宝物
ラックとアダアダは互いの肩を支え合いながら、重い足取りで次の部屋へと進んだ。
ラックは全身を襲う筋肉痛に顔をしかめ、アダアダは傷だらけの身体から未だ血を滲ませている。
「……お前重いんだけど」
「怪我人に言う言葉かよそれ……」
「俺も怪我人だ」
軽口を叩く声すら掠れていた。
だが、それでも二人は笑う。
死線を越えた直後だからこそ出る笑いだった。
「だけどまだ先公の使ってるとはな。新しいの使えばもっと楽に倒せただろ」
ラックは呆れながらアダアダに言う。
「しょうがねえだろ。俺の力は消耗品だ。おいそれと変更してらんねぇんよ」
アダアダは相変わらず屈託の無い笑みを浮かべながらことばをかえす。
次の瞬間。
視界が一気に開ける。
そこは今までの不気味な空間とは別世界だった。
壁も床も黄金。
眩いほどに輝き、中央には真っ赤なカーペットが一直線に伸びている。
その先。
まるで王座のように置かれた豪華な宝箱。
「……露骨にゴールだな」
ラックが警戒混じりに呟く。
アダアダは笑いながら宝箱へ近づいた。
「ここまで来てミミックだったら泣くぞ俺」
「安心しろ。俺は笑う」
宝箱には鍵穴が無かった。
罠を警戒しながらも、アダアダはゆっくり蓋を開く。
中にあったのは——
赤と青に輝く、水晶のネックレス。
炎にも氷にも見える、不思議な輝き。
そしてその横には、一枚の手紙。
アダアダが読み上げる。
「——これは私の作品で最も美しく優しい作品。必ずや所有者を救う事になるだろう」
部屋に静寂が落ちた。
ラックはネックレスを見つめる。
人間国宝アルファ・メトロボット。
その遺作。
「……どうする?」
ラックが聞くと、アダアダはネックレスを持ち上げ、そのままラックへ放り投げた。
ラックは反射的に受け取る。
「お前が持っとけ」
豪快に笑うアダアダ。
ラックは呆れたようにため息を吐く。
「これが目的だったんじゃないのか?」
顔をしかめながらラックが問いかける。
アダアダは肩を竦めた。
「いや、これはお前への報酬だ」
そう言ってネックレスをラックへ放る。
ラックは片手で受け取ると、赤と青に揺らめく水晶を眺めた。
「その代わり」
アダアダがニヤリと笑う。
「頼みを二つ聞いてくれ」
「……嫌な予感しかしねぇな」
「安心しろ。多分死にはしねぇ」
「“多分”を付けるな」
◇
数日後。
本屋『ルールオブ』。
カウンター席ではサイフォンが紅茶を飲みながらニヤニヤ笑っていた。
「いやぁ〜、まさかアダアダから返済の連絡が来るとはねぇ」
「うるせぇ……」
机に突っ伏すアダアダ。
その隣ではラックが無言で札束を机へ置いていた。
アダアダの頼み。
——借金返済。
異常者スクール時代から、アダアダはサイフォンに金を借り続けていた。
飯代。
娯楽代。
賭け事。
くだらない理由ばかり。
ラックは額を押さえる。
「お前よく生きてこれたな」
「ガハハ! 人脈って大事だろ?」
「借金を人脈って言う奴初めて見た」
その様子を、店の奥からアインが呆れ顔で見ていた。
「アダアダさんって思ったよりダメな人なんだね……」
「思ったよりじゃない。かなりダメだ」
ラックが即答する。
その横ではシバがアダアダの膝に顎を乗せていた。
「クゥ〜ン……」
「シバだけだよ俺の味方はぁ……」
アダアダがシバを抱きしめる。
するとサイフォンが書類を一枚取り出し、笑みを深くした。
「じゃ、利子分もよろしく」
場の空気が止まった。
「…………は?」
アダアダの笑顔が凍る。
サイフォンは満面の笑み。
「いやぁ、長年放置されてたからねぇ。結構増えてるよ?」
「ラァァァァァック!!」
アダアダが勢いよくラックに縋り付く。
「助けてくれ相棒!!」
「そこまでは約束外だ」
ラックは悪い笑みを浮かべながら即答した。
「ノォォオン!!」
アダアダの悲鳴がルールオブ中に響き渡る。
アインは腹を抱えて笑い転げ、シバは釣られて吠え始める。
サイフォンは楽しそうに紅茶を啜り。
ラックはそんな騒がしい光景を見ながら、小さく笑った。




