第22話 Bランク昇格試験・前編
今回もお読みいただきありがとうございます!
第22話、いよいよBランク昇格試験当日です。筆記・実技の前編をお届けします。三人の実力が存分に発揮されます!
どうぞお楽しみください!
試験当日の朝、空は高く晴れていた。
ギルドの一室に通されると、すでに他の受験者が数名いた。
全員Cランクのベテランと見えて、俺たちより年上が多い。
「若いな」
隣に座った赤毛の男が言った。三十代半ばくらいだろうか。
「Cランクになってどのくらいだ?」
「一ヶ月ほどです」
男がぎょっとした顔をした。
「一ヶ月でBランク受験……? ガレンに何か弱みでも握られたか?」
「推薦いただいただけです」
男はしばらく俺を見て、それから苦笑した。
「……まあ、頑張れ。若者が上がってくるのは歓迎だ」
◇
筆記試験は三十問、制限時間一時間だった。
問題を開くと、想定通りの内容が並んでいる。
モンスターの生態と弱点属性、魔法理論の基礎と応用、ギルド規約と緊急時の対応手順。
俺は迷わずペンを走らせた。
全問解き終わるまで、二十分もかからなかった。
残り時間を見直しに使い、一問だけ計算式に誤りを見つけて修正した。
隣でミレイが集中した顔でペンを動かしている。
その向こうで、ブルスが眉を寄せながら問題と格闘していた。
時間終了の鐘が鳴った。
「……終わった」
ブルスがため息をつく。
「できましたか?」
「全問は無理だったが、八割は分かった。たぶん」
「それで十分です。合格ラインは七割ですから」
「……本当に教えてくれてよかった」
ミレイも一息ついた表情をしている。
「私は全問いけたと思う。アキトは?」
「二十分で終わりました」
ミレイが固まった。
「……三十問を、二十分」
「見直しに四十分使いました」
「……もう何も言わないわ」
◇
午後から実技試験が始まった。
評価員は二名。五十代の元Aランク冒険者と、三十代の現役Bランク冒険者だ。
形式は「依頼への同行評価」——評価員が同行する中、実際の討伐依頼を遂行する。
今回の依頼はエルザ近郊の爪蜥蜴の群れ討伐。十五体。Cランク上位相当の難易度だ。
「では、出発してください」
評価員が静かに告げた。
俺たちは街道を出て、草原地帯に入った。
「斥候はミレイさんお願いします。ブルスさんは正面を固めてください。俺は後方支援と状況判断を」
自然な声で指示を出す。
二人が頷き、それぞれの持ち場につく。
十分ほど進んだところで、ミレイが手信号を出した。
——前方十一時方向、六体。
俺は瞬時に判断した。六体なら先手で半数を封じてから処理できる。
「ブルスさん、正面二体を引きつけて。ミレイさんは右翼の二体に氷魔法。俺が左の二体を土魔法で固定します」
声は低く、しかし明確に。
ブルスが踏み込み、爪蜥蜴二体の注意を引きつける。
ミレイの氷刃が右の二体を貫いた。
俺の土縛が左の二体の足を地面に縫いつける。
ブルスが固定された二体を一撃ずつ仕留め、俺が縛った二体もミレイの追撃で仕留める。
六体、三十秒以内。
「……」
評価員の一人が何か書き込んでいる。
残りの群れは二か所に分散していた。
一か所は遠くの茂みの奥、もう一か所は岩陰。
俺は魔力感知を使い、それぞれの位置を特定した。
「茂みの奥、四体。岩陰に五体。ミレイさんは茂みを、ブルスさんと俺で岩陰を処理しましょう」
「分かった」「了解」
二手に分かれて進む。
岩陰の五体は、ブルスが三体を引きつけ、俺が残りを魔法で足止めしながら一体ずつ処理した。
茂みの方も、ミレイが氷嵐で一気に動きを封じて全処理。
十五体全討伐、所要時間八分。
◇
帰路、評価員の一人が俺に話しかけてきた。
「一つ聞いていいか。最後の岩陰組の位置、どうやって把握した? 目視は不可能な距離だったはずだが」
俺は正直に答えた。
「魔力感知を使いました。無意識に習得していたもので」
評価員が少し目を細めた。
「……Cランク一ヶ月で、魔力感知を無意識に」
「ええ」
評価員はそれ以上何も言わなかった。
ただ、手帳に何かを書き込んでいた。
その表情が、少し驚いているように見えた。
俺は前を向き、二人と並んで歩いた。
残るは面接のみ。
いつも通り——それだけだ。
◇
ギルドに戻り、休憩室で待機していると、他の受験者たちが思い思いに話していた。
「お疲れ。お前らのパーティー、見てたが連携がすごかったな」
朝に話しかけてきた赤毛の男——カーツと名乗っていた——が言った。
「評価員のじいさん、メモ帳ほとんど白紙のはずなのに、お前らのところだけ三ページ埋まってたぞ」
ブルスが「マジか」と呟く。
「三人とも息が合ってた。特にあの指揮——どっちが決めてるんだ?」
「状況によって変わりますが、今日は俺が」
「一番若いのが……」
カーツが複雑な顔をした。
「悔しいが、お前たちは俺よりBランクにふさわしい。そう思う」
ブルスが苦笑する。
「そんなこと言うなよ。俺たちもギリギリだ」
「ギリギリには見えなかったがな」
ミレイが小声で俺に言う。
「アキト、カーツさんも合格しそう?」
「筆記で少し苦戦していましたが、実技の身のこなしは手堅かったです。おそらく」
ミレイが笑う。
「分析してる分析してる」
俺は苦笑した。
「習慣なので」
◇
日が傾く頃、評価員から「本日の試験は以上です。明日、面接を行い合否を発表します」と告げられた。
「明日か」
ブルスが空を見上げた。
「筆記と実技は問題なかったと思う。あとは面接だ」
「ブルスさんは、何を聞かれると思いますか?」
「……二年間Cランクで止まっていた理由、とか?」
「正直に話せば大丈夫ですよ」
「分かってる。でも少し緊張するな」
ミレイが横からブルスの腕を軽く叩いた。
「大丈夫。私たちも一緒に受けるんだから」
ブルスが少し驚いた顔をして、それからふっと肩の力を抜いた。
「……そうだな」
三人で、夕暮れのギルド前に立った。
明日が本番だ。
でも、今日の手応えは十分だった。
評価員の目、カーツの言葉、二人の動き——全部が、俺に確信を与えてくれた。
俺たちは、もうCランクの仕事を超えている。
明日、それを証明する。
空に星が一つ、二つと瞬き始めた。
エルザの夜が、また始まった。
◇
宿に戻り、俺は今日を振り返った。
筆記は問題なかった。
実技も、三人の連携は完璧だったと思う。
評価員が驚いていたのは分かった。
Cランク一ヶ月で、この動きをするパーティーは、おそらく前例がない。
でも——それは当然だ。
ブルスは二年間のCランク経験で培った前衛の安定感がある。
ミレイは魔法の精度と状況判断が優れている。
そして俺は、複数のスキルと感知能力を持つ。
三人を足せば、Bランクを超えているかもしれない。
でも今は、一段一段、確実に上がっていく。
焦る必要はない。
俺にはまだ、無限の可能性がある。
——∞。
あの日、荒野で見たスキル欄の記号が、頭に浮かんだ。
追放された夜に気づいた力は、まだその全貌を見せていない。
ゼナの工房で錬金術の新領域を開いた。
魔力感知が無意識に発動するようになった。
複数属性の同時制御が、自然になってきた。
次は何が解放されるのか——自分でも楽しみだった。
明日、面接を終えれば、Bランクへの扉が開く。
その先に何があるのか。
強くなった自分が、どこまで行けるのか。
俺は静かに目を閉じた。
——眠れ。明日に備えろ。
自分に言い聞かせながら、夜の静寂に身を委ねた。
エルザの風が窓を揺らし、遠くで虫の声がした。
試験の夜は、穏やかに更けていった。
第22話、お読みいただきありがとうございました!
筆記と実技は完璧——あとは面接のみ!次回第23話、後編もお楽しみに!
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