海
ルールオブ。
店内には穏やかな空気が流れていた。
——はずだった。
「ヘイヘイ、利子高過ぎるぜもうちょい負けてくれよ!!」
アダアダが懇願するようにサイフォンに泣きつく。
「うるせぇな……」
ラックはカウンターで本を読みながら呆れたように呟く。
その横ではサイフォンが紅茶を飲みつつニコニコしてアダアダを見下ろす。
「いやぁ、僕にその交渉は意味ないよ」
サイフォンの満面の笑みにアダアダは絶望をする。
そしてアダアダは机へ突っ伏した。
「終わった……俺の人生終わった……」
「安心しろ。お前は明日にはケロッとしてる」
ラックが即答する。
「というわけで、しばらくルールオブでアルバイトね」
サイフォンが勝手に決定する。
「え?」
「え?」
ラックとアダアダが同時に戸惑う。
「利子返済」
「頑張れ♡」
「煽るなァ!!」
アダアダの絶叫。
その様子を見て、アインが思わず吹き出した。
シバも「ワフッ!」と楽しそうに吠える。
騒がしい空気の中。
ふと。
サイフォンがアインを見る。
「……それで?」
いつもの軽い口調ではなかった。
「アインちゃんはどうして収監施設なんかに?」
店内の空気が少し静かになる。
アインは少し迷った後、
ぽつりぽつりと話し始めた。
両親のこと。
雷の異常者。
氷漬けになった家。
収監施設。
そして復讐。
話し終える頃には、
ルールオブは完全に静まり返っていた。
サイフォンは俯いている。
「……サイフォン?」
ラックが呼ぶ。
すると。
サイフォンはハンカチで目元を押さえていた。
「うぅっ……かわいそすぎるぅ……」
ボロボロ泣いていた。
「感受性どうなってんだお前」
ラックが引く。
「だってぇ!! そんなの泣くでしょぉ!!」
鼻をすすりながらサイフォンは立ち上がる。
そのままスマホを取り出し、
どこかへ電話をかけ始めた。
「もしもし? あ、例の別荘まだ空いてる?」
数分後。
通話を終えたサイフォンが、
勢いよく振り返る。
「よし、海行こう」
「は?」
ラックが真顔になる。
サイフォンはビシッと指を突き付けた。
「辛気臭いのはよくない!! こういう時は海!!」
「意味分からん」
「しょうがないから君達も連れてってあげる」
「何で上から目線なんだよ」
だがサイフォンは完全に乗り気だった。
「アインちゃん行こう!!」
「えっ!?」
突然話を振られ、
アインは顔を赤くする。
「で、でも……水着持ってないし……」
「大丈夫!! 僕に任せなさい!!」
「おおお!! 海かァ!!」
アダアダが勢いよく立ち上がる。
「肉! 酒! 太陽!!」
「お前の思考どうなってんだ」
ラックが呆れる。
だが。
「……まあ、たまには悪くねぇか」
ラックも小さく肩を竦めた。
アインの顔が少し明るくなる。
シバは嬉しそうに尻尾を振っていた。
その光景を見たサイフォンは、
満足そうに頷く。
「よし決まり!! 夏だ!! 海だ!! 旅行だァ!!」
ルールオブに、
再び騒がしい声が響き渡った。
-
潮風が吹き抜ける。
青空。
白い砂浜。
打ち寄せる波。
「海だァァァァ!!」
真っ先に砂浜へ飛び出したのはアダアダだった。
海パン一枚で猛ダッシュしていく。
「テンション高ぇな……」
ラックは呆れながらサングラスを掛ける。
その隣。
「いやぁ〜、やっぱ夏は海だよねぇ」
サイフォンが満足そうに笑った。
黒を基調とした水着。
露出は多すぎない。
だが豊かな胸と整ったスタイルが嫌でも目に入る。
「……おぉ」
「……へぇ」
アダアダとラックの視線が自然と向く。
「何その反応」
サイフォンがジト目を向ける。
「いや、思ったよりスタイル良いなって」
ラックが素直に答える。
「こりゃ男が放っとかねぇな!!」
アダアダも笑う。
「当然でしょ?」
サイフォンは髪をかき上げながら得意げに胸を張った。
その横。
アインが少し恥ずかしそうに立っていた。
白を基調としたシンプルな水着。
サイフォンほど派手ではない。
だが細く綺麗な身体のラインと、年相応の柔らかな雰囲気がよく似合っていた。
「似合ってるじゃねぇか」
ラックが軽く言う。
「え、ほんと?」
アインの顔が少し明るくなる。
「おう。普通に可愛い」
「……ッ!」
アインが顔を赤くした。
その瞬間。
空気が変わる。
「——アンタら」
低い声。
アインの瞳が冷たく染まる。
髪が揺れる。
ナイン。
「アインを色目で見たら殺す」
氷のような殺気。
周囲の気温が一瞬下がった。
「怖ぇ怖ぇ」
ラックは肩を竦めるのだった。
◇
その後。
四人と一匹は海を満喫した。
「そっち行ったぞ!!」
「任せろォ!!」
ビーチバレーではアダアダの豪快なアタックでボールは勢いよく叩かれ。
ラックは持ち前の運動神経で拾い続ける。
サイフォンは意外にも運動神経が良く、
アインは楽しそうに笑いながら走り回っていた。
ビーチフラッグでは。
「フラッグは俺のもんだァ!!」
アダアダが猛牛みたいに突っ込む。
「うわっ、砂飛ばさないでよ!?」
サイフォンが悲鳴を上げる。
ラック対アインの対決では、スタートの合図でラックがナインに氷漬けにされかけていた。
「ちょ、、たんま、、」
寒さで体を震わすラックを全員で笑い飛ばす。
シバはそんな騒ぎの中を元気に走り回り、
時々旗を咥えて逃げていく。
そして最後。
皆で巨大な砂の城を作り始めた。
「何でお前そんな上手いんだよ」
ラックが引いた顔で呟く。
サイフォンは得意げだった。
「情報屋は器用じゃないと務まらないんだよ」
「絶対関係ねぇ」
アインは楽しそうに貝殻を飾り、
アダアダは無駄に巨大化して大量の砂を運び、
シバは完成した端から壊していた。
夕陽が落ちてくると四人と一匹は遊び疲れて別荘へと帰っていくのだった。




