第32話 シルヴァンの街
今回もお読みいただきありがとうございます!
第32話、いよいよシルヴァンに到着です。竜蛇の情報を集める中で、予想外の人物との再会が待っていました……!
どうぞお楽しみください!
エルザを出て八日目、シルヴァンの街が見えてきた。
竜骨山脈の南麓に位置する交易の街で、人口はエルザの倍ほどある。
山脈からの鉱石と木材を扱う商人が多く、冒険者ギルドも大きいと聞いていた。
「大きい街ね」
ミレイが目を輝かせながら言う。
「エルザより活気がある。露店も多い」
ブルスが周囲を見回した。
「山の街って感じだな。空気が違う」
確かに、エルザより気温が低く、空気が澄んでいた。
北風に乗って、かすかに山の匂いがする。
「まずギルドに顔を出して、依頼の確認と情報収集です。宿はその後に」
「了解」
三人でシルヴァンの目抜き通りを歩いた。
◇
ギルドは街の中心部にあり、建物はエルザの倍以上の広さだった。
掲示板には依頼票が所狭しと並んでいる。
受付に向かうと、担当の若い男性が対応してくれた。
「エルザからの広域依頼で来ました。竜蛇の群れ討伐です」
「ありがとうございます! お待ちしていました。三名様ですね」
男性が手際よく書類を用意した。
「竜蛇の群れは現在、山脈南麓の街道を三か所で塞いでいます。一週間前から確認されていて、被害が出始めています」
「規模と種類は?」
「一か所あたり五〜八体。山竜蛇と呼ばれる種類で、体長二〜三メートル、毒を持ちます。単体ではBランク下位相当ですが、群れで行動するため厄介です」
「毒の種類は?」
「神経毒です。即死ではありませんが、痺れが二〜三日続きます」
「解毒薬の備蓄はありますか?」
「ギルドに二十本あります。ご持参の場合は追加報酬を出せますが……」
「俺が作れます。素材を分けてもらえれば、追加で作っておきます」
担当者が少し驚いた顔をした。
「錬金術師の方でしたか。それは助かります。素材はギルドで手配できます」
「では出発前日に受け取りに来ます」
「よろしくお願いします」
書類を受け取り、宿の紹介もしてもらった。
◇
ギルドを出て、紹介された宿に向かおうとした時——
「アキト?」
聞き覚えのある声が、後ろから飛んできた。
俺は足を止めた。
振り返ると、そこに立っていたのは——
「……カーツさん」
Bランク昇格試験で同席した、赤毛の冒険者だった。
カーツが少し驚いた顔で近づいてきた。
「やっぱりアキトか! こんなところで会うとは。お前ら、シルヴァンに何の用で?」
「竜蛇の討伐依頼です。エルザから広域依頼を受けて」
「あー、あの依頼か! 俺も同じだ。受けたのはいいが、一人じゃきつくて情報収集中でな」
カーツが三人を見回した。
「よかったら、一緒に動かないか? 俺一人より三人のパーティーと組んだ方が確実だ」
ブルスがカーツを見た。
「昇格試験ぶりだな」
「ああ。俺はBランクに上がってすぐ、移動依頼でこの辺りに来ることになって。エルザには結局戻れなかった」
ミレイが少し嬉しそうに言った。
「カーツさんも合格したのよね? よかった」
「おかげさまで。あの時は俺、お前らの連携見てかなり刺激になったぞ」
俺はカーツを見た。
試験の時から感じていたが、実直で信頼できそうな人物だ。
腕も、ソロでBランク依頼を受ける程度には確かなはず。
「合流しましょう。情報を共有しながら動いた方がいい」
「助かる!」
カーツが笑顔になった。
◇
その夜、四人で食堂に集まり、情報を整理した。
カーツが地図を広げる。
「竜蛇の出没地点は三か所。北街道の入り口、東の採掘場へのルート、そして南の牧草地帯」
「一番数が多いのは?」
「北街道だ。ここだけで八体いるという目撃情報がある。しかも最近、行動が活発化していて……」
カーツが少し声を落とした。
「二日前から、北街道の奥から黒い霧が流れてきているという報告もある」
俺は静かに頷いた。
「その霧——実は旅の途中でも遭遇しました。魔力を吸収する現象です」
「対処できるのか?」
「できます。ただ、竜骨山脈から発生しているとしたら、源を断たないと根本的な解決にならない」
カーツが少し複雑な顔をした。
「源、というのは?」
俺はどこまで話すか少し考えてから、必要な部分だけ答えた。
「山脈の奥に、魔力の異常収束点があると思われます。そこが安定すれば、霧は消えるはずです」
「……お前、竜蛇の討伐だけじゃなく、その収束点まで向かうつもりか?」
「そのつもりです」
カーツがしばらく黙って、それから静かに言った。
「……俺も連れていってくれるか」
「危険が増すかもしれません」
「それでも。なんとなく、お前についていったら面白いことが起きる気がする」
ブルスが苦笑した。
「俺もそれで仲間になったんだよなあ」
ミレイが笑う。
「アキトは人を引き寄せる才能があるのよ」
俺は少し照れながら、カーツに言った。
「……よろしくお願いします、カーツさん」
「こちらこそ!」
四人になった。
竜骨山脈への旅が、一人分厚くなった。
◇
宿に引き上げた後、ブルスが俺に話しかけた。
「カーツ、信頼できそうか?」
「昇格試験の時の動きを見た限り、前衛としての腕は確かです。性格も正直な人だと思います」
「四人で動くのは初めてだな」
「ええ。ただ、竜骨山脈の奥は未知の領域が多い。人数が多い方が安全です」
ブルスが頷いた。
「分かった。俺はカーツと前衛を組む。お前とミレイは後方支援で」
「その方が安定しますね」
ミレイが地図を眺めながら言った。
「竜蛇の三か所、どこから先に片付ける?」
「南の牧草地帯から順番に。北街道は最後に、その後山脈奥へ進む段取りで」
「規模が小さい方から慣らしていくわけね」
「カーツさんとの連携を確認する意味もあります」
ミレイが「なるほど」と頷いた。
「相変わらず段取りがいいわね、アキトは」
「準備しておかないと、いざという時に動けないので」
ブルスが苦笑した。
「俺にはその細かさが真似できない」
「ブルスさんは前衛で全部吸収してくれるので、そっちの方が難しいですよ」
「……そう言われると悪くない気分だな」
三人で少し笑った。
◇
その夜、俺は一人で宿の窓から山脈を眺めた。
暗闇の中に、竜骨山脈のシルエットが黒く浮かんでいる。
空気の冷たさが増していた。
魔力感知を静かに広げてみると——山脈の奥から、微かな引力のようなものを感じた。
第一の封印を解いた時とは違う。
もっと強く、もっと切迫した感覚だ。
——来い、と言っている気がした。
俺は手のひらを見た。
全属性同調のスキルが、かすかに光っている。
封印が近い。
急いではいけない。
でも、迷ってもいけない。
竜蛇を片付けて、山脈へ踏み込む。
そこに、何が待っていても——
俺は静かに息を吐いた。
四人で、立ち向かう。
それだけだ。
山脈の稜線が、星空に黒く刻まれていた。
夜が深まるにつれ、遠くで風の音がした。
まるで山脈が、こちらを呼んでいるように。
俺はランプを吹き消し、静かに目を閉じた。
明日から、始まる。
第32話、お読みいただきありがとうございました!
まさかの再会——次回第33話で、その関係がさらに動きます!お楽しみに!
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