしていた。体中の力が抜けて、指一本動かせない。しかしそれとは裏腹に——全身に何かが満ちてくる感覚があった。


 温かく、広く、深い。


 封印されていた何かが、ようやく解き放たれたのだとわかった。


 「アキト!」


 ミレイが駆け寄り、膝をついてアキトの顔を覗き込んだ。目が潤んでいる。「大丈夫?意識ある?」


 「ある……ちゃんとある」


 「よかった……本当によかった」


 ミレイがアキトの肩に手を置いた。その手が、微かに震えていた。


 カルツが隣に立ち、頭をかきながら言った。「まったく、毎回ひやひやさせやがって」


 「今回は特にひどかった」とブルスが静かに続けた。「途中で体が傾いた」


 「気づいてたのか」


 「全員気づいていた」とセルが言った。「でも声をかけると集中が乱れると思って」


 アキトは苦笑いした。「……次はもっと上手くやる」


 「次はないぞ、封印は全部解いたんだから」とカルツが笑った。


 ◇


 しばらく岩場で休んだあと、アキトはスキルウィンドウをゆっくりと開いた。


 《∞解放》——その文字の下に、これまで取得してきたスキルの一覧が並んでいる。霧の湖で得た《多重展開》、霜の谷の《氷炎転換》、岩壁の《全属性感応》、塩湖の《深層感知》——そして今回の《∞解放》。


 五つの封印を解くたびに得てきた力が、今は一つに繋がっている感覚があった。


 「どうだ、何か変わったか?」とカルツが聞いた。


 アキトは軽く《炎熱弾》を発動させてみた。掌の上に浮かんだ炎の球が、以前の三倍ほどの大きさになっている。出力を上げたわけではないのに、自然にそうなった。


 「……全部のスキルが底上げされてる。封印が外れた分、出力の上限が上がったんだと思う」


 「つまりもっと強くなったってことか」


 「そうなる」


 カルツが口笛を吹いた。「一緒にいると頼もしいやら恐ろしいやら」


 「頼もしい方で頼む」

 ◇


 山を下りながら、ミレイが言った。


 「ねえ、封印を誰が作ったのか、気にならない?」


 「気になる」とアキトは答えた。「五つ全部、同じ様式で作られていた。一人の術師——それも相当な実力者だ」


 「なぜアキトに封印を?」


 「わからない。でも悪意のある封印じゃなかった。むしろ……保護しているような感じがした。スキルが暴走しないように、段階的に解放されるように設計されていた」


 ミレイが眉をひそめた。「じゃあ誰かが意図的にアキトを守っていた?」


 「可能性はある。でも今は確かめる手段がない」


 カルツが口を挟んだ。「難しいことはあとで考えろ。今日は祝うんだろ?約束しただろうが」


 「そうだった」とミレイが笑顔になった。「五人で盛大にって言ったわね」


 「一番近い街の一番いい宿に泊まって、一番うまいものを食う。それだけだ」


 ブルスが珍しく先に歩き出した。「急ぐぞ。日が暮れる」


 セルが小さく笑いながら続いた。「ブルスさんも楽しみなんですね」


 「……そういうわけではない」


 「顔が楽しそうです」


 ブルスは返事をしなかった。でも歩く速度は速いままだった。


 ◇


 街に着いたのは夜になってからだった。カルツが有言実行で一番大きな宿を探し出し、五人分の部屋を取った。テーブルいっぱいに並んだ料理を前に、カルツが盃を掲げた。


 「じゃあ、乾杯といこう。全部の封印を解いたアキトに」


 「俺だけじゃない。全員で解いた」


 「細かいことはいい。乾杯!」


 「乾杯!」


 陶器のカップが鳴り、五人が笑った。セルはお茶で参加し、ブルスは静かにカップを傾けた。ミレイがアキトの隣で言った。


 「ねえ、これからどうする?」


 「まだ決めてない。でも——」アキトは全員を見回した。「できれば、しばらくはこのまま一緒にいたい」


 ミレイが微笑んだ。カルツが「当然だろ」と言い、セルが嬉しそうに目を細めた。ブルスはカップを置いてから、静かに言った。


 「……俺も、異存はない」


 それで十分だった。封印の旅は終わった。しかし五人の物語は、まだ始まったばかりだ。

 ◇


 深夜、部屋に戻ったアキトはベッドに腰を下ろし、スキルウィンドウをもう一度開いた。


 取得スキルの数を数えると、三十を超えていた。追放された日は、公式にはゼロだった。それが今は——こんなにも。


 スキルウィンドウを閉じ、天井を見上げた。


 封印を作った人物のことが、まだ頭の隅に残っている。誰かが意図を持ってアキトにこれを準備した。保護のために、あるいは別の理由で。いつかその答えが見つかるかもしれない。しかし今夜は考えるのをやめにした。


 窓から夜風が入り、カーテンが揺れた。アキトは目を閉じた。体は疲れていたが、心は不思議と穏やかだった。明日も、明後日も、仲間たちと次の道を歩く。それだけで十分だ。


 ◇


 翌朝、朝食の席でカルツが言った。


 「次はどこへ行く?目的地がないなら、俺に一つ行きたいところがある」


 「どこだ」


 「エルザ大陸の北東に、《魔獣の巣窟》と呼ばれる場所がある。Sランク魔獣が複数生息してると言われてて、冒険者でも滅多に近づかない」


 「腕試しがしたいのか」


 「そういうことだ。封印が全部解けたアキトと一緒なら行けると思ってな」


 ミレイが苦笑いした。「カルツらしいわね」


 セルが控えめに手を挙げた。「私も行ってみたいです。強い魔物を観察できる機会は少ないので」


 ブルスは無言で食事を続けていたが、少し間を置いてから言った。「反対しない」


 アキトは笑った。「じゃあ、次はそこだ」


 封印の旅が終わり、新しい目的地が決まった。


 《∞解放》——スキルに制限はなくなった。しかしアキトが本当に手に入れたのは、スキルではなかった。信頼できる仲間と、進むべき道。それが全ての封印の果てにあったものだった。


 五人の冒険は、まだまだ続く。

 ◇


 街を出る前に、アキトは一人で宿の外に立った。朝の空気は涼しく、遠くに霧峰帯の稜線が見えている。昨日まであの山の中にいたのが、もう遠い昔のように感じた。


 《深層感知》を使い、遠くに意識を向けた。封印の気配はもうどこにもない。五つ全て、確かに解かれた。


 代わりに感じるのは——世界の広さだ。


 行ったことのない土地、知らない魔物、出会っていない人々。追放される前は、そんなことを考える余裕もなかった。今は違う。どこへでも行ける。何にでも挑める。


 「アキト、行くぞ!」


 カルツの声が飛んできた。宿の前に四人が揃って立っている。荷物を背負い、次の旅への準備が整っていた。


 「今行く」


 アキトは空を一度見上げてから、仲間たちのもとへ歩いた。


 五人で、また歩き出す。封印の先に広がる世界へ——。

 青い空の下、五人の足音が道に響いた。次の目的地《魔獣の巣窟》まで、まだ長い道のりがある。でも焦る必要はない。この仲間たちと歩く道ならば、どんな遠さも苦にならなかった。

封印編クライマックス!次の章もどうぞよろしくお願いします!

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