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鍵の異常者-盗屋ラックの哀喪  作者: 轟号剛


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19/32

第六支部

薄暗い路地裏。


アストはスマホを懐へしまいながら、小さく息を吐いた。


「……せっかく面白くなりそうだったんだけどな」


ダンジョンからの緊急離脱。


理由は一つ。


“異常取締隊”からの招集。


政府直属。


異常犯罪専門の治安組織。


その隊員は、たった四人。


全員が異常者対策のスペシャリストだった。


「遅ぇぞアスト!!」


豪快な声が路地に響く。


白髪の老人。


大柄な体躯。


背には巨大な盾。


腰には長剣。


カルファ・ライク。


異常取締隊隊員。


「ガッハッハ! 女でも口説いてたか!!」


「今話題のダンジョンに言ってたんですよ」


アストは苦笑する。


カルファは笑いながら煙草を咥えた。


「要件は?」


「この国最大の犯罪組織——“バタフライ”」


カルファの目が鋭く細まる。


「その支部を二つ見つけた」


空気が変わる。


先程までの豪快さが消えた。


「もう二人は別支部へ向かってる」


カルファは剣の柄へ手を置く。


「俺達も行くぞ」


「……了解」


アストは静かに笑みを消した。


バタフライ。


この国最大規模の犯罪組織。


薬物の横流し。


闇金。


人身売買。


違法異常売買。


暴力。


殺人。


裏社会のあらゆる汚れ仕事に手を染める巨大組織。


構成員には一般の犯罪者だけでなく、

異常者も数多く所属していた。


政府ですら完全には潰し切れない。


巨大な“闇”。


その一角。


“第六支部”。


アストとカルファが向かう標的だった。


二人はカルファの運転する車に乗りながらその第六支部へと向かう。


「支部長はチェイス・ケッサ」


カルファが資料を放る。


アストは写真を見る。


細い男だった。


不気味に吊り上がった目。


口元には笑み。


「元は野良の快楽殺人者」


カルファは低く言う。


「人を殺して笑うタイプのクズだ」


かつては単独で活動していた異常犯罪者。


だが、その実力を買われ、

今ではバタフライ幹部の一人にまで成り上がっていた。


「諜報部の情報では実力で成り上がったタイプのようだ。用心しておけよ」


カルファの忠告に黙って頷きを返す。


黒塗りの車が高層ビル前で停止する。


見上げるほど巨大なビル。


ガラス張りの外壁。


一流企業のような外観。


だが、その実態は——


犯罪組織“バタフライ”第六支部。


ビルそのものを丸ごと所有しているらしい。


「派手だなぁ」


アストが呟く。


カルファは鼻を鳴らした。


「デカい悪党ほど、自分を隠さなくなる」


二人はそのまま正面入口へ入る。


受付嬢が営業用の笑みを浮かべた。


「本日はどのようなご用件で——」


「チェイス・ケッサに会いに来た」


瞬間。


受付嬢の笑みが止まる。


「……申し訳ございません。アポイントメントは?」


「ねぇよ」


カルファが警察手帳を見せる。


空気が変わった。


受付嬢の目から感情が消える。


次の瞬間。


机の下から拳銃を抜き、

カルファの頭部へ向けて発砲。


轟音。


だが。


弾丸はカルファの顔面数センチ手前で停止していた。


橙色のモヤ。


カルファの全身を覆う異常——“オーラ”。


自身の身体能力の向上や硬質化による防御が可能。


攻防一体の異常である。


「ガッハッハ」


カルファは笑う。


「挨拶が雑だな嬢ちゃん」


受付嬢が叫ぶ。


「侵入者!!」


直後。


周囲のスーツ姿の男達が一斉に銃を抜いた。


銃声がロビーを埋め尽くす。


カルファはオーラで弾丸を受け止める。


金属音が連続する。


一方アストは無数のナイフを周囲へ展開。


高速回転。


弾丸を次々と弾き落としていく。


「制圧します」


アストが指を鳴らす。


ナイフが展開して次々に組員を切り裂いていく。


悲鳴。


数秒後にはロビーには倒れ伏す組員達だけが残されていた。


「ガッハッハ! 雑魚ばっかだ!」


カルファは豪快に笑いながらエレベータへ乗り込む。


アストも静かに続く。


目指すは最上階。


チェイス・ケッサ。


その部屋。


だが。


上昇途中。


ピタリとエレベータが停止した。


「……来るぞ」


カルファが笑みを消す。


次の瞬間。


ドアが開いた。


同時に銃弾の嵐。


アストは即座にナイフを展開。


カルファは前へ出る。


オレンジのオーラが壁のように広がり、銃弾を弾き返す。


そのままカルファが踏み込んだ。


拳一発。


組員が吹き飛ぶ。


アストのナイフが喉元へ突き付けられ、次々と敵を制圧していく。


だが。


「グルルルル……!!」


獣の唸り声。


巨体の狼男が飛び込んできた。


さらに。


天井から黒い影。


赤い瞳。


吸血鬼。


「ッ!!」


吸血鬼の蹴りがアストの腹部へ炸裂。


凄まじい衝撃。


エレベータ壁面を突き破り、

アストの身体が高層ビル外へ吹き飛ばされた。


猛烈な風圧。


地上が遥か下に見える。


だがアストは冷静だった。


空中にナイフを生成。


足場代わりにすると空中で静止する。


その正面。


吸血鬼が蝙蝠の翼を広げながら浮かんでいた。


赤い瞳が細まる。


「へぇ……落ちねぇのか」


アストはナイフを構える。


「手間取らせないでくださいよ」


アストは若干苛立ちながら周囲にナイフを展開する。


猛烈な風が吹き荒れる。


遥か下には夜の街並み。


高層ビル外壁。


空中。


アストは足元に並べた無数のナイフの上へ立ちながら、静かに吸血鬼を見据えていた。


対する吸血鬼は蝙蝠の翼を羽ばたかせながら笑う。


「面白ぇ異常だな」


赤い瞳。


口元から覗く鋭い牙。


スーツ姿のままなのが逆に不気味だった。


「知ってるぜ、お前ら異常者取締隊は選りすぐりのエリートなんだろ」


吸血鬼が消える。


瞬間。


アストの首元へ爪が走った。


金属音。


ナイフが割り込み、爪を受け止める。


「速いですね」


「お前もなァ!!」


吸血鬼が笑いながら連撃を叩き込む。


空中とは思えない速度。


アストは後方へ跳びながらナイフを展開。


数十本。


弾丸のように放つ。


だが吸血鬼は空中で軌道を変え、ナイフの隙間を縫って突っ込んできた。


「ハハッ!!」


接近。


鋭い牙が迫る。


その瞬間。


アストの指が動いた。


空中に浮いていたナイフの軌道が一斉に変化。


四方から吸血鬼へ襲いかかる。


「ッ!?」


吸血鬼は翼を盾に防ぐ。


その隙。


アストは新たなナイフを足場に高速移動。


ビル壁面を蹴る。


吸血鬼の背後へ回り込んだ。


「そこです」


ナイフが閃く。


吸血鬼は咄嗟に回避する。


だが。


避けた先。


そこには既に別のナイフが待機していた。


「な——」


突き刺さる。


肩。


脇腹。


太腿。


吸血鬼の動きが止まる。


アストは静かに手を振る。


すると刺さったナイフ同士が連結。


一瞬で巨大な檻を形成した。


「チッ……!」


吸血鬼が力任せに破壊しようとする。


だが。


アストの目が細まる。


「終わりです」


無数のナイフが檻の外側から一斉回転。


金属の竜巻。


吸血鬼の悲鳴が夜空へ響いた。


◇


数分後。


アストはナイフを足場にしながら、破壊されたエレベータ階へ戻る。


内部へ入った瞬間。


「…………」


狼男が壁にめり込んでいた。


全身ボコボコ。


完全に沈黙している。


その近く。


カルファが煙草を吸っていた。


橙色のオーラを薄く纏いながら、豪快に笑う。


「ガッハッハ!!」


煙を吐き出しながらカルファが振り返る。


「遅ぇぞアスト!」


「そっちこそ終わるの早すぎません?」


「犬っころだったからなァ!」


カルファは狼男を親指で指す。


「骨の二、三本で済ませてやったぞ!」


「十分重傷です」


アストは苦笑する。


だが次の瞬間。


二人の表情が同時に変わる。


視線は上。


最上階。


チェイス・ケッサが待つ場所。


カルファが煙草を握り潰した。


「……行くぞ」


「了解」


二人は再びエレベータへ乗り込む。

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