第28話 全属性魔道具
今回もお読みいただきありがとうございます!
第28話、全属性同調スキルを活かした魔道具製作に挑みます。ゼナ師匠も驚く結果が出て、またエルザに新たな来訪者が……!
どうぞお楽しみください!
翌朝、ゼナの工房で授業が始まった。
「今日は全属性同調を実際の錬金術に応用してみよう」
ゼナが作業台に素材を並べる。
「魔道具の核——通常は単一属性の魔力を封じ込めて作る。だが全属性同調があれば、五属性を一つの核に封じ込めた『全属性魔道具』が作れるかもしれない」
「理論上は可能なんですか?」
「理論上は、ね。ただ今まで実現した者がいないから、『理論上』のままだ」
俺は素材を手に取った。
魔道具の核に使う魔晶石——白く半透明な鉱石で、魔力を蓄積する性質を持つ。
「通常の手順で作業して、最後に封じ込める魔力だけ全属性で行ってみます」
「どうぞ」
ゼナが腕を組んで見守る中、俺は作業を始めた。
まず魔晶石を精製炉で適温に加熱し、内部の不純物を取り除く。
次に触媒を加え、魔力を受け入れやすい状態に整える。
ここまでは通常の手順と変わらない。
問題は次だ。
俺は精製した魔晶石を手のひらに乗せ、全属性同調を起動した。
五つの流れが、静かに一体化する。
炎の熱、水の流動性、土の安定性、風の循環、雷の活性——すべてが均等に、魔晶石の中へ流れ込む。
魔晶石が、じわりと光り始めた。
単一属性の時は一色に輝く。
しかし今は——五色が混ざり合い、白に近い虹色の光を放っていた。
「……」
ゼナが息を飲んだ。
十分後、核が完成した。
俺は台に置き、一歩引いた。
ゼナが鑑定石を近づける。
「……五属性格納、均衡率九十八パーセント」
ゼナの声が、微かに震えた。
「通常の単一属性魔道具と比較した場合の出力は?」
ゼナが計算式を走らせ、しばらく無言になった。
「……理論値で、単一属性の約八倍」
「八倍、ですか」
「八倍だ。一つの魔道具で、どの属性の魔法も強化できる。しかも効率が八倍……これは」
ゼナが魔道具の核を光にかざした。
「……アキト、これが普及したら、世界の魔道具産業が根底から変わる」
俺は少し考えた。
「量産はできないので、急にそうはならないと思いますが」
「お前が作れるなら、技術として確立できる。弟子をとって伝えることもできる」
「……それは、もう少し先の話にしてください」
ゼナが苦笑した。
「急かしてるわけじゃない。ただ——お前が持っている力は、個人の強さを超えて、世界に影響を与え得ると言いたかった」
俺は静かに、その言葉を受け取った。
◇
昼過ぎ、ギルドに顔を出すと、受付のエリカさんが俺を呼び止めた。
「アキトさん、昨日から探しておりました。お客様がいらしています」
「客、ですか?」
「はい。名前は名乗らないのですが……アキトさんに個人的に会いたいと」
ブルスとミレイが俺を見る。
「心当たりは?」とミレイ。
「……ありません」
案内されたのは、ギルドの個室だった。
扉を開くと、中に一人の人物が座っていた。
旅装束、フードを深く被った中年の男。
だが、所作に品がある。ただの旅人ではない。
「アキトさんですか」
低く、落ち着いた声だった。
「そうですが。どちら様ですか?」
男がフードを下ろした。
四十代半ば、白髪交じりの黒髪に、鋭い眼光。
何かを長く背負ってきた人間の目をしていた。
「私はロイド・ヴェイン。かつて王宮付きの魔法研究者でした」
「かつて、というのは?」
「……七年前に職を辞し、今は野の研究者です。各地の古代遺跡を調べて回っている」
俺はその名前に聞き覚えがなかった。
だが、古代遺跡という言葉に、胸が反応した。
「それで、俺に何か?」
ロイドが静かに言った。
「霧の湖の封印が解かれた、という話を聞きました。解いたのはあなたですか?」
俺は答える前に、相手の目を見た。
敵意はない。ただ、真剣な眼差しがある。
「……そうです」
「では、あなたは——原初の魔法師の継承者ですか」
ロイドの声は落ち着いていたが、その言葉には確かな重みがあった。
俺は静かに、しかしはっきりと答えた。
「……おそらく、そうだと思っています」
ロイドがゆっくりと息を吐き、頷いた。
「ようやく、見つけました。あなたに、話さなければならないことがあります」
◇
「話さなければならないこと——とは?」
俺は椅子を引いて座った。
ロイドが静かに切り出した。
「まず、自己紹介を補足します。私はかつて、王宮で原初の魔法師に関する研究をしていました。七年前、研究結果が危険思想と判断されて職を追われました」
「危険思想?」
「原初の魔法師の継承者が現れた場合、その力は既存の秩序——国家、王族、軍隊——をすべて無意味にしてしまうかもしれない、と私は論文で主張した。それが問題視されました」
俺は少し考えた。
「つまり、継承者の存在が、権力者には都合が悪い」
「正確です。だから——あなたは気をつけなければならない」
ロイドの目が、真剣になった。
「王都では、継承者探しが密かに行われています。見つかり次第、身柄を確保するか、あるいは——」
「消す、ということですか」
ロイドが静かに頷いた。
「霧の湖の封印解除の情報は、すでに各地のギルドを通じて広まっています。私が三日でここに辿り着けたということは、王都の情報網なら一週間以内に動いてくる可能性がある」
俺は冷静に、その情報を整理した。
勇者パーティー。王命による調査。
そして今度は、王都の情報網。
俺の周囲が、少しずつ動いている。
「……教えてくれてありがとうございます。警戒します」
「それだけですか? 慌てないのか」
「慌てても仕方ありません。動くべき時に、正しく動けばいい」
ロイドがしばらく俺を眺め、ふっと息を吐いた。
「……なるほど。ゼナ殿が弟子にとるわけだ」
「ゼナさんをご存知なんですか?」
「研究者の間では有名人ですよ。元Aランク錬金術師で、古代遺物の鑑定眼は右に出るものがない。そのゼナ殿が弟子を取ったと聞いて、確信しました」
ロイドが立ち上がった。
「私はしばらくエルザに滞在します。残りの封印地点についての情報を持っています。必要な時に、また来ます」
「……分かりました」
「一つだけ伝えておく。次の封印は——北にあります。王都のさらに北、竜骨山脈の奥地に」
俺は静かに、その言葉を刻んだ。
◇
ロイドが去った後、ブルスとミレイが飛び込んできた。
「何だったの!?」
ミレイが身を乗り出す。
「元王宮研究者です。継承者の存在が王都に知られる可能性があると、警告しに来ました」
ブルスが眉を寄せた。
「……王都が動いてくる、ってことか」
「一週間以内には、情報が届くかもしれないと」
ミレイが腕を組んだ。
「どうする? エルザを離れる?」
俺は少し考えてから、首を振った。
「まだ逃げる必要はないと思います。来たとして、相手がどう動くかを見てから判断する」
「逃げないのか」
「逃げ回っても、いずれ追いつかれます。それより——実力をつけて、正面から立てるようにしておく方が得策です」
ブルスが静かに頷いた。
「そうだな。逃げるより、構えていた方がいい」
「ミレイさんは?」
ミレイが少し考えてから、にっと笑った。
「私はアキトと一緒にいる。それだけよ」
短い言葉だったが、確かな重みがあった。
俺は静かに頷いた。
「ありがとう。二人とも」
窓の外、エルザの空は穏やかだった。
だが——水面下で、何かが動き始めている。
俺はそれを感じながら、静かに立ち上がった。
次の一手を、考えなければならない。
第28話、お読みいただきありがとうございました!
全属性魔道具の完成、そして謎の来訪者——次回第29話もお楽しみに!
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