第23話 Bランク昇格試験・後編
今回もお読みいただきありがとうございます!
第23話、面接を経てついに合否発表です。ガレンとの一問一答、アキトはどう答えるのか。そして結果は……!
どうぞお楽しみください!
翌朝、面接はギルドの執務室で一人ずつ行われた。
順番はくじ引きで、俺が最後だった。
先にブルスが呼ばれた。
十五分ほどで戻ってきた彼は、少し緊張が解けた顔をしていた。
「どうでしたか?」
「……思ったより普通に話せた。ガレンさん、怖い顔してるけど、話を遮らずにちゃんと聞いてくれた」
「何を聞かれましたか?」
「二年間Cランクだった理由、パーティーを組もうとしなかった理由……あと、今のパーティーで何が変わったか、って」
「何と答えたんですか?」
ブルスがわずかに照れた顔をした。
「……信頼できる仲間ができた、って」
俺は何も言わなかった。
ただ、頷いた。
次はミレイが入室した。
こちらも十五分ほどで出てきた。
「緊張したけど、なんとかなったわ。ガレンさん、最後に少し笑ってくれたし」
「何を聞かれましたか?」
「なんで冒険者になったのか、とか、パーティーでの自分の役割をどう認識しているか、とか」
「答えられましたか?」
「うん。正直に話した。……ガレンさんに嘘はつけない気がして」
◇
「アキト、どうぞ」
エリカさんに呼ばれ、執務室に入った。
ガレンが机の向こうに座っている。
その鋭い目が、俺を捉えた。
「座れ」
俺は椅子に腰を下ろした。
「単刀直入に聞く。お前は何者だ」
最初の質問がそれか、と思った。
「アキト・ラセル。Cランク冒険者、兼、見習い錬金術師です」
「それは肩書きだ。俺が聞いているのは——お前の中身だ」
ガレンが続ける。
「Cランク一ヶ月で、魔力感知を無意識に使う。複数属性の同時発動ができる。二重効果薬を独自開発する。前例のない記録を次々と作る」
俺は静かに聞いていた。
「普通の人間にはできないことをやっている。なのに、お前は自分のことを『ただのCランク冒険者』と言う」
「……嘘をついているつもりはありません」
「分かっている。お前は嘘をついていない。ただ——自分の力の正体を、まだ完全には理解していない」
俺は少し驚いた。
「……そう見えますか」
「ああ。目を見れば分かる。自分の可能性に気づいているが、その全貌を把握していない——そういう目だ」
ガレンが机の上で手を組んだ。
「俺はAランクまで上がった冒険者だ。色んな目を見てきた。お前の目は——その中でも、特別だ」
俺は少しだけ、正直に話すことにした。
「……追放されるまで、自分の力に気づいていませんでした」
「追放?」
「以前、別のパーティーにいました。無能と判断されて、除名されました」
ガレンが表情を変えずに聞いている。
「それから一人で、力に気づいた。何もないところから始めて、今があります」
しばらく沈黙があった。
「……Bランクになった後、どうするつもりだ」
「今の三人で、もっと強くなります。そして——自分の力の全貌を、自分自身で確かめたい」
「なぜ三人で、だ。お前一人で十分じゃないのか」
俺は即座に答えた。
「一人では気づけないことが、三人でいると見えてくるからです。ブルスさんの粘り強さも、ミレイさんの判断力も、俺一人では持てない。強さは、一人で持つものじゃないと思っています」
ガレンが、わずかに目を細めた。
「……以上だ。待合室で待て」
◇
三人で待合室に集まり、十分ほど待った。
「どうだった?」とミレイ。
「普通に話しました」
「またそれ……普通って何なのよ」
ブルスが苦笑する。
そこへガレンが扉を開けて入ってきた。
「結果を発表する」
室内が静まり返った。
「ブルス・タイガ。筆記八十二点、実技評価A、面接評価A——合格」
ブルスが小さく息を吐いた。
「ミレイ・シルフ。筆記九十六点、実技評価S、面接評価A——合格」
ミレイが目を潤ませた。
「アキト・ラセル。筆記百点満点、実技評価S、面接評価——」
ガレンが一瞬、間を置いた。
「特例評価。総合成績、本試験史上最高点」
静寂。
「三名とも、本日付でBランク昇格を認める。おめでとう」
◇
ギルドの玄関を出たところで、三人同時に息を吐いた。
「……やった」
ミレイが呟いた。
「やったな」
ブルスが静かに言った。
俺も、静かに頷いた。
「三人で、上がれましたね」
ミレイが急に笑い出した。
「なにこれ、じわじわくる! やった! Bランク!」
ブルスが笑いながら空を見上げた。
「二年越しだ。やっと来た」
俺は二人の顔を見て、また静かに笑った。
この景色が——追放された夜には、想像もできなかった。
何もない荒野に一人立った俺が、今は仲間と並んでBランクの冒険者になった。
——気づいた時にはもう遅い、なんて言わせない。
俺はまだ、始まったばかりだ。
青空が高く広がる中、エルザの街が三人を祝福するように輝いていた。
◇
その夜、三人でエルザで一番の食堂に入った。
ブルスがいつもより高いエールを注文し、ミレイが「今日だけは奮発するわ」と言い、俺も珍しく肉料理を頼んだ。
「乾杯」
三つのジョッキが、からんと鳴った。
「ブルスさん、二年越しですね」
「ああ。長かったな……」
ブルスが遠くを見るような目をした。
「でも、今日合格できたのはお前らのおかげだ。一人じゃ絶対に受けてなかった」
「そんなことないですよ。ブルスさんの実力があってのことです」
「……お前は本当に、素直に受け取らないな」
ミレイが笑う。
「アキトって、人に頼られるのは得意なのに、人から感謝されるのが苦手よね」
「……そうかもしれません」
「自覚あるんじゃない」
俺は苦笑した。
「追放された後、誰かに感謝されることが、しばらくなかったので。まだ慣れていないです」
一瞬、テーブルが静かになった。
ブルスが、ゆっくりとジョッキを置いた。
「……そうか」
それだけ言って、また乾杯した。
「これからは、感謝される機会が増えるぞ。Bランクになったんだから」
「……そうですね」
ミレイが柔らかく笑った。
「慣れていこ、三人で」
俺は、その言葉を静かに受け取った。
◇
宿に帰る道、夜風が頬をなでた。
胸の内側に、じわりとした温かさがある。
追放から、ひと月半。
Fランクから始まって、今日Bランクになった。
錬金術の師匠もできた。工房も持った。仲間もいる。
一つ一つは小さな積み重ねだったが、振り返ると遠くまで来た気がした。
——それでも、まだ先がある。
無限素質の力は、まだその一端しか開いていない。
次に何が解放されるのか、どんな依頼が来るのか、どこまで行けるのか。
全部、楽しみだった。
路地を曲がると、宿の灯りが見えた。
俺は歩調を緩めず、まっすぐに歩いた。
明日からまた、前へ進む。
Bランク冒険者、アキト・ラセルの物語は——まだまだ続く。
◇
翌朝、ゼナの工房に顔を出した。
「Bランク、受かりました」
ゼナが炉の前で振り返った。
「言ったとおりだろう」
相変わらずあっさりしている。
「ありがとうございます。ゼナさんの言葉が、一番支えになりました」
「何を言った?」
「いつも通りに動けば十分だ、と」
ゼナがふっと口元を緩めた。
「……そうか。じゃあ、今日から授業の内容を上げる。Bランクにもなって、初歩を続けるのは時間の無駄だ」
「よろしくお願いします」
ゼナが素材棚に向かいながら言った。
「次のステップは、魔道具製作だ。素材精製だけでなく、道具に魔力を定着させる技術を学ぶ」
俺の胸が、少し高鳴った。
魔道具製作は、錬金術の中でも高難度の分野だ。
熟練の錬金術師でも、習得には数年かかると言われる。
「……楽しみです」
「楽しんでくれると助かる。厳しいからね」
ゼナが素材を並べながら、口の端だけで笑った。
炉の炎が、明るく揺れた。
Bランクという新しい扉が開いた。
その先には——まだ見ぬ力と、出会い、そして試練が待っている。
俺はエプロンをつけ、炉の前に立った。
次の一歩を、踏み出す。
アキト・ラセルの冒険は、第二章へと続いていく。
第23話、お読みいただきありがとうございました!
Bランク昇格おめでとうございます!三人でつかんだ昇格、最高でしたね。
次回第24話からは新たな展開が始まります。お楽しみに!
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