第37話 ロイドの警告
今回もお読みいただきありがとうございます!
第37話、ロイドがシルヴァンに到着し、賢者会議の動きと衝撃の真実を明かします。
どうぞお楽しみください!
四日後の夕方、ロイドがシルヴァンに到着した。
旅装束に埃をつけたまま、ギルドの入り口で俺たちを見つけると、ほっとした顔をした。
「間に合ったか。急いで来た」
「お疲れ様です。宿を取ってあります。まず休んでから」
「いや、先に話す。時間がない」
ロイドの顔が、いつになく緊張していた。
俺たちはギルドの個室を借り、五人で向き合った。
◇
「賢者会議が動き出した理由を話す」
ロイドが静かに切り出した。
「霧の湖の封印解除——これは、ギルドの記録に残った。続いて霧氷の谷の黒霧消失——これも各地のギルドに報告が上がった。二つの異変が同一人物によるものと特定されたのが、三日前だ」
「特定の方法は?」
「シルヴァンのギルドが、Bランク冒険者・アキトという名前で報告書を提出した。それが王都の情報網に引っかかった」
俺はギルドへの報告書を思い出した。
当然の流れだ、と思った。
「賢者会議は今、何をしようとしていますか?」
ロイドが一呼吸おいた。
「継承者を王都に連れ帰り、直接管理下に置こうとしている」
「管理、というのは?」
「原初の魔法師の力は、解放しきった時に最大となる。賢者会議はその力を——国家の兵器として使おうとしている」
ミレイが息を飲んだ。
ブルスが低く言った。
「つまり、道具にしようということか」
「正確にはそうだ。だが——賢者会議の中にも、派閥がある」
ロイドが続けた。
「穏健派は『継承者と交渉し、協力関係を結ぶ』という立場。強硬派は『強制的に確保し、制御する』という立場だ。今はまだ穏健派が優勢だが、時間が経てば変わるかもしれない」
「どちらが動いてきますか?」
「おそらく最初は穏健派が使者を送ってくる。強硬派が動くのはその後だ」
俺は静かに考えた。
「使者が来るとして、どのくらい時間がありますか?」
「シルヴァンの位置が割れている以上、一週間から十日で到達するかと思う」
カーツが腕を組んだ。
「なら、その前に動けばいい。第三の封印に向かえば、追ってきても振り切れる」
「カーツの言う通りです。ここには長居できません」
ロイドが頷いた。
「同意する。ただ——もう一つ、伝えなければならないことがある」
ロイドの声が、さらに重くなった。
「アキト、勇者パーティーについて知っていることを聞かせてくれるか。レイ・アルドレスのことを」
俺は少し驚いた。
「……以前、一緒にいたことがあります。追放されるまで」
「やはりそうか」
ロイドが目を伏せた。
「実は——賢者会議は、勇者パーティーにも継承者の捕捉を命じている。レイはすでに、継承者探しの任務を受けているはずだ」
静寂。
「……レイが、俺を探している?」
「正確には、賢者会議の命令で、継承者を探している。それがかつての仲間であることを、知っているかどうかは分からない」
ミレイが静かに俺を見た。
ブルスも、何も言わなかった。
カーツが、ゆっくりと口を開いた。
「……つまり、俺たちは今、賢者会議と——勇者パーティー、両方に追われている可能性があると」
「可能性、ではなく、ほぼ確実にそうなる」
ロイドが静かに言った。
俺は窓の外を見た。
シルヴァンの夜が、静かに広がっている。
——レイが、俺を探している。
複雑だった。
恐れているのか、怒っているのか、それとも——
分からない。
「アキト」
ブルスが声をかけた。
「どうする?」
俺は静かに答えた。
「変わりません。第三の封印に向かいます」
「賢者会議も、勇者パーティーも関係なく?」
「ええ。追われているなら——それより速く動けばいい」
カーツがにっと笑った。
「俺の速さが、いよいよ必要になってきたな」
ミレイが苦笑した。
「状況が状況でも、笑えるのが凄いわよ、カーツ」
「冒険者はそれくらいでないと長生きできない」
ロイドが四人を見回し、静かに言った。
「……強い仲間を持ったな、アキト」
「はい」
俺は素直に頷いた。
「だから——どこにでも行けます」
五人で、短く笑った。
翌朝、シルヴァンを発つ。
西へ——第三の封印へ。
追手よりも、速く。
◇
その夜、ロイドを宿に送り出した後、俺は一人で宿の屋上に上がった。
星空が、広かった。
——レイが、俺を探している。
賢者会議の命令だとしても、レイが動いているということは、いつかまた顔を合わせることになる。
その時、俺はどうするのか。
怒りはない。
恨みも、もうない。
ただ——追放した相手と正面から向き合う、その覚悟が自分にあるのか、俺はまだ確信が持てなかった。
「ここにいたか」
足音がして、カーツが屋上に上がってきた。
「一人で考え込む時間か?」
「少し」
カーツが隣に立ち、星空を仰いだ。
「レイ・アルドレスのことか」
「……ええ」
「お前を追放した奴だな」
「はい。勇者パーティーのリーダーです」
カーツが少し間を置いた。
「会いたくないか?」
「……分かりません。怖いというより——どんな顔をして向き合えばいいか、まだ答えが出ない」
「そりゃそうだ。簡単に答えが出たら、お前の感情がおかしい」
カーツが静かに言った。
「でも一つだけ言う。その時は、一人じゃないぞ」
「……分かっています」
「分かってるだけじゃなく、実感しろ。俺たちがそこにいる」
カーツの言葉が、胸に落ちた。
「……ありがとう」
「礼はいい。さあ、寝ろ。明日は早い」
カーツが先に屋上を下りていく。
俺はもう少しだけ星を見た。
レイと、いつか向き合う日が来る。
その時——俺は今とは比べものにならないくらい強くなっているはずだ。
だから——恐れなくていい。
全部の封印を解いて、力を取り戻してから。
その時に初めて、正面から向き合えばいい。
俺は深く息を吸い、屋上を下りた。
◇
翌朝、五人でシルヴァンを出発した。
ロイドも同行することになった。
「一人で調べ回るより、あなたたちと動いた方が情報が早い。足手まといにはならない」
「ロイドさんの情報と知識は頼りになります。ぜひ」
ブルスが「五人になったな」と言った。
「賑やかになりましたね」
ミレイが笑う。
「旅は人数が多い方が楽しいわ」
カーツが「俺はいつでも歓迎だ」と言った。
ロイドが少し戸惑った顔をしながら、それでも口元を緩めた。
「……長いこと一人で動いていたが、こういうのも悪くないかもしれんな」
五人で、西の街道を歩き始めた。
シルヴァンの街が遠ざかっていく。
前方には、まだ見ぬ砂漠の地が待っている。
賢者会議が追ってくるまでに、第三の封印を解く。
それが、今の俺たちの目標だ。
朝日が五人の背中を照らし、西への道が遠く続いていた。
◇
歩きながら、ロイドが地図を広げた。
「砂漠都市ラーデンまでは、シルヴァンから西街道を真っすぐ進んで約十五日の行程だ。途中に二つの街がある」
「ラーデン自体は大きな街ですか?」
ミレイが聞いた。
「砂漠交易の要所だ。砂漠を渡る商人が必ず立ち寄る。人口はエルザの三倍はある」
「大きいわね」
「冒険者ギルドも規模が大きい。ただし、砂漠特有の魔物に対応した装備が必要になる。この街道沿いで準備を整えた方がいい」
「砂漠特有の魔物、というと?」
ロイドが地図を指した。
「砂竜、熱砂蟲、灼熱ゴーレム……いずれも高熱環境に特化した魔物だ。通常の氷魔法や水魔法は蒸発するか効果が半減する」
「属性対策が必要ですね」
「ミレイさんの主属性は氷と水ですね」と俺が確認すると、ミレイが頷いた。
「そうよ。砂漠だと不利になるのね……」
「土属性と風属性の補助術も練習しておくといいかもしれません。砂漠では砂嵐を利用する戦術が使えます」
「なるほど……」
カーツが「俺は剣士だから属性は関係ないが、熱中症対策が必要だな」と言った。
「解熱薬と水分補給剤を多めに作っておきます。ラーデンに着く前に、素材を調達しながら進みましょう」
ロイドが感心した様子で言った。
「準備が細かいな。さすが錬金術師だ」
「動いてから慌てるより、動く前に整える方が効率的です」
ブルスが「お前は本当にそういう人間だよな」と笑った。
「褒め言葉として受け取ります」
五人で笑いながら、西の街道を進んだ。
追手より速く。
封印より確実に。
旅は、また新たな段階に入った。
第37話、お読みいただきありがとうございました!
賢者会議の目的とアキトの過去に衝撃の繋がりが……!
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