↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/32

アイン・キャシー

ラックがルールオブへ戻ると、そこにはシバと、涙を流しながらシバを抱きしめるルナの姿があった。


「良かった……ほんと、良かったよぉ……!」


ルナに強く抱き寄せられたシバは抵抗することもなく、ただ静かにその場に座っている。

まるで、ルナが泣き止むのを待っているかのようだった。


「泣きじゃくってるところ悪いけどさ」


ラックが少しだけ苦笑を浮かべながら声をかける。


「ルナ。約束、覚えてるか?」


「うん……」


ルナは涙で濡れた目を拭いながら頷く。


「シバは……ここで預かってもらうんだよね……」


⸻


「あぁ。ただしシバは俺が貰う」


その言葉を聞いた瞬間、ルナと母親の表情が固まった。


「何でよ!

シバはルナたちの家族なんだよ!!」


ルナは必死にラックへ訴えかける。


「違う違う」


ラックは軽く手を振る。


「貰うとは言ったけど、別に俺の犬にするわけじゃない。うちで保護するってだけだ」


そう言ってルナの目を真っ直ぐ見つめる。


「お前たちは、いつでもうちでシバに会える」


「それでも……シバと一緒に暮らせないのは嫌だよ……!」


ラックは小さくため息をつく。


そして、しゃがみ込んでルナの目線まで顔を下げた。


「ルナ、よく聞いてくれ」


優しくルナの頭を撫でながら続ける。


「今回シバは“異常”が発生したって理由で政府に連れていかれた。

もし俺が取り返して、またルナの家に戻したら……」


一拍置く。


「また同じことが起きる」


ルナは黙って話を聞いている。


「だから俺が保護する。

一緒には暮らせないけど、いつでも会える」


ラックは静かに問いかけた。


「今みたいにシバと離れ離れになるのと、

いつでも会えるのと……どっちがいい?」


少しの沈黙。


そしてルナは、ゆっくりと頷いた。


「……分かった」


涙を拭きながら言う。


「シバは……お兄さんに預かってもらう」


ルナは立ち上がると、そのままラックに抱きついた。


「だから……シバを取り返して!」


必死な声だった。


ラックは優しくルナを抱きしめ返す。


「あぁ」


短く答える。


「任せろ」


その言葉を聞き、ルナはようやく安心したように泣き止んだのだった。


――


ルナがラックに依頼した時。


すでに一つの約束が交わされていた。


シバは、ここ“ルールオブ”で暮らす。


それが、二人の間で交わされた条件だったのだ。


「本当にありがとうございました……」


ルナの母親は深く頭を下げる。


「分かっているとは思いますが、ここのことは秘密で頼みますね」


ラックは口元に人差し指を当て、軽くウインクをする。


「こちら、今回のお礼です。どうかお受け取りください」


ルナの母親はバッグから一つの封筒を取り出した。


中には、かなりの額の紙幣が入っているのが見える。


「これは受け取れません」


ラックは穏やかな声でそう言うと、封筒の向きを変えて母親へと押し返した。


「すでに依頼料はいただいていますから」


そう言ってから、シバの方へ手のひらを向ける。


「……こいつも、もううちの住人ですしね」


その言葉に、母親は一瞬驚いたような表情を見せた。


だがすぐに目を潤ませ、もう一度深く頭を下げる。


「……本当にありがとうございました」


「ルナ、そろそろ帰るよ」


母親はシバと遊んでいるルナへ声をかける。


「うん!」


ルナはシバの頭を優しく撫でた。


「お兄さん、本当にありがと!!」


ぱっと顔を上げてラックを見る。


「また来るね!」


最後にもう一度シバを撫でると、ルナは手を振りながら店の外へ向かった。


ラックも軽く手を振り返す。


こうしてルナは母親と共に、ルールオブを後にしたのだった。


こうしてルナは母親と共に、ルールオブを後にしたのだった。


「へぇ……あの子とそのワンちゃんのために、あなた収容所を襲撃したのね」


ルナたちが扉を出ていってすぐ、店内の奥から一人の女性が姿を現した。


驚くべきことに、周囲の気配に敏感なラックですら、その存在にまったく気づかなかった。


「……お前、誰だ?」


ラックは胸元にぶら下げている鍵へ手を当て、いつでも戦闘に移れるよう構える。


「待って待って!戦うつもりはないよ!」


女性は慌てたように両手を前に出し、ぶんぶんと振る。


明らかに敵意はなさそうだ。


「まずは自己紹介からだよね!」


女性はにこっと笑った。


「私はアイン・キャシー。

この子と同じで収容所に入れられてたんだけど、あなた達の騒ぎに乗じて脱獄したの」


くりくりとした瞳でラックを見つめながら名乗る。


背は低く、黒髪のショートカット。

どこか愛嬌のある、可愛らしい見た目の少女だった。


「この服は借りたよ。囚人服じゃすぐ見つかっちゃうからね!」


アインが着ている服は、確かにラックの店のものだった。

サイズの合わないパーカーに、ぶかぶかのスウェット。


完全に“借り物”という格好である。


「あの看守、逃してんじゃねぇよ」


ラックは鍵を変形させ、剣の形へと伸ばす。


「ちょっ、ちょっと!戦う意思は無いって言ってるじゃん!」


アインは慌てて再び両手を前に出す。


「俺は善人じゃないが、悪人ってわけでもない」


ラックは静かに言う。


「俺が脱獄させちまった悪人は……俺の手で送り返す」


鍵の切っ先が、ゆっくりとアインへ向けられる。


「私は悪人じゃないの!」


アインは必死に訴える。


「冤罪であそこに入れられたの!」


しかし次の瞬間――


アインは突然、頭を押さえて床に膝をついた。


「っ……待って……まだ出てこないで……」


苦しそうに呟く。


だが数秒後、何事もなかったかのように立ち上がった。


「……行きたい場所があるの」


アインは真っ直ぐラックを見る。


「そこで、私が捕まった経緯を話す。

その話を聞いて、それでも私が悪人だと思うなら……」


少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「その時は、収容所に送り返していいよ」


「……はぁ」


ラックは深くため息をつく。


そして鍵を元の形に戻し、胸元の紐へ結び直した。


「分かったよ」


「で、行きたいところってどこだ?」


「んー……私の家なんだけど」


アインは少し考えるように顎に手を当てる。


「もう家は残ってないかもだけど……ここから近いと思う。ついてきて!」


そう言うと、玄関へと歩き出した。


「はぁ……」


ラックは頭を掻く。


「お前、脱獄者だろ。多分もう指名手配されてる」


淡々と忠告する。


「目立つようなことはするなよ」


そう言って、玄関のそばで伏せているシバの頭に手を置いた。


「シバは留守番しててくれ」


シバは目を閉じたまま、特に反応を見せない。


「じゃあ――レッツゴー!」


元気よく扉を飛び出していくアイン。


それとは対照的に、ラックはどこか憂鬱そうな表情を浮かべながら、ルールオブを後にしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。