哀喪
遊び疲れた四人と一匹は別荘へ戻る。
玄関を開けた瞬間。
「うわっ、砂まみれじゃねぇか!」
アダアダが床へ落ちた砂を見て大声を上げた。
「お前が一番砂撒き散らしてただろ」
ラックが呆れる。
サイフォンは笑いながら髪をかき上げた。
「とりあえず温泉入ろっか。汗も流したいし」
別荘には天然温泉が備え付けられていた。
海を一望できる露天風呂。
無駄に豪華である。
「グレートだ!」
◇
先に温泉に入るのはアインとサイフォンだった。
「シバも砂だらけだな」
ラックがしゃがみ込む。
シバは尻尾を振っていた。
「よし! 俺が洗ってやるぜシバァ!」
アダアダが勢いよく抱き上げようとする。
だが。
「ガルルル……」
シバが露骨に嫌そうな顔をした。
「ノォォオン!! 何でだァ!!」
アダアダが膝から崩れ落ちる。
「暑苦しいからじゃねぇか?」
ラックが笑う。
「そんなぁ……俺こんなに愛してるのに……」
完全に落ち込んでいた。
結局、ラックがシバを部屋のシャワー室へ連れていく事になった。
「ほら、暴れるなよ」
シャワーをかけながら砂を落としていく。
シバは最初こそ嫌そうにしていたが、
ラックが慣れた手つきで洗い始めると大人しくなった。
「……お前、犬の扱い上手いよな」
後ろからアダアダが覗き込む。
「長い付き合いだからな」
ラックはシバの頭を軽く撫でた。
◇
一方その頃。
温泉。
湯気が静かに立ち昇っていた。
海を一望できる露天風呂。
夕焼けが水面へ反射している。
「はぁ〜……生き返る……」
サイフォンが縁へ腕を乗せながら息を吐いた。
アインも静かに肩まで浸かる。
「今日はいっぱい遊んだね……」
「だねぇ」
少しの沈黙。
波音だけが響く。
やがて。
サイフォンが優しく笑った。
「……リフレッシュできた?」
アインは少し目を丸くする。
「え……?」
「無理して笑ってないかなって」
その言葉に、
アインは小さく俯いた。
サイフォンは続ける。
「アインちゃんの両親を殺した奴」
「僕も情報集めてみるよ」
「……!」
アインが顔を上げる。
「僕、情報屋だしね」
いつもの軽い口調。
だけどその目は真剣だった。
「困ったら何でも頼って」
「一人で抱え込まなくていいから」
その瞬間。
アインの目から涙が零れた。
「……っ」
慌てて拭おうとする。
だが涙は止まらない。
「ありがとう……ございます……」
声が震える。
サイフォンは優しく笑った。
「うんうん。そういう時はいっぱい泣いときなさい」
アインは泣きながら何度も頷いた。
湯気の向こう。
夕陽が静かに沈み始めていた。
温泉から戻ってきたアインの目は少し赤く腫れていた。
だが。
ラックもアダアダも、その事には触れない。
「お、上がったか」
ラックがいつも通りの調子で声を掛ける。
「次、俺ら入ってくる」
「う、うん」
アインも深くは触れてほしくないのか、
少しだけ笑って頷いた。
サイフォンはそんな二人を見て、
小さく微笑む。
ラックとアダアダはそのまま温泉へ向かった。
◇
夜。
露天風呂。
海風が静かに吹き抜ける。
頭上には満天の星空。
二人はシャワーで汗を流すと、
そのまま湯船へ浸かった。
「あ゛ぁ〜〜〜……」
アダアダが全身の力を抜く。
「グレートだ……」
「おっさんみてぇな声出してんな」
ラックも肩まで湯に浸かりながら息を吐いた。
昼間騒ぎすぎたせいか、
身体に程よい疲労感が残っている。
少しの沈黙。
波音だけが聞こえる。
やがて。
アダアダがふと口を開いた。
「まだお前の父親を殺した奴は見つかんねぇのか?」
ラックは静かに目を閉じる。
そして小さく頷いた。
「あぁ」
短い返答。
だがその声は少し低かった。
「必ず見つけ出して仇を取る」
ラックは夜空を見上げる。
静かな月明かり。
その瞳に僅かな怒りが宿る。
「それに、奪われたものもあるしな」
アダアダは何も茶化さない。
珍しく真面目な顔で湯に浸かっていた。
「アインちゃんには気づかれてねぇみたいだが」
「言わないのか?」
ラックは鼻で笑う。
「別に自分から言うもんじゃねぇだろ」
湯気が揺れる。
「気づかれたら説明するさ」
再び静寂。
遠くで波が砕ける音だけが響く。
ラックはゆっくりと目を細めた。
「……必ず盗り返す」
その声は静かだった。
だが確かな執念が込められている。
「喪くしたこの哀しみは」




