第20話 Bランクの壁
今回もお読みいただきありがとうございます!
第20話、アキトたちにBランク昇格試験の話が持ち上がります。試験の内容とは……?そして三人の絆が、また一歩深まります。
どうぞお楽しみください!
その日の朝、ギルドに入ると、エリカさんが少し改まった顔で俺たちを待っていた。
「お三方、少しよろしいですか」
ブルス、ミレイ、俺の三人が顔を見合わせる。
「何かあったんですか?」
「ギルドマスターから、お話があるとのことです。奥へどうぞ」
案内されたのは、受付奥の小さな執務室だった。
待っていたのは、がっしりとした体格の中年男性——ギルドマスターのガレンだ。
四十代半ば、元冒険者だけあって眼光が鋭い。
「来たか。まあ座れ」
俺たちは椅子に腰を下ろした。
「単刀直入に言う。お前たちをBランクに推薦したい」
ミレイが息を飲む。ブルスが背筋を伸ばした。
「昇格試験、ですか」
「ああ。Cランクに上がって一ヶ月足らずだが、実績が伴っている。盗賊団の全員生け捕り、鉄錆の洞窟C級上位討伐、魔力結晶の産地発見——どれも一つだけでも推薦の理由になる」
ガレンが俺を見た。
「特にアキト、お前の錬金術の腕も加味した。上位回復薬の定期納品契約、聞いたぞ。Bランク冒険者兼錬金術師というのは、このギルドでも前例がない」
◇
「Bランクの昇格試験とは、どういうものですか?」
俺が聞くと、ガレンは指を三本立てた。
「三つの試験がある。一つ目は筆記——モンスターの生態、魔法理論、ギルド規約の知識確認。二つ目は実技——模擬戦闘あるいは実際の依頼での立ち回り評価。三つ目は面接——判断力と人格の確認だ」
「いつですか?」
「二週間後。三人全員合格なら、パーティーとして一括昇格になる。一人でも落ちたら、個別に再試験だ」
ミレイが緊張した顔で言う。
「……筆記が不安ね。私、魔法理論は得意だけど、モンスターの生態はあまり詳しくないわ」
「俺は逆に筆記が不安だ」
ブルスが正直に言う。
「二週間で準備できますか?」とガレンが俺に聞いた。
「やります」
短く答えると、ガレンがわずかに目を細めた。
「……お前は面白い目をしているな」
「そうですか?」
「迷いがない。追い詰められたことがある人間の目だ」
俺は静かに頷いた。それだけだった。
◇
執務室を出ると、ミレイがすぐに言った。
「アキト、筆記の勉強、教えてくれる?」
「もちろん。ブルスさんも一緒に」
「頼む。俺、本読むの苦手で」
「大丈夫ですよ。要点を絞って教えます」
三人で食堂の一角を借り、早速その日の夕方から勉強会を始めた。
俺がノートにまとめた要点を読み上げながら説明していくと、ミレイはすぐに理解し、ブルスは少し時間がかかるが一度理解したらしっかり覚えていた。
「モンスターの弱点属性って、こんなにバリエーションがあるのね」
「魔物は生息環境に適応した属性耐性を持つので、逆属性が弱点になることが多いですが、例外も多い。鉄甲虫は土属性耐性が高いのに火が弱点なのは——」
「外殻が金属質だから、火で一気に加熱されると機能不全を起こすのか」
「正確です、ブルスさん」
ブルスが少し得意そうな顔をする。
「覚えるコツは、理屈から入ることです。丸暗記より、なぜそうなるかを理解する方が応用が効きます」
「なるほど……先生みたいなこと言うじゃないか」
ミレイがくすくすと笑う。
「アキト、教えるの上手ね。ゼナ師匠の授業から学んでる?」
「……少し、そうかもしれません」
◇
勉強会が一段落して、ブルスがぽつりと言った。
「Bランクか。俺、Cランクになったのが二年前でな。ずっとここで止まってた」
珍しく、少し遠くを見るような目をしていた。
「何か理由があったんですか?」
「パーティーが組めなかったんだ。ソロじゃBランク試験は厳しいし、合う仲間もいなくて」
ミレイが静かに聞いている。
「……お前らと組んで、初めてBランクが見えてきた気がする」
俺は何か言おうとして、やめた。
言葉より先に、ブルスが続けた。
「だから絶対合格するぞ。三人全員でな」
ミレイが笑って頷く。
「当然よ。落ちるつもりはないわ」
俺も、静かに頷いた。
「一緒に受かりましょう」
三人でそれだけ確かめ合った。
それだけで十分だった。
食堂の窓から、夜のエルザが見える。
街の灯りが、橙色にやわらかく滲んでいた。
二週間後——Bランク昇格試験。
俺は静かに、その日を見据えた。
◇
翌日から、俺たちは昇格試験に向けた準備を本格的に始めた。
朝はギルドで依頼をこなし、昼過ぎから俺はゼナの工房で錬金術の修業。夕方に三人で集まって勉強会——という流れが自然に出来上がった。
三日目の勉強会で、ミレイが気になることを口にした。
「ねえ、実技試験って具体的に何をするのかしら。模擬戦って、誰と戦うの?」
「ギルドの専任評価員か、Bランク以上の冒険者が相手になることが多いそうです。あるいは、実際の依頼に評価員が同行するパターンも」
「評価員が同行……つまり、普段通りやればいいのね」
「そうなります。変に気を張る必要はないと思います」
ブルスが腕を組んだ。
「問題は面接だな。俺、人と話すの得意じゃないんだが」
「ガレンさんが聞きたいのは、判断力と人格です。難しいことを言う必要はなくて、実際にこれまでやってきたことを正直に話せばいい」
「……正直に、か」
「ブルスさんが二年間Cランクでいた理由も、パーティーへの向き合い方も、全部プラスになります。誠実さが一番伝わりますよ」
ブルスが少し驚いた顔をして、それからぼそっと言った。
「……お前、たまにすごいこと言うな」
「そうですか?」
「普段は飄々としてるくせに」
ミレイが笑う。
「それがアキトよ」
◇
試験まで残り十日になった頃、ゼナに試験のことを話した。
「Bランク昇格試験か。受けるのか」
「はい。二週間後です」
ゼナが炉の火を調整しながら言う。
「錬金術師として試験を受けるわけじゃないんだろう?」
「冒険者としてです。ただ、錬金術の実績も評価に含まれるようです」
「ふん。どうせ受かるだろう」
あっさりと言われた。
「なぜそう思うんですか?」
「お前が落ちるところが想像できないんだよ。筆記は問題ない、実技はなおさら、面接も……まあ、愛想が少し足りないかもしれないが」
俺は苦笑した。
「愛想ですか」
「笑顔が少ない。もう少し表情を出すといい。Bランクになれば、依頼人との信頼構築も重要になる」
ゼナがこちらを向いた。
「あと一つ。試験のためだけに頑張るな。普段通りの自分でいろ。それが一番強い」
俺はその言葉を、ゆっくりと受け取った。
「……分かりました」
「よし。じゃあ今日の授業を始めよう」
ゼナが素材棚から瓶を取り出す。
「今日は複合ポーションの応用だ。攻撃力と回復を同時に上げる二重効果薬——理論上は可能とされているが、まだ誰も成功していない。アキト、やってみな」
俺は少し驚いた。
「誰も成功していないものを、いきなりですか?」
「失敗してもいい。どこで詰まるかを体感することが大事だ」
それが修業というものか、と思った。
俺は炉の前に立ち、素材を手に取った。
まだ見ぬ領域への一歩。
それが怖いどころか、胸の奥から楽しみが湧き上がってきた。
——やってみよう。
ランプの光の中、俺の手が動き始めた。
第20話、お読みいただきありがとうございました!
記念すべき20話、いかがでしたか?
Bランク昇格試験、果たして三人は突破できるのか——次回第21話もお楽しみに!
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