第24話 Bランクの初依頼
今回もお読みいただきありがとうございます!
第24話からいよいよ第二章です。Bランクとして初めての依頼——規模も危険度も、Cランク時代とは一段違います。
どうぞお楽しみください!
Bランクになって最初の朝、ギルドの掲示板は様変わりしていた。
Cランク時代に見ていた黄色の依頼票ではなく、青色の依頼票が目に入る。
「Bランク専用依頼か。雰囲気が違うな」
ブルスが腕を組みながら眺めた。
内容を見ると、確かに規模が違った。
護衛依頼ならば護送する荷物の量が多く、討伐依頼ならば対象がBランク以上の魔物だ。
報酬も、Cランク時代の三倍から五倍に跳ね上がっている。
「どれにしますか?」
ミレイが依頼票を一枚ずつ確認しながら言う。
「これ、どう?」
ミレイが選んだのは、碧竜山脈の北麓に出現した岩竜の討伐依頼だった。
俺は内容を読んだ。
岩竜——Bランク相当の大型魔物。岩石の外皮を持ち、物理攻撃が通じにくい。
出没場所は山麓の街道付近で、通行する商人や旅人に被害が出ている。
「三人で行けますか?」とブルスが俺に聞く。
「問題ないと思います。岩竜は火属性と雷属性が弱点です。俺が前衛魔法でやります」
「俺は壁役か」
「囮として動いてもらえると助かります。ミレイさんは援護射撃を」
「了解よ」
三人で依頼を受理し、翌朝出発することにした。
◇
碧竜山脈の北麓は、エルザから馬車で半日ほどの距離にある。
三人で馬を借り、街道を北へ向かった。
途中、街道沿いの小さな集落で休憩を取ると、村長らしき老人が話しかけてきた。
「ギルドから来てくださった方ですか? 岩竜の件で……」
「はい。三人で討伐に来ました」
老人が安堵した顔をする。
「助かります。三日前にも、商人の馬車が一台やられてしまって。荷物は全部奪われ、馬も二頭が……」
老人が言葉を詰まらせた。
「ご心配なく。必ず仕留めます」
ブルスが力強く言った。
老人が深く頭を下げた。
◇
山麓に近づくにつれ、地面に大きな足跡が残っていた。
直径五十センチ以上の円形の痕——岩竜のものだ。
「近いな」
ブルスが声を低くした。
俺は魔力感知を広げた。
前方二百メートル、岩場の陰に大きな魔力の塊がある。
「二時方向、岩場の裏に潜んでいます。大きさはおそらく体長八メートル前後」
「でかい……」ミレイが息を飲む。
「岩竜は動きが遅い分、一撃が重い。近づきすぎないように」
三人で足音を殺しながら接近した。
岩場を回り込んだ瞬間、視界に入ってきた。
全身が灰色の岩石に覆われた、巨大なトカゲ型の魔物。
体長はおよそ九メートル。尾の一振りだけで岩を砕きそうだ。
「俺が前に出て注意を引く。いいか?」
「お願いします」
ブルスが走り出した。
「おい、こっちだ!」
大声で岩竜の注意を引く。
岩竜がゆっくりと頭を向け——ブルスめがけて突進した。
その瞬間、俺は右手に雷魔法を凝縮した。
「落雷」
空から直撃した雷が、岩竜の頭部を貫いた。
外皮の岩石が弾け飛び、内部の柔らかい部分が露出する。
岩竜が苦悶の声を上げた。
「ミレイ、今です!」
「炎柱!」
露出した部分に、ミレイの炎魔法が直撃する。
岩竜が大きくよろめいた。
「ブルスさん、離れて!」
ブルスが素早く後退する。
俺は両手に魔力を溜め、仕上げの術式を組んだ。
「雷炎——複合爆破」
雷と炎を同時に叩き込む。
轟音。爆風。
岩竜が膝を折り、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
静寂が戻った。
「……倒した」
ミレイが呆然と呟いた。
「戦闘開始から、三分もかかっていませんね」
俺は煙の上がる岩竜を眺めながら言った。
「Bランク魔物をたった三分で……」
ブルスが額の汗をぬぐった。
「アキトの複合魔法、やっぱり反則だな」
「雷で外皮を割って、炎で内部にダメージを与える——岩竜の弱点を組み合わせただけです」
「それを即興でやるのが反則だって言ってるんだよ!」
ミレイが笑いながら突っ込んだ。
◇
帰路、集落に立ち寄ると、村長が飛び出してきた。
「討伐できましたか!?」
「はい。岩竜一体、仕留めました」
老人が目を潤ませた。
「ありがとうございます……これで街道も安全になる。本当に、ありがとうございます」
村の人々が集まり、三人を囲んだ。
子どもたちが「すごい! 冒険者だ!」と声を上げている。
俺はその光景を、少し照れながら眺めた。
誰かの笑顔のために動ける——それが、冒険者の仕事なんだと改めて思った。
ブルスが子どもたちに囲まれて困り顔をしている。
ミレイが嬉しそうに笑っている。
俺は静かに、この景色を目に焼き付けた。
Bランクの初依頼は、こうして幕を閉じた。
——だが、帰りの街道を歩いていて、俺はふと気になるものを見つけた。
岩竜がいた岩場の奥、崩れた岩の下に、何かが刻まれていた。
古い文字。見たことのない紋様。
それが何を意味するのか、今はまだ分からない。
でも——何かの予感が、胸の奥でざわめいた。
◇
エルザに戻ってから、俺はあの紋様のことが頭を離れなかった。
写しておいた紋様の図をゼナに見せた。
「……これは」
ゼナが眼鏡をかけ直し、じっくりと眺めた。
「どこで見た?」
「岩竜の根城の岩場です。崩れた岩の下に刻まれていました」
ゼナがしばらく沈黙した。
「……古代語だ」
「読めますか?」
「かじった程度だが……こっちの部分は『封印』、こっちは『解放』か、いや……『覚醒』、かな」
俺は静かに聞いた。
「何の封印ですか?」
「分からない。だが——」
ゼナが顔を上げた。
「この紋様、私は一度だけ見たことがある。十五年前、Aランク時代に調査した遺跡で」
「どんな遺跡でしたか?」
「古代文明の遺産が眠る場所だ。そこには、この世界に最初に魔法をもたらしたとされる存在の記録があった」
俺は少し身を乗り出した。
「最初に魔法をもたらした存在?」
「原初の魔法師——伝説の存在だ。人類に五属性魔法を授け、そして忽然と姿を消したと言われている」
ゼナが紋様を指でなぞった。
「この紋様は、その存在が残したものとされている。何かを封印したのか、それとも何かへの道標なのか——研究者の間でも結論は出ていない」
俺は紋様を見つめた。
「……なぜ、岩竜の根城に?」
「岩竜は数百年生きる。あそこに根城を構えて、知らずに守り続けていたのかもしれない」
ゼナが紋様の写しを俺に返した。
「アキト、これは持っておきな。いつか、意味が分かる時が来るかもしれない」
俺は受け取り、懐に入れた。
——原初の魔法師。封印。覚醒。
それらの言葉が、胸の中で静かに渦を巻いた。
何かが動き始めている気がした。
ゼナが炉に向き直りながら言った。
「今日の授業は魔道具製作の第一歩だ。余計なことを考えるのは後にしろ」
「はい」
俺は気持ちを切り替え、炉の前に立った。
目の前の一歩を積み重ねる。
それが、遠い謎への最短距離だと信じながら。
炎が静かに、工房を照らしていた。
第24話、お読みいただきありがとうございました!
Bランク初依頼、幸先よくスタートしましたね。しかし依頼の裏に、何かが蠢いている……。
次回第25話もお楽しみに!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




