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第41話 東の塩湖へ

四つ目の封印、東の塩湖編スタート。水中という新たな戦場へ。

 フォルクの街に戻ったのは、灼熱の岩壁を攻略した翌日の夕刻だった。


 砂漠を往復した五人の体は疲れ果てていたが、宿の食事と温かい湯で二日ほど休むと、だいぶ回復した。三日目の朝、アキトは地図を広げてテーブルに置いた。


 「四つ目の封印は東の塩湖だ。ここから馬車で三日、その後は徒歩で半日ほどかかる」


 「水の中か……」


 カルツが腕を組んだ。「俺、泳ぎは得意じゃないぞ」


 「普通に泳いで潜れる深さじゃない。塩湖の封印は水面から五十メートル以上下にある。対策が必要だ」


 ミレイが情報を補足した。「この街の錬金術師に聞いたんだけど、塩湖には特殊な性質があって、深くなるほど塩分濃度が上がって水が重くなるらしい。普通の潜水では動けなくなる」


 「じゃあどうするんだ」


 「《水流操作》と《圧力軽減》のスキルがあれば対応できる。アキトが持っているか確認したくて」


 アキトはスキルウィンドウを開いた。取得済みスキルの一覧を流し見る。


 「両方ある」


 「さすがね」とミレイが苦笑いした。「でも水の中での戦闘や封印解除は経験がないでしょう。感覚が陸上と全然違うはずだから、準備をしっかりしたい」


 「同意見だ」


 アキトは頷いた。装備と薬品の調達が必要だ。特に長時間の水中行動のための呼吸確保が最優先になる。


 ◇


 午後、五人で街の商店を回った。


 「水中呼吸の魔道具はありますか」とセルが丁寧に尋ねると、店主は棚の奥から小さなガラス瓶を取り出した。


 「《水中呼吸薬》ですね。一瓶で二時間は水中で呼吸できます。ただしお高い——一本で銀貨十枚です」


 「五人分、四本ずつ用意してください」


 カルツが値段を聞いて顔をしかめた。「銀貨二百枚……痛いな」


 「命には代えられない」とブルスが静かに言った。それで話は終わった。


 薬品の他に、水中での動きを助ける軽量の網状装備と、深水圧に耐えるための錬金加工済みロープも購入した。準備に半日かかったが、必要なものは揃った。


 宿に戻ると、ミレイが地図を再確認しながら言った。


 「塩湖の周辺には水属性の魔物が多いらしい。《塩水鱗魚》という大型の魚型魔物が特に厄介で、群れで行動するそうよ」


 「どのくらいの強さだ」


 「Bランク相当。ただし水中では素早さが増すから、実質的にはA寄りかもしれない」


 「水中でのA相当か……」


 カルツが首をぽきぽきと鳴らした。「まあ、俺たちなら問題ないだろ」


 「楽観しすぎよ」とミレイが眉を上げたが、口元は少し笑っていた。

 ◇


 翌朝、五人は馬車に乗り込んだ。フォルクの東門を出ると、砂漠とは打って変わって緑の草原が広がっている。砂漠を抜けた先にこれほど穏やかな景色があるとは思っていなかった。


 「緑が目に染みるな」


 カルツが馬車の窓から外を眺めながら言った。


 「砂ばかり見ていたからね」とミレイが相槌を打った。


 馬車は街道をゆっくりと東へ進む。御者は無口な老人で、頼んでおいた行き先に向かうだけ黙々と馬を操っていた。


 アキトは揺れる馬車の中で目を閉じ、《全属性感応》を使って周囲の属性の流れを確かめた。草原には風属性と土属性が穏やかに混ざり合っている。水属性はまだ遠い。しかし確かに、東の方角から薄く感じ取れる。


 封印が、呼んでいる気がした。


 「アキト、水の中での封印解除はどうするつもり?」


 隣に座ったセルが小声で聞いた。


 「炎石柱と同じように、両手で直接触れて解除する。水中でも基本は変わらないはずだ」


 「水圧と塩分が影響しないといいんですが」


 「全属性感応で事前に構造を読めば、より素早く対処できる。時間を短くすれば、消耗も減らせる」


 セルは少し考えてからうなずいた。「わかりました。何かあればすぐに声をかけてください」


 「ありがとう」


 馬車の外では、草原に夕日が沈みかけていた。橙色の光が草の穂先を染め、風が波のように揺らしている。砂漠の無機質な美しさとは違う、柔らかな光景だった。


 ◇


 三日間の道中は穏やかだった。途中、小さな街で一泊し、食事と補給を済ませた。四日目の朝、馬車を降りた先に広がったのは——白い平原だった。


 「あれが……塩湖」


 ミレイが息を呑んだ。


 地平線まで続く白い地面。所々に水たまりのような浅い湖が点在しており、その水面は太陽を反射して眩しく光っている。空気に塩の匂いが混じっていた。


 「この先に大きな湖がある。そこが目的地だ」


 アキトは東を指した。白い平原の向こう、薄く霞んだ先に、濃い青の水面が見えていた。封印の気配が、今度ははっきりと感じ取れる。重く、冷たく、深い。


 「行こう」


 五人は白い大地を踏みしめながら、東の塩湖へと歩き出した。

 ◇


 塩湖の岸辺に着いたのは昼過ぎだった。湖の水は透明度が高く、底まで見通せそうなほどだったが、深くなるにつれて青みが増し、やがて暗闇に消えていく。岸の近くには小さな魚が泳いでいたが、それ以上の生き物の気配はない。静かすぎるほど静かだった。


 「《全属性感応》で探ってみる」


 アキトが水面に片手を近づけ、意識を沈めた。水属性の流れが指先から流れ込んでくる。冷たく、塩辛く、重い。そして——深い場所に、明確な封印の気配が宿っていた。


 「五十メートル以上下だ。封印は、ちょうど湖の最深部にある」


 「どんな構造だ」とカルツが聞いた。


 「まだここからでは詳しく読めない。潜ってみないとわからない」


 ブルスが水面を見つめながら言った。「今日は岸で野営して、明朝に潜る。体調を整えてからの方がいい」


 「そうしよう」


 五人は湖岸に陣を張った。日が沈むと、白い塩の大地が月明かりに青白く光り、幻想的な光景が広がった。波の音はなく、ただ静かな風だけが湖面をなでている。


 アキトは焚き火の前で水中呼吸薬の瓶を手のひらに載せ、じっと眺めた。四つ目の封印。ここまで来た。


 「怖いか?」


 ミレイが隣に座りながら聞いた。


 「……少しだけ」


 正直に答えると、ミレイは少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑った。


 「そっちの方が信用できる」


 「霧の湖のときは何も考えてなかった。今は三回分の経験があるから、余計に慎重になる」


 「それは成長ってことよ」


 アキトは薬の瓶を握り直した。明日、潜る。封印を解く。そして、また一つ強くなる。


 静かな湖面の向こうに、四つ目の封印が眠っていた。

 ◇


 夜半、カルツが見張りをしながらアキトに声をかけた。


 「なあ、一個聞いていいか」


 「何だ」


 「全部の封印を解いたら、俺たちはどうなる? パーティとして、続くのか?」


 アキトは少し考えた。


 「それはお前ら次第だ。俺は続けたいと思ってる。でも、封印解除が終われば目的が変わる。それぞれが行きたい方向に行くのが当然だろう」


 カルツはしばらく黙ってから、口の端を上げた。


 「俺はまだしばらくお前についていくつもりだぞ。飽きてないし、ついていく価値がある」


 「……ありがとう」


 「礼はいらん。強くなった俺を見せてやりたいだけだ」


 カルツが笑い、アキトも小さく笑った。


 月が高く昇り、塩湖が銀色に輝いていた。明日の戦いに向けて、アキトは静かに目を閉じた。

次回はいよいよ塩湖の底へ潜ります。応援よろしくお願いします!

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