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鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


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二つ目の依頼

翌日。


ルールオブ。


開店前の店内。


サイフォンは情報収集へ出掛けており、店内にはラックとアダアダの二人だけが残っていた。


「で?」


カウンター席に座るラックが口を開く。


「二つ目の依頼ってのは何なんだ?」


珍しくアダアダは騒がしくなかった。


「ヘイヘイ……」


「ちょっと覚悟決めてた」


「お前がそんな顔するなんて珍しいな」


アダアダは懐から一枚の写真を取り出した。


幼い兄妹の写真。


「クリスタか」


ラックが呟く。


「久しぶりに見たな」


「覚えてたか」


「当たり前だ」


「異常者スクールで何度か会ったしな」


「お前、暇さえあれば妹の話してたから嫌でも覚える」


ラックは苦笑する。


クリスタ・ライメンス。


アダアダの五つ下の妹。


異常者スクールの後輩。


兄とは正反対で、内気で大人しい少女。


「ラックさん……よろしくお願いします」


そう言って頭を下げてきた姿を今でも覚えていた。


「卒業してからは国立銀行に勤めてた」


「政府の監視付きでな」


「まぁ、あいつの異常なら当然だ」


無限に金を生み出し操る異常。


国家ですら無視できない能力。


「だが」


「数年前、突然いなくなった」


アダアダの笑顔が消える。


「政府も」


「監視員も」


「俺も」


「ずっと探してた」


「でも見つからなかった」


店内に静寂が流れる。


「最近になってサイフォンの野郎が情報を掴んだ」


「妹は生きてる」


「そして」


「バタフライのトップ」


「エクラ・ジョナスの秘書をやってる」


ラックの目が細くなる。


「……バタフライか」


「あぁ」


「詳しい事情は分からねぇ」


「でもよ」


「死んでねぇなら諦められねぇ」


そして。


アダアダは立ち上がった。


大きな身体を深く折り曲げる。


「頼む」


「怪盗」


「俺の妹を盗ってきてくれ」


ラックは首元の赤と青に輝くネックレスに触れる。


アルファ・メトロボット最期の遺作。


借金など簡単に返済できるほどの価値を持つ宝。


それを差し出してまで。


アダアダは妹を取り戻したかった。


ラックは小さくため息を吐く。


「……最初からそう言えよ」


「え?」


「受けるに決まってんだろ」


「クリスタには世話になった訳じゃねぇが」


「後輩が悪党の財布になってるなんて胸糞悪い」


「それに」


ラックは笑う。


「俺は怪盗だ」


「奪われたもんを盗り返すのが仕事だからな」


「ノォォオン!!」


アダアダの目から大粒の涙が溢れた。


「ありがとうよラック!!」


その時。


ガチャ。


「ただいまー!」


「お肉安かったよ!」


買い物袋を両手に抱えたアインが元気よく店の扉を開ける。


その後ろからシバも嬉しそうに飛び込んできた。


「ワフッ!」


「おう、おかえり」


ラックが軽く手を振る。


しかし。


アインはすぐに違和感に気付いた。


「……どうしたの?」


「アダアダさん泣いてるけど」


「ノォォオン……」


アダアダは涙を拭きながら鼻をすすっていた。


「いや、ちょっと感動してただけだ」


「意味分からないよ」


アインは苦笑する。


そして机の上の写真に目を止めた。


「この人……?」


そこに写っていたのは幼い兄妹。


「俺の妹だ」


アダアダの声にアインは目を丸くする。


「妹さん?」


「クリスタ・ライメンス」


「俺の自慢の妹だ!」


先程まで泣いていた男とは思えない笑顔だった。


そして。


アダアダは事情を話した。


異常者スクール。


国立銀行。


突然の失踪。


そして。


バタフライ。


全てを聞き終えたアインは俯く。


「……そうだったんだ」


「最近になってようやく居場所が分かってな」


「バタフライのトップ、エクラ・ジョナスの秘書をやってるらしい」


「それで」


アダアダは照れ臭そうに頭を掻く。


「ラックに妹を盗ってきてくれって頼んだ」


「そしたらこの野郎、引き受けてくれたんだ」


「……」


アインは黙っていた。


「アインちゃん?」


「私も行く」


ラックは即座に首を横に振る。


「駄目だ」


「え?」


「今お前とシバはスタードに狙われてる」


「留守番だ」


「そうそう!」


アダアダも頷く。


「ここにはサイフォンもいるしよ」


「俺とラックで何とかするからよ!」


しかし。


アインは真っ直ぐ二人を見た。


「嫌」


その声に二人が言葉を止める。


「私も行く」


「……アイン」


「私は」


「閉じ込められてたから」


静かな声。


「収監施設の中で」


「自由もなくて」


「外にも出られなくて」


「会いたい人にも会えなくて」


「ずっと一人だった」


アインは写真の中の少女を見る。


「だから分かるの」


「クリスタさんもきっと」


「寂しい思いをしてる」


「お兄ちゃんに会いたいって思ってる」


「助けてって思ってる」


「だから」


アインはアダアダを見上げる。


「一緒に盗り返そう?」


「私も連れて行って」


「お願い」


真剣だった。


迷いのない目だった。


アダアダの目から再び涙が溢れる。


「ノォォオン!!」


「アインちゃん優しすぎるだろ!!」


「絶対クリスタも喜ぶぜ!!」


「うるさい」


ラックは頭を掻く。


「情に厚い奴ばっかりだな」


その時。


「ワフッ!」


シバが元気よく前足を上げた。


「お前もか」


ラックはため息を吐く。


「はぁ……」


「分かった」


「ただし」


「無茶はするな」


アインの顔がぱっと明るくなる。


「うん!」


「ありがとうラック!」


「ワフッ!」


アダアダは満面の笑みで拳を握った。


「よっしゃぁ!」


「クリスタを迎えに行くぜ!!」


しかし。


ラックは顎に手を当てる。

「問題はどうやってバタフライ本部に侵入するかだな」


ラックが顎に手を当てる。


すると。


「ヘイヘイ!」


アダアダが笑う。


「気合いでぶち破ればいい!」


「馬鹿か」


ラックは即答する。


「相手はバタフライだぞ」


「この国一番の犯罪組織」


「薬物」


「闇金」


「人身売買」


「武器密売」


「何でもやる」


「下っ端だけで数千人」


「異常者も大量に抱えてる」


「下手したら国の軍隊より厄介だ」


アダアダの笑顔が引きつる。


「お前の妹を助けたいのは分かる」


「だが正面から乗り込んでどうにかなる相手じゃない」


「むしろ俺達が死ぬ」


アインも真剣な顔になる。


「そんなに……?」


「この国で一番ヤバい組織だ」


ラックは断言する。


「俺でも喧嘩売りたくない」


静寂。


すると。


ガチャ。


「ただいま〜」


「いやぁ疲れた疲れた」


サイフォンが帰ってきた。


「ワフッ!」


シバが嬉しそうに駆け寄る。


「何か暗いねぇ」


「どうしたの?」


「バタフライの話だ」


ラックの一言。


すると。


サイフォンの笑顔が消えた。


「……あぁ」


「その話ね」


露骨に嫌そうな顔を見せる。


「でも」


再びニヤリと笑う。


「面白い情報を手に入れたよ」


「面白い情報?」


アインが首を傾げる。


「その前に」


「最近、裏社会が騒がしい理由を知らないよね?」


「実は政府が動き始めた」


「政府?」


アインは首を傾げながら問いかける。


「異常犯罪を専門に取り締まる組織」


「異常取締隊」


「そいつらがバタフライの第六支部と第七支部を襲撃した」


「なに!?」


アダアダが驚く。


「第七支部は壊滅」


「第六支部もかなりの被害を受けた」


「幹部の一人は逃げたみたいだけどね」


「その影響で」


「バタフライのトップ、エクラ・ジョナスは焦ってる」


「そして」


「裏社会の有力者を集めて大規模な会合を開く」


「場所は」


「バタフライ本部」


ラックの目が細くなる。


「本部か」


「そう」


「そして」


サイフォンは一枚の写真を机の上へ置く。


そこに写るのは。


赤いコートを纏う美女。


エクラ・ジョナス。


その隣。


書類を抱えた眼鏡の女性。


「……クリスタ」


アダアダの声が震える。


「間違いねぇ……」


「クリスタだ……!」


「生きてたんだ……!」


涙を流すアダアダ。


そんな彼を見ながら。


サイフォンは不敵に笑った。


「さぁ」


「盗屋さん」


「今度の獲物は」


「バタフライの財布にしてトップの秘書」


「クリスタ・ライメンス」


「そして舞台は」


「バタフライ本部だ」

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