表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/41

第27話 ゼナの過去

今回もお読みいただきありがとうございます!

第27話はエルザへの帰還と、ゼナ師匠の秘められた過去が明かされます。師弟の絆がさらに深まる、じんわりとした回です。

どうぞお楽しみください!

 エルザに戻ったのは、出発から五日後の夕方だった。


 ギルドに報告書と証拠品を提出すると、担当者が何度も首を傾けた。


「……古代の封印装置を、解除。依頼内容は魔力の揺らぎの原因調査でしたが、この結果は想定外です」

「霧の原因は封印の副作用でした。解除することで、湖は正常な状態に戻っています」

「古代遺物の鑑定が必要ですね。鑑定士を呼びますので、少々お待ちください」


 鑑定士が水晶球の欠片を調べると、目を丸くした。


「これは……二千年以上前の魔法陣の残骸です。現代の技術では作れないものです」

「解除には問題ありませんでしたか?」

「逆に聞きたいくらいです。どうやって解除されたんですか?」


 俺は静かに答えた。


「五属性の同時制御で、封印構造を外側から弛緩させました」


 鑑定士がしばらく絶句した。


「……五属性同時制御は、理論上可能とされていますが、実証した人物は記録にありません」

「そうなんですか」

「……お名前を伺っていいですか?」

「アキト、Bランクです」


 鑑定士が丁寧にメモを取った。


   ◇


 報告を終え、三人でギルドを出ると、ブルスが言った。


「また記録を作ったな」

「そのつもりはなかったんですが」

「でもまあ……いい仕事だった。湖がきれいになって、誰かが喜ぶ。それで十分だ」


 ミレイが空を見上げた。


「次の封印がどこかにあるとしたら、いつか行く?」

「……気になっているのは確かです。でも、焦ることはないと思っています」

「なんで?」


 俺はしばらく考えてから言った。


「封印が俺を必要としているなら、向こうから引き寄せられる気がして。焦って探し回るより、今できることを続けていれば、自然と次が見つかると思います」


 ミレイが少し驚いた顔をした。


「……それ、すごく冷静な考え方ね」

「追放されて以来、焦っても仕方ないと学びました」


 ブルスが「そうだな」と静かに頷いた。


   ◇


 翌日、ゼナの工房に報告に行くと、ゼナはすでに結果を察していたように見えた。


「顔を見れば分かる。うまくいったね」

「はい。全属性同調のスキルが解放されました」


 ゼナが俺の目を見て、小さく息を吐いた。


「そうか。ついに始まったね」

「始まった、というのは?」


 ゼナが作業台に背を預けた。


「アキト、私が十五年前に調べた遺跡の話をしたことを覚えているか?」

「原初の魔法師の記録があった場所ですね」

「その遺跡に、もう一つ記述があった。『継承者は、世界に散る封印を解くたびに新たな力を解放し、やがて全ての力が揃った時——原初の魔法師と同等の存在となる』」


 俺は黙って聞いた。


「つまり、霧の湖は最初の封印に過ぎない。まだ先がある」

「……いくつあるんですか?」

「遺跡の記録によれば——五つだ。五属性に対応する、五か所の封印地点」


 五つ。


 今回で一つ。残り四つ。


「ゼナさんは、なぜそれを最初から教えてくれなかったんですか?」


 俺は責めるつもりはなく、ただ疑問として聞いた。


 ゼナがしばらく黙った。


「……怖かったんだよ」


 静かな声だった。


「昔の弟子の話をしたね。折れてしまった子の話を」

「はい」

「あの子は優秀だった。でも、大きすぎる運命を示してしまったせいで、重さに耐えられなくなった。だから、お前にはまず自分の足で立つ力をつけてほしかった。運命を知る前に」


 俺はゼナの目を見た。


 静かな眼差しの中に、後悔と、それ以上の何か——慈しみの色があった。


「……今、話してくれたのは?」

「お前はもう、十分に立っているから」


 短い言葉だった。

 でも、重かった。


 俺はゆっくりと頭を下げた。


「ありがとうございます、ゼナさん」


 ゼナが鼻を鳴らして、炉に向かった。


「礼はいらない。さあ、授業の続きをするよ。今日は魔道具の核に全属性同調を応用する実験だ」

「はい」


 俺は炉の前に立った。


 五つの封印。残り四つ。


 その重さを、俺はゆっくりと受け取った。


 でも——重くはなかった。


 ゼナがいる。ブルスがいる。ミレイがいる。


 一人じゃないから、どんな重さも運べる。


 炉の炎が、静かに揺れた。


   ◇


 その夜、三人で食堂に集まった。


 俺がゼナから聞いた話——五つの封印、原初の魔法師との同等の力——を、ブルスとミレイに打ち明けた。


 話し終えると、しばらく沈黙があった。


 最初に口を開いたのはミレイだった。


「……原初の魔法師と同等の力、か。それって、この世界で最強レベルってこと?」

「そうなる可能性があります。ただ、今はまだ五分の一しか解放されていないので」


「残り四つの封印は、どこにあるの?」

「まだ分かりません。おそらく、世界の各地に散在しているはずです」


 ブルスが腕を組んだ。


「その封印を全部解くのが、お前の目標になるのか?」


 俺は少し考えてから答えた。


「目標というより……向き合うべきことだと思っています。逃げるつもりはないし、でも急ぐつもりもない」

「何で急がない?」

「今の自分には、まだやることがある。ゼナさんのもとで学ぶこと。三人でBランクとして実績を積むこと。それが後回しになるような焦り方はしたくない」


 ブルスがふっと息を吐いた。


「……落ち着いてるな、お前は」

「追放されてから、ずっとそう心がけています。焦った時ほど、見えなくなるものがあると学んだので」


 ミレイが静かに言った。


「ねえ、アキト。一つ聞いていい?」

「何でしょう」

「その封印を全部解いた後、あなたはどうなるの? 原初の魔法師と同等の力を持ったとして——何がしたい?」


 俺は少し驚いた。


 これは誰にも聞かれたことがなかった。


 俺はしばらく、真剣に考えた。


「……分かりません。正直なところ」

「分からない?」

「今は、目の前のことを一つずつやっていくことだけ考えています。その先が何になるか——今の俺には、まだ見えない」


 ミレイが少し笑った。


「それが、らしいわね」

「そうですか?」

「先のことより今のこと、って感じ。アキトってそういう人だもの」


 ブルスがエールをあおった。


「俺はついていくだけだ。お前がどこへ向かっても、そこに面白いことがありそうだからな」


 俺は少し笑った。


「ありがとう、二人とも」


 ミレイが頬杖をついた。


「ま、五つ全部解いた時のことは、その時に考えましょ。今日は帰還祝いよ」


「乾杯!」とブルスが声を上げた。


 三つのカップが鳴った。


 食堂の喧噪の中、三人の笑い声が混じる。


 封印が一つ解けた。

 力が一段広がった。

 でも今夜は、ただそれを祝うだけでいい。


 俺は静かにカップを傾け、エルザの夜を味わった。


   ◇


 宿に戻った後、俺は布団に入りながら今日一日を振り返った。


 ゼナの言葉が、耳に残っていた。


 ——お前はもう、十分に立っているから。


 追放された日、俺は何も持っていなかった。

 名誉も、仲間も、居場所も。


 でも今は——ゼナがいる。ブルスがいる。ミレイがいる。

 工房があって、スキルがあって、依頼がある。


 一か月足らずで、こんなに変わった。


 人は、環境と自分の行動で変わる。

 俺がそれを証明できている気がした。


 五つの封印のうち、一つが解けた。


 残り四つは、どこにある?


 その問いを胸に抱えながら、俺は静かに目を閉じた。


 答えは、歩いていれば見つかる。


 そう信じながら、眠りについた。


 エルザの夜が、穏やかに更けていった。

第27話、お読みいただきありがとうございました!

ゼナ師匠のあの言葉、心に刺さりましたね。

次回第28話もお楽しみに!ブックマーク・評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ