バタフライ
空は晴れ渡っていた。
雲一つない青空。
だが次の瞬間。
轟音。
白い雷が大地へ落ちる。
広大な庭園。
手入れされた芝。
噴水。
そして中央にそびえ立つ巨大な城。
まるで王族の住処。
だがその実態は——
犯罪組織“バタフライ”本部。
雷は庭へ着地すると、人の形へ変わる。
チェイス・ケッサ。
「ハァ〜……危ねぇ危ねぇ」
頭を掻きながら城内へ入っていく。
一方。
城の奥。
巨大な長机が置かれた一室。
そこには七人の人物が座っていた。
誰もが只者ではない空気を纏っている。
沈黙が支配する空間。
そして、その最奥。
赤いコートを身に纏う美女の隣には、一人の女性が立っていた。
黒髪。
眼鏡。
書類を両手で抱えた大人しそうな女性。
「エクラ様、本日の資料です」
オドオドした様子で差し出す。
「ありがとう、クリスタ」
エクラは微笑みながら書類を受け取る。
クリスタと呼ばれた女性は、嬉しそうに小さく頭を下げた。
「い、いえ……お役に立てて嬉しいです」
まるで主人に褒められた子供のような笑顔。
そして。
赤いコートを身に纏う美女が静かに口を開いた。
バタフライのトップ。
エクラ・ジョナス。
「第六、第七支部が襲撃された」
低く、それでいてよく通る声。
「第七のアルフェンスは捕まったようだ」
「異常取締隊が本格的に動き始めている」
部屋の空気が重くなる。
誰も軽口を叩かない。
その時。
部屋の扉が勢いよく開いた。
「いやぁ〜、マジで死ぬかと思った」
チェイスが笑いながら入ってくる。
雷を散らしながら空いている席へ腰掛けた。
だが。
エクラは視線すら向けない。
まるで最初から居たかのように会議を続ける。
「こちらも打って出る必要がある」
長い脚を組みかえる。
「政府が抱える発明家レイモンドという人物。こいつの発明の一つに異常を強化する装置がある」
エクラは続ける。
「それを私の元に持ってこい」
冷たい声色でそう伝える。
「それさえあれば私が邪魔者を殲滅する」
静かな声。
だがそこには絶対的な自信と、
凍えるような殺意が込められていた。
「……承知しました」
幹部達が立ち上がる。
すると。
「え、エクラ様……」
クリスタがおずおずと口を開く。
「次の予定ですが……裏社会の方々との会合の日程調整が……」
「後で確認するわ」
「は、はい!」
クリスタは慌てて手帳へ書き込む。
その姿を見ていたチェイスは頬杖をつきながら笑った。
「相変わらず真面目だねぇ」
「もうちょっと肩の力抜けば?」
「す、すみません……!」
「褒めてるんだけどなァ」
チェイスはケラケラ笑う。
そんなやり取りにもエクラは特に口を挟まない。
沈黙。
誰も異論を口にしない。
その場にいた幹部達は静かに立ち上がると、
それぞれの役目を果たすため部屋を後にしていく。
チェイスだけが椅子へ深く腰掛けたまま、
楽しそうに笑っていた。
「へぇ〜……始まるのか」
チェイスはただ一人狂気的な笑みを浮かべるのだった。




