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第26話 封印解放

今回もお読みいただきありがとうございます!

第26話、いよいよ霧の湖の封印解放です。アキトの力の真髄が、ついに一段階解き放たれます。

盛り上がる場面ですので、ぜひお楽しみください!

 三日後の夜明け前、三人は再び霧の湖へ向けて出発した。


 今回は馬ではなく徒歩だ。

 湖の近くに馬を繋いでおける場所が少なく、いざという時に身軽に動けるよう準備した。


 道中、ミレイが珍しく口数が少なかった。


「どうしましたか?」

「……緊張してる、少し」

「珍しいですね」

「珍しくないわよ。封印解放なんて、普通の冒険者が一生経験しないことよ」


 ブルスが苦笑する。


「確かに。俺も今朝、ちゃんと飯食えたか不安だったくらいだ」

「ブルスさん、しっかりおかわりしてましたよ」

「……緊張してても腹は減るんだよ!」


 ミレイが吹き出した。

 俺も、思わず笑った。


 いつも通りだ。

 この三人でいれば、どんな前夜でもこうなる。


   ◇


 昼過ぎ、霧の湖に到着した。


 三日前と同じく、白い霧が湖面を覆っている。

 ただ——近づくにつれ、霧が前より濃くなっている気がした。


「……霧、強くなってる」


 ミレイが呟く。


「俺たちが訪れたことで、何かが反応したのかもしれません」

「歓迎されてるのか? 脅されてるのか?」

「どちらでもないと思います。ただ——目が覚めかけている」


 三人で北岸の祠に向かった。


 祠の扉の残骸をくぐると、台座の水晶球が三日前より明らかに強く光っていた。

 白い光が、脈打つように明滅している。


「……生きてるみたいね」


 ミレイが静かに言った。


「ブルスさん、ミレイさん。俺が封印に触れる間、外の様子を見ていてください。何かが起きた時、すぐに動けるように」

「分かった」「任せて」


 二人が祠の出口に向かう。


 俺は台座の前に立った。


 水晶球が、俺を感じているように揺れた。


   ◇


 俺は深く息を吸い、両手を水晶球にかざした。


 魔力感知を最大まで広げる。


 水晶球の内部に、五属性の魔力が精緻に編み込まれているのが見えた。

 炎、水、土、風、雷——それぞれが絡み合い、互いを封じ合っている。


「……なるほど」


 これは単純な封印ではない。

 五属性が互いに支え合う構造になっている。一つを外せば、他の四つが崩れる。


 解くためには——五属性を同時に、等しい力で緩めていく必要がある。


 通常の魔法使いには不可能だ。

 単一属性しか扱えなければ、同時解除などできない。


 でも——俺には、∞がある。


 俺は指先に五属性の魔力を同時に呼び出した。


 炎。水。土。風。雷。


 五つの流れが、俺の中で同時に動き出す。


 かつてなら——こんなことができるとは思っていなかった。

 だが今は、自然にできる。まるで最初から知っていたように。


 俺はその五つの流れを、水晶球の封印構造に沿わせた。


 絡み合う魔力の糸を、一本ずつほどくのではなく——全体をゆっくりと、外側から弛緩させていく。


 まるで、固く結ばれた縄を火であぶって柔らかくするように。


 一分。二分。三分。


 水晶球の光が、段々と柔らかくなっていった。


 そして——


 《《ぱきん》》、と小さな音がした。


 封印が、解けた。


   ◇


 瞬間、水晶球から白い光が溢れ出した。


 光は天井を突き抜け、祠の外へ広がっていく。


 湖面の霧が一斉に晴れた。


 外からブルスの声がした。


「アキト! 湖が光ってる!」


 俺は水晶球を見た。

 光はすでに収まり、球体の内側には——何もなかった。


 空だ。


 では、力はどこへ——


 その瞬間、俺の胸の奥で何かが弾けた。


 熱くも冷たくもない、不思議な感覚が全身を走った。


 目を閉じると、暗闇の中に文字が浮かんだ。


  [#大きな文字]∞ → 解放済:全属性同調ぜんぞくせいどうちょう[#大きな文字終わり]


 ——全属性同調。


 五属性の魔力を同時かつ完全に同一の流れで扱う能力。

 これまで無意識にやっていたことが、正式に「スキル」として確立された感覚だ。


 目を開けると、世界の見え方が少し変わっていた。


 周囲の魔力の流れが、霧が晴れたように鮮明に見える。


「アキト!」


 ミレイが飛び込んできた。


「大丈夫? 光がすごかったわよ!」

「……大丈夫です。封印、解けました」


 ブルスも入ってきた。


「どうなった?」


 俺は静かに言った。


「新しいスキルが、解放されました」


 二人が顔を見合わせる。


「どんな?」

「……全属性同調。五つの魔力を、完全に一つとして扱えるようになりました」


 沈黙。


「……つまり」とミレイ。「今まで以上に、強くなったってこと?」

「はい」


 ブルスがため息をついた。


「……なあアキト。お前、もうBランクで収まらないんじゃないか?」


 俺は少し考えてから、静かに笑った。


「でも今日は、Bランクの依頼を無事完了しました」


 ミレイが吹き出した。


「それは確かに!」


 三人の笑い声が、霧の晴れた湖岸に響いた。


 湖面は今、穏やかに静まり返り、空を映して碧く輝いていた。


   ◇


 帰路、三人は晴れ渡った湖岸を歩いた。


 霧が完全に消えた湖は、想像より広く、美しかった。

 水面に山の稜線が映り込み、風が吹くたびに水紋が広がっていく。


「きれいな湖ね。霧に覆われてたのが嘘みたい」


 ミレイが感嘆する。


「封印が解けたことで、魔力の循環が正常に戻ったのだと思います。霧は封印の副作用だったのかもしれない」

「じゃあ、封印を解いたことで湖も元に戻ったわけね。一石二鳥だわ」


 ブルスが湖面を眺めながら言った。


「ギルドへの報告、どう書くんだ? 『封印を解いて湖の霧が消えました』って」

「そうなりますね。魔力の発生源は古代の封印装置で、調査と解除を行ったと」

「……信じてもらえるかな」

「現地の証拠を持ち帰ります。台座の紋様の写しと、水晶球の残骸を」


 割れた水晶球の欠片を、俺は布に包んで持っていた。

 鑑定に出せば、古代の遺物と分かるはずだ。


   ◇


 エルザへの帰路は二日。

 宿場町で一泊した夜、俺は一人で外に出た。


 星空の下、解放されたスキルの感覚を確かめた。


 全属性同調。


 五属性の魔力を同時に動かす。

 その感覚が、今は以前と全然違う。


 以前は意識して制御していた。

 今は——まるで呼吸するように、五つの流れが同時に動く。


 俺は右手を上げ、五属性を同時に解放した。


 炎の粒子が空気に漂い、水の膜がそれを包み、土の粒子が核となり、風がすべてを押し上げ、雷がその中心に走る。


 指先に、小さな光の球が生まれた。


 五属性が一体となった、純粋な魔力の結晶。


 術式を組んだわけではない。

 ただ、力を解放しただけ。


「……すごい」


 思わず呟いた。


 光の球は静かに宙に浮き、十秒ほどで霧散した。


 俺は手を下ろした。


 ——まだ、これが何に使えるか分からない。


 でも、確かな力がそこにある。


 封印は解けた。力が解放された。

 次の封印が、どこかに存在するとしたら——


 岩竜の根城の紋様。霧の湖の祠。

 世界の各地に散らばる魔力収束点。


 ミレイが言っていた。魔力収束点は複数存在すると。


 ということは——封印は、まだあるのか?


 答えは出ない。


 でも俺は、焦らない。


 一つずつ、前へ進む。それだけだ。


 夜風が頬をなでた。

 星が静かに輝いている。


 明日、エルザへ帰ろう。


 ゼナに報告して、三人でまた次の一歩を踏み出す。


 俺は空を見上げ、静かに息を吐いた。


 ∞の力は、まだその扉を開きはじめたばかりだった。

第26話、お読みいただきありがとうございました!

封印解放——アキトの∞スキルが、また一歩その全貌を見せてきました。

次回第27話もお楽しみに!ブックマーク・評価いただけると励みになります!

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