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第38話 砂漠へ続く道

今回もお読みいただきありがとうございます!

第38話、五人で西街道を進む旅の途中回です。ロイドの過去と、道中の小さな事件が明かされます。

どうぞお楽しみください!

 西街道を進み、三日が過ぎた。


 道は緩やかに乾燥し始め、草原の緑が少しずつ薄くなっていく。

 空の青が濃く、日差しが強い。


「砂漠が近づいている感じがするな」


ブルスが額の汗を拭いながら言った。


「まだ十日以上あります。ただ、気候の変化は早いですね」


「体感温度がエルザと全然違う」


ミレイがうちわ代わりに帽子を扇ぎながら歩く。


「アキト、解熱薬のストックは?」


「昨夜作った分を含め、二十本あります」


「優秀ね」


 ロイドが地図を確認しながら言った。


「二日後にフォルク(ふぉるく)という街がある。そこで砂漠対策の装備を整えよう。砂漠用の布地、遮熱帽、水袋——ラーデンでも買えるが、フォルクの方が値段が安い」


「情報が詳しいですね」


「この街道は七年間、何度も歩いた。遺跡を調べるために」


ロイドが少し遠い目をした。


「砂漠の遺跡は多い。古代文明の痕跡が、砂の下に眠っている。私はその解読に人生のかなりの部分を使ってきた」


カーツが興味深そうに聞いた。


「王宮を辞めてから、ずっと一人で?」


「そうだ。連れがいた時期もあったが……長くは続かなかった」


 その言葉に、少し重みがあった。

 誰も深くは聞かなかった。


   ◇


 昼過ぎ、街道沿いの小さな集落で休憩した。


 井戸の水を汲んで水袋を満たしていると、集落の子どもたちが集まってきた。


「お兄さんたち、冒険者?」


「そうだよ」とカーツが答えた。


「すごい! どこから来たの?」


「エルザ……いや、シルヴァンから」


「どこに行くの?」


「ラーデンを目指してる」


 子どもが目を丸くした。


「砂漠の街!? すごい! 砂竜はいるの?」


「いるらしいね」


「怖くないの?」


 カーツが笑った。


「怖くないわけじゃないけど——こいつがいるから大丈夫だ」


 カーツが俺を指した。


「え、この人が強いの?」


「すごく強い」


「どんくらい?」


 カーツが少し考えて言った。


「山の竜くらいなら、三分で倒す」


「え!!」


 子どもたちがわっと盛り上がった。


ブルスが「三分は言い過ぎだろ」と苦笑した。


「岩竜は実際そのくらいでしたよ」


「……そうだったな」


ミレイが「アキトって自己アピールが下手よね」と笑った。


「必要ないと思ってるので」


 子どもたちに握り飯をもらい、礼を言って集落を出た。


   ◇


 夕方、野営地を設けた。


 焚き火を囲みながら、ロイドが静かに話し始めた。


「七年前、職を追われた時——正直、しばらく何もやる気が出なかった」


カーツが「そりゃそうだ」と言った。


「十五年間やってきた研究を否定されたわけだから。でも——半年ほど経って、ある遺跡で継承者に関する記録を見つけた時、また動けた」


「何が書いてあったんですか?」


ロイドが少し微笑んだ。


「継承者とは、世界が必要とする時に必ず現れる、と書いてあった。その者は一人では完成しない——仲間と旅をすることで、力は真に解放される、と」


 俺はその言葉を、静かに受け取った。


「仲間と旅をすることで」


「そうだ。封印を一人で解いても、力は完全には解放されない、という意味らしい。継承者の力は——側にいる人間の意志と絡み合って、初めて完成するとされている」


ミレイが静かに言った。


「それって……私たちが一緒にいることが、アキトの力に影響してるってこと?」


「理論上はそういうことになる」


ブルスが少し驚いた顔をした。


「俺たちも、封印解放の一部なのか」


「おそらく」


 俺は焚き火の炎を見つめた。


 ——仲間と旅をすることで、力は真に解放される。


 一人で荒野に放り出されたあの夜、俺は何もできなかった。

 でも今は——二つの封印を解いた。


 それは、俺一人の力ではなかった。


「……そうか」


 俺は静かに言った。


「みなさんがいてくれたから、解けたんですね」


カーツが「面映ゆいことを言うな」と笑った。


ブルスが「でも嬉しいな」と言った。


ミレイが「私も」と頷いた。


ロイドが「私は参加したばかりだが」と苦笑した。


「でも——ここにいます」


 俺は五人を見回して、静かに言った。


「ありがとうございます。全員に」


 誰も何も言わなかった。


 でも、焚き火の温かさが、それ以上のことを語っていた。


 夜風が草原を渡り、星空が広がっていた。


 砂漠まで、あと十日。


 第三の封印まで、もう少し。


 五人の旅は、静かに続いていた。


   ◇


 二日後、フォルクの街に到着した。


 山と砂漠の中間に位置するこの街は、砂漠へ向かう旅人の補給地点として知られている。

 装備屋には砂漠仕様の品が豊富に揃い、ロイドの言った通り値段もラーデンより安かった。


「これが砂漠用の遮熱マントか」


カーツが薄い白布のマントを広げた。


「見た目より涼しいですよ。砂漠の熱を反射する特殊な織り方をしている」


「どうして分かるんだ?」


「布の魔力構造を見れば分かります。微細な土属性の粒子が織り込まれている」


カーツが「魔力で布を鑑定できるのか……」と呟いた。


ロイドが「錬金術師の目は、素材の本質を見る」と補足した。


 五人分の遮熱マント、砂漠用水袋、目を保護する布、砂除けの靴カバー——必要な装備を一通り揃えた。


   ◇


 その夜、俺は宿の一室を借り、砂漠用の薬品を作った。


 解熱薬、砂漠熱対策の滋養薬、砂嵐に備えた目薬代わりの洗眼液——三種類を各十本ずつ。


 全属性加速のおかげで、以前より格段に速く精製できた。


 三時間ほどで作業を終え、薬品を並べていると、ミレイが覗き込んできた。


「また夜中に作業してる」


「早めに揃えておきたかったので」


「……ありがとう、アキト。いつも皆のこと考えてくれてるのね」


 ミレイが静かに言った。


「そんな大げさなことじゃないですよ」


「大げさじゃないわよ。あなたがいると、みんな安心して動ける。それって、すごいことよ」


 俺は少し黙った。


「……俺こそ、みなさんがいると安心して集中できます」


ミレイが笑った。


「おあいこね」


「ええ」


 ミレイが部屋を出ていった後、俺は薬品を一つずつ確認しながら思った。


 フォルクを出れば、いよいよ砂漠の入り口だ。


 賢者会議の使者が、後ろから迫っているかもしれない。


 でも——前を向いていれば、それでいい。


 第三の封印が、待っている。


 ランプを吹き消し、俺は目を閉じた。


 フォルクの夜は静かで、遠くから砂漠の風の音がかすかに届いた。


   ◇


 翌朝、フォルクを出発した。


 街を出ると、道はすぐに乾いた赤土に変わった。

 草はまばらになり、地平線に向かって荒野が続いている。


「これが砂漠の入り口か」


ブルスが低く言った。


「まだ入り口手前の荒野です。砂漠本体はここからさらに三日ほど」


「空気が乾いてる。唇がもう痛い」


ミレイが口元を押さえた。


「フォルクで買った保湿軟膏を使ってください。肌の乾燥も予防できます」


「ちゃんと買ってよかったわ」


カーツが空を見上げた。


「雲が少ないな。日差しが遮られない」


「砂漠地帯は雲ができにくい気候です。遮熱マントをしっかり着ていてください」


ロイドが帽子の縁を深く被り直した。


「この感じ……何年ぶりだろう。懐かしいな」


「砂漠に来たことが?」


「何度もある。ここを抜けた先に、私がこれまで見た中で最も複雑な古代遺跡がある。いつか全部解読したいと思っていた」


ロイドが少し遠くを見た。


「今回、同行できて良かった。お前たちと一緒でなければ、一人では踏み込めない場所だ」


「ロイドさんが一緒でなければ、俺たちは場所すら分からなかった。お互い様です」


ロイドが静かに頷いた。


 五人で、荒野を歩き続けた。


 太陽が高く上り、大地が揺らめき始める。


 遠くに、砂漠の稜線がうっすらと見えた。


「見えてきたわ」


ミレイが目を細めた。


「ラーデンまで、あと五日」


カーツが「よし」と頷いた。


ブルスが「暑いが、行くしかないな」と苦笑した。


「行きましょう」


 俺は一歩踏み出した。


 砂漠の熱気が、静かに迫ってくる。


 第三の封印は、その先にある。


 五人の影が、荒野に長く伸びた。

第38話、お読みいただきありがとうございました!

ロイドの過去と、五人の絆が少し深まった回でした。

次回第39話、砂漠の入り口・ラーデンへ!お楽しみに!ブックマーク・評価いただけると励みになります!

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