逃亡
バキィン!!
チェイスの全身へ白い雷が駆け巡る。
その瞬間。
身体を覆っていた氷が一気に砕け散った。
「ヒャッヒャッヒャ!」
「この異常は……!」
チェイスの瞳が見開かれる。
「……あの時のガキか!」
数年前。
炎に包まれた家。
雷。
泣き叫ぶ少女。
その記憶が脳裏をよぎる。
チェイスの口角は大きく吊り上がった。
「ヒャッヒャッヒャ!」
「面白ぇじゃねぇか!!」
同時に。
別の場所。
褐色の肌。
無精髭を蓄えた大柄な男を中心に、暴風が吹き荒れた。
「フンッ!」
轟風。
廊下中を覆っていた氷が次々と砕け散る。
エクラ。
クリスタ。
黒服達。
ラック達を包む氷まで。
表面だけを正確に砕き、全員を解放した。
「チェイス!」
「さっさと俺らを解放しやがれってんだ!」
「無駄にこいつらまで解放する事になっちまっただろ!」
男は苛立ったように怒鳴る。
しかし。
チェイスの耳には届いていなかった。
視線の先にいるのは。
ナイン。
ただ一人。
「……殺す」
ナインの瞳には。
チェイスしか映っていなかった。
エクラも。
クリスタも。
ラック達も。
何一つ視界に入っていない。
背後では。
解放されたエクラが再び手を伸ばす。
だが。
ナインは振り返りもしない。
足元から氷の道を生み出す。
そのまま滑るように一直線。
「やめろ!」
「ナイン!!」
ラックの静止も届かない。
ナインは両手へ巨大な氷の刃を生成した。
「死ね」
一直線にチェイスへ斬りかかる。
「ヒャッヒャッヒャ!!」
チェイスは歓喜の笑みを浮かべた。
バチィッ!!
稲妻が一直線に放たれる。
「キャァァァァッ!!」
ナインは全身へ電撃を受け悲鳴を上げる。
しかし。
倒れない。
足元から巨大な氷柱が突き上がった。
ドゴォォン!!
チェイスの身体が吹き飛ばされ、壁へ激突する。
「ガハッ!」
血を吐く。
それでも笑っていた。
「最高だぜェ!!」
その頃。
「クリスタァァ!!」
アダアダも再び走り出していた。
一直線。
妹だけを見つめて。
「返せぇぇぇ!!」
しかし。
「クローズ」
静かな声。
ラックの鍵がアダアダの首元へ差し込まれる。
「ラック……」
「てめぇ……」
言葉を言い切る前に。
アダアダの身体から力が抜けた。
その場へ崩れ落ちる。
ラックは静かに支えた。
「悪いな」
「今は助けられねぇ」
「だから、生きて帰るぞ」
煙玉を床へ叩き付ける。
パンッ!!
白煙が一瞬で廊下を覆った。
「行くぞ」
ラックは床へ鍵を突き立てる。
「オープン」
床が扉へ変化する。
アダアダを担ぎ上げる。
そして。
「シバ!」
手を差し伸べる。
しかし。
シバは首を横へ振った。
「ワン!」
一直線に煙の中を駆け出す。
向かう先は。
ナイン。
ラックは一瞬だけ目を閉じた。
「……頼んだ」
そう呟き。
床の扉へ飛び込んだ。
直後。
轟風。
煙が一気に吹き飛ぶ。
そこにはもう。
ラックとアダアダの姿は無かった。
「ワン!!」
シバだけが。
電撃を受け倒れたナインの前へ立ちはだかる。
小さな身体で。
守るように。
威嚇する。
その姿を見て。
黒いスーツにサングラスを掛けた大柄な男が小さく呟いた。
「……見事な忠犬だ」
男の影が揺らぐ。
次の瞬間。
シバの身体は影へ飲み込まれた。
「ワフッ!」
声だけを残し。
姿は消えた。
「寝てんじゃねぇよ!!」
チェイスは血を吐きながら立ち上がる。
全身へ雷を纏う。
「こっからだろォ!!」
「面白ぇのは!!」
ナインへ歩き出す。
しかし。
「やめろ」
エクラの一言。
その瞬間。
チェイスの前へ。
九人が一斉に立ちはだかった。
「そいつは特異点よ」
エクラは静かにナインを見下ろす。
「私の異常に抵抗した人間は初めて」
「その原因を調べる必要がある」
チェイスは舌打ちする。
「チッ……」
「暴れ足りねぇんだけどなァ」
エクラは冷たい視線を向けた。
「暴れ足りないなら」
「逃げた二人を追いなさい」
数秒。
二人は睨み合う。
やがて。
チェイスは両手をぶらぶらと振った。
「ヒャッヒャッヒャ!」
「分かったよ」
チェイスはラックが作った床の扉を蹴り砕く。
そのまま迷いなく一階へ飛び降りた。




